Paul Delaroche 1840 -

 ナポレオン・ボナパルト(1769-1821)はフランス革命期の軍人、政治家であり、ナポレオン一世として皇帝にも即位しました。
 コルシカ島に生まれたナポレオンはフランスへ行き、陸軍士官学校を卒業します。砲兵士官へ入ると、まもなくフランス革命が勃発します。王党派を支持するイギリスやスペインの艦隊を砲撃で追い払い、この功績によって一気に昇進することになります。一度は逮捕されるものの、反乱を鎮圧する為にナポレオンは呼びだされ、戦う度に彼の功績は増してゆきました。1798年にはエジプトを支配し、国民の英雄となっていました。その時には、総裁政府は弱体化しており、ナポレオンはクーデターを決行して政府を倒し、フランス革命に終止符を打ちました。
 フランスの全権力を握ったナポレオンは征服戦争を展開し、1804年にナポレオン一世としてフランス皇帝となります。しかし、ロシア遠征が失敗したことによって事態は急転し、彼は退位させられます。一度は復権しましたが、1815年のワーテルローの戦いに敗れてセントヘレナ島に流され、そのまま人生の幕を閉じました。

 ナポレオンの肖像画を多くの画家が描きました。ただ、その絵画が両極端で、彼を美化してイケメンに描く画家と、彼をありのままか、それより酷く描く画家の二者が存在しました。
 小男で小太りと噂される、ナポレオンの理想と現実の絵画12選を、両者を比較しながらご覧ください。



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皇帝ナポレオンの理想


「ジャック・ルイ・ダヴィッド作  1802年」
お抱えの専業画家だったダヴィッドの作品。おそらくナポレオンの絵画
で一番有名な作品でしょう。白馬に軽やかに乗る長身でイケメンの
姿。指導者として、誰もが理想とする姿です。
jacques louis david  1802

「アンドレア・アッピアーニ作  1754-1817年」
軍人だけどムキムキすぎず、しなやかで強い色男を表している絵画。
ナポレオンは婚約者を捨てて愛人ジョゼフィーヌと結婚しましたが、
彼女が不妊だった為、彼女を捨ててオーストリア皇女と結婚しました。
Andrea Appiani Napoleon

「アンドレア・アッピアーニ作  1754-1817年」
きらびやかな衣装をまとい、王冠を手にする威厳ある姿のナポレオン。
筋骨たくましく、皇帝にふさわしい姿で描かれています。
Andrea Appiani


皇帝ナポレオンの現実


「ドミニク・アングル作  1806年」
こちらは現実の姿を豪華絢爛に表した、アングルの代表作品。
皇帝の衣服に身を包み、権威の強さが表に出ていますが、ナポレオンの
容姿は理想のものではなく、現実に近いものとなっています。
ドミニク・アングル 1806

「ジャック・ルイ・ダヴィッド作  1812年」
ナポレオンの代表作から10年後。ダヴィッドは彼を等身大の人物として
描いています。身体は小太りで、小柄、頭は少し薄くなってきています。
身長は167、8 センチと推定されています。
ナポレオンの素顔で一番近いのは、この絵画なのではないでしょうか。
Jacques-Louis David, 1812

「ポール・ドラローシュ作   1848年」
ロバ(ラバ?)に乗るナポレオン。彼は乗馬が得意ではなかったようで、
ロバに乗ることが多かったそう。
(一説にはアルプスを越えるのにはロバが好都合だったとされる為)
Paul Delaroche in 1848


理想


「19世紀のロマン派の画家作」
イタリアの都市パヴィアはかつてオーストリアの支配下にありましたが、
1796年にナポレオンが占領しました。この絵画のナポレオンはまるで
貴族のモデルのようで、画家の理想が入り混じってしまっています。
Napoleon at revolt of Pavia in 1796  19th

「ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエ作  1815-1891年」
おそらくロシア遠征を行っている絵画。灰色の衣服を着るナポレオンは
強面の軍人に描かれ、絵画に映えるよう白馬に乗っています。
Jean-Louis-Ernest Meissonier 1814


現実


「ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエ作  1815-1891年」
どでーん、という効果音が似合いそうな作品。上記と同画家で、馬は
白馬なのですが、何を思ってこう描いたのでしょう。
不機嫌そうな顔で、こちらを睨んでいます。
napoleon-bonaparte-jean-louis-ernest-meissonier

「ポール・ドラローシュ作  1840年」
ひとかけらの理想もなく、ただ現実を見つめてしまいました。
晩年ナポレオンは小太り、小柄、薄毛の三拍子だったと言われています。
ただ、目だけは非常に鋭く、「背は小さくとも私の精神は大きい」と周囲に
言っていたそう。
Paul Delaroche 1840


輝くような理想と・・・


「アントワーヌ・ジャン・グロ作  1801年」
もはや真実のナポレオンは微塵もなく、こてこての理想の姿が描かれています。
彼のフランスに変化をもたらそう、という精神には猛々しく崇高な部分が
あると思いますが、それにしてもイケメンに描きすぎです。
Baron Antoine-Jean Gros, (1801)


悲しい現実・・・・・・


「オラース・ヴェルネ作  1826年」
ナポレオンの死から5年後に描かれた作品。額には勝利の証、胸には
十字架が置かれています。ヴェルネはナポレオン三世のパトロンであった為、
ナポレオンに会った事がありそうです。「絵を描く軍人」と評された彼だから描ける、
極めて現実に近いナポレオンの死の姿だと思います。
Horace Vernet, 1826

 ナポレオンの絵画を調べてみて気付いた事は、同画家がナポレオンの作品を何枚も描いている事です。
 ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエの作品は格好良く描かれたものと、悲惨に描かれたものの差がかなり激しいです。彼は1815年の生まれなので、物心ついた時にはナポレオンの治世は終わっていたはず。音楽家のベートーヴェンみたいに「皇帝になってこんちくしょー!」とはならないでしょう。ナポレオンの理想と現実の両方の姿を描きたかったのでしょうか。
 ポール・ドラローシュの描くナポレオンはロバに乗っているものと、ずでんと座ったものなので、ナポレオンに対する嫌悪感がひしひしと感じられますね・・・。ドラローシュはナポレオンの治世よりかなり後の生まれですが、強く反感を持っていたのでしょうかね。




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