1255 – 1319 - コピー

 キリスト教の教えが広まる前に生きた善人は、天国か地獄かどちらに行くのだろう? 辺獄(リンボ)はそんな疑問から生まれました。キリスト教の洗礼が行われていなければ天国には行けないし、地獄に行くほど罪人ではない。では、その間の辺獄を作ってしまおう!という訳です。
 辺獄と煉獄は異なり、辺獄は未洗礼の善人、煉獄は地獄に行くほど罪深くはないけれど、天国へ行くほど清らかではない人が入る場所です。辺獄は産まれてすぐ亡くなってしまい、洗礼を受けられなかった赤子も行くらしいです。善人たちを救うためにキリストが辺獄へ降りたという逸話があり、それを「キリストの辺獄降下」と言います。ただ、辺獄と地獄は混同される部分があり、キリストは地獄へ降下したという逸話もあります。
 キリストが下っていって人々を救ったという「辺獄降下」を見ていきましょう。


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「アンドレア・ディ・ボナイウート作 14世紀」
古代の王や賢人らが祈っています。踏まれた悪魔はべリアル。
地獄へ向かう扉を守っていたとされています。
 1255 – 1319

「Andrea da Firenze 作 15世紀頃」
扉を押し倒して、やっぱり悪魔を踏んでいるキリスト。右側では信号機色
の悪魔達が恨めしそうに様子を眺めています。
Descent of Christ to Limbo - by ANDREA DA FIRENZE

「アーニョロ・ブロンズィーノ作 1552年」
マニエリスム期の作品。人々がひしめき合い、キリストの到来を祝福
していますが、セクシー裸体を描く理由は流行りだからでしょうか。
Bronzino, Descent of Christ Into Limbo, 1552

「ヒエロニムス・ボスの追随者作 1550年」
題名は辺獄なのに、怪物だらけの阿鼻叫喚です。
キリストは人々を救うどころか悪魔を退治しようとしているように見えます。
 1550

「ヒエロニムス・ボスの追随者の作品  1575年」
上記の作品と構図が殆ど同じなので、参考にして描いたのでしょうか。
異形の怪物がびっしりと画面を埋め尽くしています。
Christ In Limbo by Hieronymus Bosch, 1575

「ヤン・ブリューゲル(父)作 1593年」
金色に輝くキリストに救いを求めようと走る人々。
キリストの構図は上の作品の影響を受けていそうです。
Jan Brueghel The Elder - Christ in Limbo, 1593

「ヤン・ブリューゲル(父)作 1594年」
翌年にほぼ同構図で描いています。群がる人々が手前になり、キリスト
が手を差し伸べています。怪物たちは相変わらずいっぱい。
Jan Brueghel The Elder - Christ in Limbo, 1594

「ヤン・ブリューゲル(父)とハンス・ロッテンハマーの合作 1597年」
キリストが苦しむ人々に救済の手を差し伸べていますが、この情景は
辺獄ではなく地獄状態ですね・・・。
Jan Brueghel The Elder and Hans Rottenhammer 1597

「ヘリ・メット・デ・ブレス作 16世紀」
悪魔の口から出る人々をキリストが救おうとしていますが、おまけ状態で、
ボス調の怪物が手前で遊びまくっています。
herri met de bles 16century

 もう一度言います。辺獄は未洗礼の善人が集う場所です。キリストが彼らを天国へ引き上げようと、救済するお話です。後半の作品はいったいどうしたことでしょう。キリストと魑魅魍魎とのバトルになってしまっています。
 通常の辺獄降下の作品は他にも勿論あり、中世の作品の殆どがそうです。ですが、北方ルネサンスの画家たちは違う視点で「キリストの辺獄降下」を扱いました。同じテーマでもこんなに作品の趣旨が違うのです。このテーマは怪物を描くうえで非常に魅力的なんでしょうね。



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