Bartolomeo Manfredi (1616-20) -

 ギリシャ神話の中に、アポロンがマルシュアスの皮を剥ぐという残酷な話があります。
 ある日、サテュロスであるマルシュアスは木管楽器を拾いました。その笛はアテナが捨てたものでしたが、彼は器用だった為にやがて名手となりました。他のサテュロスやニンフにもてはやされ、調子に乗った彼は「俺が世界一の音楽家だぜ!アポロンの竪琴なんかよりな!」と豪語するようになります。怒り心頭のアポロンは「俺と勝負しろ!」と言い、勝者は敗者に何をやってもいいというルールを付け、二人は音楽合戦をすることになりました。審判者はアポロンの従者ムーサ。陰謀めいた音楽勝負は、もちろんアポロンの勝利。
 刑罰は恐ろしいものでした。アポロンは彼を木に吊るすと、生皮を剥がし出したのです。激痛に泣き叫ぶマルシュアスをアポロンは無視します。皮を剥がされ尽くしたあと放置され、彼は絶命します。その時に流された血がマルシュアス河となったとされています。(一説にはサテュロスやニンフ達の涙が河となりました)
 合戦の末に残虐な刑となった絵画10点をご覧ください。閲覧注意となります!


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「パルマ・イル・ジョーヴァネ作  16世紀後半-17世紀前半」
音楽合戦開始です。圧倒的有利な立場に、アポロンは余裕顔。
アポロンの楽器は竪琴、マルシュアスは二本の管のついた木管とされている
ものの、異なる楽器を持っています。画家によって違い、結構自由です。
Palma Giovane

「フランチェスコ・プリマティッチオ作  16世紀」
アポロンの勝利の中、王様の耳はロバの耳で有名なミダス王は、
マルシュアスを支持したそう。この絵画はそれを表しています。
マルシュアスを指さすミダス王を、皆が不審げに見ています。
Studio of Francesco Primaticcio 16

「Giovanni Battista Zelotti 作   1580年」
勝負に敗北したマルシュアスは、早速皮を剥がされようとしています。
サテュロスは顔を背けていますが、アポロンの仲間に見える女性は
楽しそうに見物しています。
Giovanni Battista Zelotti 1580

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  17世紀」
身をよじって痛がるマルシュアスを完璧に無視。黙々と作業を行っています。
それにしても、ルーベンスの描いた人体はムキムチですなぁ。
apollo-marsyas_peter-paul-rubens_17

「バルトロメオ・マンフレディ作   1616-20年」
やめてくれよぉ・・・と懇願しているものの、無表情を貫く。
アポロンは人間の戦争の真っただ中で死の矢をばらまくこともあり、
怒らせたら本当に恐ろしい事をしてのけます。
Bartolomeo Manfredi (1616-20)

「Antonio de Bellis 作  17世紀半ば」
悪魔のような角と耳をしたマルシュアスが、足をべろりされています。
アポロンは理性、マルシュアスは情念を象徴し、理性と欲望の対立、
欲望の敗北として解釈することもできるそうです。
Antonio de Bellis, 1616-1658 m

「ホセ・デ・リベーラ作   17世紀」
また、この物語は神に近付こうとした傲慢の罪への罰
(バベルの塔やイカロスなど) とも読み取ることができます。
→ バベルの塔について知りたい方はこちら
Jusepe De Ribera

「ディルク・ファン・バビューレン作  17世紀前半」
皮を剥がされ終えたマルシュアスは放置され、、
死んでしまいます。背後でニンフ達が凄い表情で嘆いています。
Dirck van Baburen

「ルカ・ジョルダーノ作  17世紀後半-18世紀前半」
女の子座りをしたマルシュアスの足を踏み付けにしながら、
楽しそうに皮を剥ぐアポロン。鬼畜すぎます。
Luca Giordano

「Massimo Stanzione 作   1640年」
ほらね、皮がべろーりと綺麗に剥がれただろう?
Apollo Flaying Marsias, 1640

 思想哲学では理性を象徴するアポロン、欲望を象徴するデュオニュソス(豊穣の神)として紹介されておりますが、個人的にアポロンの行動は理性的に思えないのですが・・・。エロスの矢の影響を受けたとは言え、美女ダフネを追いかけ回したアポロンは理性的なのでしょうか。理性的な思考でマルシュアスの皮を剥いだとしたら、恐ろしすぎます。神話の話なので、斜めに考えるのはよくないと思うのですが、マルシュアスがとても可哀想に感じてしまいます。

→ アポロンとダフネについて知りたい方はこちら
→ 聖バルトロメオについて知りたい方はこちら



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