Abraham JANSSENS -

 ギリシャ神話に登場するケパロスとプロクリスは、愛のすれ違いによって悲劇を生んだ夫婦です。
 ケパロスは狩猟が大好きな若者でした。それを見かけた女神エーオースはケパロスが好きでたまらなくなり、彼を攫ってしまいました。しかし、彼はプロクリスという妻をめとったばかりで、女神の愛を受け入れませんでした。怒ったエーオースは「お前の妻は節操のない女だ。試してみろ」と吐き捨てました。不安に思ったケパロスは女神の力を借りて別人に変装し、プロクリスの元へ向かいます。変身したケパロスが贈り物をすると、妻の心が揺らいだので、彼は正体を明かしてそれを非難します。プロクリスは後悔し、家を出て女神アルテミスのように狩猟生活を始めました。

 後に二人は仲直りをしました。しかし、ケパロスは狩りをしている際、そよ風にこんなことを言いました。「さぁ、アウラー(甘いそよ風)よ。僕の熱い胸を冷ましておくれ!」それを聞いた第三者が恋人に話しかけているのだと思い、プロクリスに伝えました。彼女はいてもたってもいられず、山へ探しに行きます。そこで夫が「アウラーよ、愛しているよ!」と言っているのを聞いて、彼女はうめき声を発しました。その声を獲物だと勘違いしたケパロスは槍を投げ、武器は妻の胸にあやまたず貫きました。自らの過ちに気付いた彼は慌てて刺さった槍を抜こうとしますが、プロクリスは「お願いだから、アウラーとは結婚しないで!」と言ったっきり、息を引き取りました。
 愛のもつれによって命を落とす、ギリシャ悲劇の典型とも言えるような二人の絵画12点をご覧ください。


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「二コラ・プッサン作  1630年」
女神エーオースはケパロスが愛しくなり、猛アピールをしますが、彼は
聞き入れませんでした。気だるそうに寝ているサテュロスや、二人いる
エロス、白馬のペガサスが愛や欲望を象徴しています。
Nicolas_Poussin  1630

「Alessandro Turchi 作  1578‐1649年」
妻の不遇を疑ったケパロスは別人に変装し、彼女を試します。贈り物に
よって揺らいでしまった彼女の心を、彼は責め立てます。
という話なのですが、絵画はあれ?おじさんがいる・・・。
プロクリスさんって、もしかしておじさんフェチ!?
of Alessandro Turchi

「フィリップ・ド・シャンパーニュ作  1630年」
反省した彼女はアルテミスのように狩猟生活を営みますが、
後に二人は仲直りをします。和睦の印として、プロクリスは狩猟犬と
強力な槍を彼に差し出します。
Philippe de Champaigne 1630

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1577‐1640年」
平和も束の間、今度はケパルスが「アウラーよ、愛しているよ!」と
言っているのを第三者が聞いてしまいます。それを知ったプロクリスは
山にいる彼を尾行し、彼女も夫の言葉を聞いてしまいます。
ルーベンス作の彼女が策士めいていてかなり怖いです。
Peter Paul Rubens

「ヘンリエッタ・レイ作  1859‐1928年」
ショックの余りにうめき声を洩らしてしまったプロクリス。その声を獲物
と勘違いをして、ケパロスは槍を思いきり投げてしまいます。
しかし、見てみると槍は愛しの妻に刺さっているではありませんか。
彼は慌ててプロクリスの元へ駆けつけます。
Henrietta Rae

「Alexander Macco 作 1793年」
こちらの絵画は脇腹に槍が刺さり、ケパロスは風神雷神のようなポーズを
して驚きを表現しています。彼はショックのあまり、声も出ません。
Alexandar Macco 1793

「バルダッサーレ・ペルッツィ作  1481‐1536年」
背後になんか大量の神々がおります。定かではありませんが、
馬車に乗っているのは冥界のハデスとペルセポネですかね・・・。
迎えに来た?真ん中の飛んでいる人は風の神様なのかしら・・・?
Baldassarre Peruzzi, 1481 1536

「パオロ・ヴェロネーゼ作  1580年」
「どうして君がここに!?」という問いかけに、妻は息も絶え絶えにこう
応えます。「もし私を愛しているのなら、どうかアウラーと結婚しないで」と。
それで全てを悟ったケパロス。単にそよ風に向かって言った独り言が、
勘違いされてしまったのです。
 1580

「ヨアヒム・ウテワール作  1595 - 1600年」
絵画によって武器が槍だったり、弓だったりします。このケパロスは弓を
使用していますね。彼は妻に真実を語ります。「アウラーはそよ風で、
女の名前じゃない。君を愛しているよ」よ。
Joachim Wtewael 1595 - 1600

「Theodoor Rombouts 作  1610年」
それを聞いた彼女は安心し、静かに息を引き取ります。
このプロクリスさんの肉体がたくましすぎる・・・。ケパロスより鍛えて
いるように見えますよ。上腕二頭筋とかムッキムキです。
Theodoor Rombouts  1610

「ジャン・オノレ・フラゴナール作  1755年」
ロココ絵画の巨匠フラゴナールは、甘美にロマンチックにこのシーンを
描いています。生の赤、死の青の比較が印象的です。
Jean-Honore Fragonard  1755

「アブラハム・ヤンセンス作  1567‐1632年」
こちらの作品も赤と青の対比を行っています。プロクリスの真っ白な
肌が強調されており、死の悲劇性を露わにしています。
あれ。よーく見ると、プロクリスさんも矢を持っている。まだ生きている?
Abraham JANSSENS

 愛し合う二人ではあったけれど、互いの愛に対して疑心暗鬼になってしまい、結果悲劇を招いてしまう。この話は極端ですが、現代でもちょっとしたすれ違いでヒビが入ったり、喧嘩になってしまいがちだと思います。ほんの少しのズレが大きな悲しみを生むことは、よくあることのように感じます。
 なかなか難しいことだとは思いますが、相手を信じる寛容な心が持てるようになりたいですね。



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