
ペストは黒死病とも呼ばれ、人の体内にペスト菌が入り込む事によって発症します。ペストに感染すると、リンパ腺が腫れてりんごほどにも膨れ上がり、身体中に青黒い斑点が多数現われます。激しい高熱に苦しんで意識不明となり、発病から3日後には、黒紫色に変色して死んでしまいます。その伝染力は凄まじいものがあり、あっという間に周囲に広がっていきます。
ヨーロッパでは14世紀に大流行し、数年の短期間にに全人口の約半分がペストの犠牲者になりました。墓穴を掘るのも間に合わず、路肩には死体が溢れかえりました。恐怖に打ちひしがれた中世の人々は右往左往し、聖人に助けを乞い、根の葉もない迷信を信じて助かろうとしました。ペストの流行は17世紀、18世紀にも何度か起きました。常に死におびえる時代に生きた画家たちはペストの恐怖を描き、後世に伝えました。当時の人々が体験した受難の作品9点をお伝えします。
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「ジュゼッペ・マリア・クレスピ作 18世紀」
ベルナルド・トロメイという聖人がペストに語り掛け、
死を終わらせてくれるよう、とりなしている場面。

「ドイツの彩色写本の挿絵 15世紀」
神が放っている死の矢を、聖人が止めてくれるよう祈っています。
当時、ペストは神の天罰であるという考えもありました。

「作者不明 死の勝利」
ペストを象徴する骸骨が死を振りまき、周囲の人たちは倒れて
恐怖におののいています。

「ピーテル・ブリューゲル作 16世紀 部分」
こちらも骸骨が大鎌を持ち、人間の命を刈っています。
人々は成す術もなく、ペストの脅威に逃げまどっています。
→ 死の舞踏、死の勝利の絵画をもっと見たい方はこちら

「マティアス・グリューネヴァルト作 祭壇画部分 16世紀」
ペストに感染した者は身体が膨れ上がり、紫の斑点が全身に表れます。
これは実際に見たことがある人にしか描けません。
事実、グリューネヴァルトはペストで亡くなっています。
→ グリューネヴァルトの絵画をもっと見たい方はこちら

「ミシェル・セール作 18世紀」
海辺にはおびただしい死体が。
生存者は惨たらしい死体の処理に追われます。

「エリー・ドローネー作 19世紀」
ローマで起きたペストを描いた作品。神に使わされた天使が無慈悲にも
死を振りまいています。天使は死の一面も持っているのです。

「二コラ・プッサン作 17世紀」
鼻を押さえて往来する人々。町は死の悪臭で満ちていたことでしょう。
子供たちが悲しくも道に転がっています。

「アーノルド・ベックリン作 19世紀」
竜にまたがった老婆の死神がペストを振りまいています。
過ぎ去るとこ死体が転がり、ペストの恐怖を如実に表している作品です。

中世の人々は菌に対する知識はなく、ペストを神か悪魔がもたらした超常現象だと思っていました。中にはネズミや死体が菌を媒介している、と正しい事を叫んでいる人もいましたが、聞き入れてもらえず、大多数の人は神や聖人に祈りを捧げ、救済を乞うていました。それ故に最悪の衛生状況となり、ペストを大流行させてしまいました。絵画にはペストの恐怖の他に、人々の迷信的恐怖、妄信的恐怖も表されていると思います。
大幅に減少したものの、現代においてもペストによる感染者はいなくなりません。また、ペストではなくても世界には多くの伝染病の危機が潜んでいます。日本にも新型インフルエンザの脅威がないとは限りません。もし何かがアウトブレイクした場合、正しい知識を持って臨んでいきたいですね。
→ 死神の絵画を見たい方はこちら
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>> 無一郎様へ
まだまだコロナウイルスの猛威は収まらず、重篤者や死者の方もみえるものの、中世ルネサンス時代のペストよりはましだと感じますね。
医療に携わっている方々には本当に頭が下がるばかりです。
中世にも不織布のマスクがあったらよかったのになぁ…。←ぇ