ボスクラナッハ比較

 ヒエロニムス・ボスの最後の審判の画像を検索していた時、画質の高い綺麗な画像が出てきたので、ぽちっと押してみました。すると、「ん?何かが違う?色がおかしいような・・・」と。そして、画像をアップしてみたら「そっくりだけど、ち、違う・・・!これは誰だ?」
 作者を調べてみたら、「ルーカス・クラーナハ(父)」となっていました。クラーナハ(1472–1553)はドイツで活躍した北方ルネサンスの画家です。2016‐17年に東京でクラーナハ展が行われていたので、知っている方も多いのではないでしょうか。彼は妖艶な女性を得意とした多産の画家なのですが、ボスの最後の審判を模写していたなんて、初めて知りました。調べてみると、クラーナハは1508-9年頃にフランドル旅行をしており、そこで最後の審判に出会ったようです。当たり前なことですが、カメラや画集がない当時では毎日実物を見ながら模写をしたのでしょう。
 今回はヒエロニムス・ボスの真作と、ルーカス・クラーナハの模写を比較していきたいと思います。やはり同じ作品でも、画家の個性がきらりと表れますよ!

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二つの最後の審判


ヒエロニムス・ボス

最後の審判 (4)

ルーカス・クラーナハ

Lucas Cranach the Elder (1472–1553)

 色彩はなんとなく違いますが、絵画の構成はほぼ同じです。色味も画像による相違なのかなと思ってしまえば、見逃してしまうレベルです。近くで見ないとほとんど区別が付かないくらいのように感じます。私はしっかりと騙されました。では、詳細を見ていきましょう!



7つの場面の比較


1.中央パネル左下

ボス
料理

クラーナハ
料理 (2)

 怪物の配置や表情まで、洩らさずに緻密に模写されているのが分かります。ボスよりクラーナハの人や怪物の方が身体がしっかりしているように見えます。でも、よく見ると左側の岩部分にモチーフが追加されているのが分かりますね。・・・いえ、もしかしたら16世紀の頃にはあったかもしれませんね。ボスの作品の方が後世に加筆された可能性もありますから。


2.中央パネル左付近

ボス
教皇

クラーナハ
教皇 (2)

 女性がこちらを向いて挑発するように微笑んでいます。この頃から既にクラーナハの美女の妖艶さが感じられますね。教皇の姿をしたグリロス(右)は、ボスでは不機嫌そうな顔をしていますが、クラーナハはマジ切れをしているように見えます。


3.中央パネル中央付近

ボス
回転

クラーナハ
回転 (2)

 お椀を被ったグリロスがクラーナハだと禿げたおじさんになっていますね。左側の酷使されている二人のうち、一人が「助けて」と訴えるようにこちらを見ています。表情の違いを見比べるのは楽しいです(笑) 細いトゲの一本一本に至るまで丁寧に模写をしているのは、巨匠だから成せる技ですよね。


4.中央パネル右隅

ボス
ナイフ

クラーナハ
ナイフ (2)

 二つの作品をよく見比べてみると、ボスが青色にしている部分を、クラーナハは灰色や緑で塗っている部分が多いということが分かります。クラーナハは青みをあまり用いていないのは、当時青色は高価な為に(恐らくラピスラズリ)、依頼ではなく模写だから青が用いられなかったのかな・・・と想像します。ヨハネス・フェルメールもラピスラズリの青の為に貧乏になってしまったそうなので・・・。


5.中央パネル左隅

ボス
グリロス

クラーナハ
グリロス (2)

 手前のグリロスの表情が凶悪そうに見えますね(笑) ボスのものとは違い、ここ辺りのエリア一帯が赤茶色ではなく黄土色になっているのは、何か思うところがあったのでしょうか。青みが少ない絵画のバランスを取るためなのかな・・・?と邪推します。この黄の色彩の影響で、クラーナハの方は乾燥地帯のようなイメージになっていますね。


6.左パネル下側

ボス
アダムとイブ (2)

クラーナハ
アダムとイブ

 画家の個性はやはり人体が一番よく表れますね。ボスは細身の人体であるのに対し、クラーナハは肉体的な感じをしています。神が前かがみに描かれていたり、アダムとイブのラインが曲線的になっているのは、絵に動きを付ける為でしょうか。やはりイブの表情がどことなくセクシーに感じられます。


7.右パネル中央付近

ボス
右パネル (2)

クラーナハ
右パネル

 右の火を吐いている緑の怪物の容姿が全く違いますね。丸鼻でちょっとぽっちゃりめ。クラーナハの作品はこのような人を描くイメージがあります。鳥が二羽いて穴がある下の部分は、ボスの方が蛇?みたいなのがうぞうぞいるのに対し、クラーナハははしごが描かれています。そこは描き変えるこだわりがあったのでしょうか。それとも、そこも後年の加筆の影響・・・?


まとめ


 大きい作品なので、きっと模写をするだけでも数か月かかってしまいますよね。多少の変化はあれども人体一人洩らさない完璧な模写をしたのは、クラーナハがボスの作品を「素晴らしい!」と一目置いていたからだと思います。クラーナハはフランドル旅行で多くの作品と出会い、ルネサンスの絵画様式に触れて影響を受けました。その後、裸体の独特でセクシーなヴィーナス像を描いたそうです。
 巨匠も先人達に倣って模写をすることで、自らのスタイルを見つけていくのですね。



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