tyr fenrir -

 北欧神話の軍神チュール(テュール、ティールとも)は、魔狼フェンリルを縛る為に右腕を犠牲にしたという、果敢な話で知られています。
 ロキの子供であるフェンリルは神の国アースガルズで育てられていましたが、みるみる巨大化していき、手に負えなくなってしまいました。フェンリルが恐くて神々は餌やりを嫌がり、与えることができたのはチュールだけでした。
 ある日、神々は狼を縛ってしまおうと決めました。しかしフェンリルはたくましく、生半可な縄では直ぐに壊されてしまいます。そこで神々は小人達から魔法の紐を作ってもらうことにしました。脆そうに見える紐にフェンリルは警戒し「魔法がかかっていない証拠に、俺の口に腕を入れろ」と持ち掛けます。ためらう神々。ペテンする気満々なのだから、腕は喰われるに決まっています。しんと静まり返った中、無言でチュールが歩み出て、右腕を口に差し込みました。すかさず神々は狼の身体に紐を巻き付けます。魔法の力が発揮され、フェンリルがどんなにもがいても紐をちぎることができませんでした。神々が大喜びする中、チュールは食いちぎられた右腕を押さえていたと言われています。
 戦神の生命線である右腕より、仁義を選んだチュール。チュールとフェンリルの作品11選をご覧ください。


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「1909年創刊「HEROES OF ASGARD」の挿絵 HUARD画 1909年」
大きく狂暴になってきたフェンリルに、餌を与えているチュール。
しかし、それも限界が。神々はフェンリルを縛り付けておくことを決めます。
 Keary

「Rona F. Hart 作のイラスト  1914年」
二度頑丈な鎖を作るものの、強力な力で簡単に壊されてしまいます。
会議の結果、魔法の紐「グレイプニル」を小人に作らせることにしました。
 Hart

「Wilhelm Petersen 作  1938年」
「魔法ではない証明に、俺の口に手を入れろ」
そのフェンリルの要求に誰も動かない中、チュールは無言で右腕を差し出します。
Wilhelm Petersen

「C.E Brock 作  20世紀前半」
神々はすかさずグレイプニルをフェンリルに巻き付けました。
ペテンだと察し、狼はチュールの腕に噛みつきます。
トールの頭がもっこもこで可愛い・・・。
tyr fenrir

「ヨン・バウエル作  1911年」
フェンリルはチュールの腕に噛みつきます・・・。
激しいシーンをあえて静かに描いており、神妙な静寂感が漂っております。
1911 by John Bauer

「作者不明  1900年代前半の本の挿絵」
神々は狼をぐるぐる巻きにします。紐の魔法効果は絶大で、
フェンリルがどんなにもがいても外れません。
何気なく小人が手伝っているところが可愛いですが、実際には参加しておりません。
early 1900s


「18世紀のアイスランドの写本」
古代北欧の絵は独特で、フェンリルが猪みたいにみえます。
口からはみ出ている手が面白シュールです。
槍を持ったオーディン(?)のにやつき方が不気味・・・。
18th-century Icelandic manuscript

「ジョージ・ライト作  1908年」
縛られたフェンリルを見て、神々は大いに喜び笑います。
それどころじゃないチュールを除いて。
1908 by George Wright

「エミール・ドプラー作  19世紀後半-20世紀前半」
んー?大丈夫かー?と言った感じの仲間に、チュールは無表情。
平静さを装ってはいますが、内心激痛の嵐です。さすが、仁義の男!
Emil Doepler's

「17世紀のアイスランド写本」
がんじがらめにされてしまったフェンリルは口に剣を差し込まれ、
ラグナロクが訪れる時までそのままにされます。
神々に対する憎しみの念は膨れ上がり、狼の巨大化は続いていきます。
A 17th-century manuscript

「A. Fleming 作  1874年」
やがてこのような姿になり、オーディンを呑み込むのだろう・・・。
 Fleming

 公正の神でもあるチュールは、審判者としての役割も担っていました。しかし、隻腕になってしまったことで権利は剥奪されてしまい、バルドルの息子フォルセティが代わりに努めることになりました。そして、チュールはラグナロクの到来まで神々の国を守り続け、最期は地獄の番犬ガルムと相打ちになって命を落とします。彼の利き腕が無事なら勝っていたかもしれず、なんだかイヌ科の魔物に因縁があるなぁと思わずにはいられません。
 男気を出して腕を失ったことで、残念な結果になってしまった軍神チュールでした。

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