Boreas abducts Oreithya - by Peter Paul Rubens -

 ピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)はバロック期に活躍したフランドルの画家、外交官です。
 両親は迫害によりベルギーのアントウェルペンからドイツへと避難し、そこでルーベンスを生みました。彼が10歳の時に父親が亡くなり、故郷へと戻ります。そこでルーベンスは様々なことを学び、貴族の未亡人の小姓となります。芸術の才能を認められた彼は画家組合に入会し、当時の主要な画家に指導を受けながら先代の作品の模写を徹底して行うことで、一人前の画家となりました。23歳の時にイタリアへ向かい、ルネサンスの巨匠の作品を吸収し、古代ギリシャの作品を学びました。その三年後には外交官としてスペイン王フェリペ3世の元へ赴き、絵画の制作依頼を受けながら各地を転々としました。しかし、ルーベンスが31歳の時に母親が亡くなり、アントウェルペンへ帰郷。ネーデルラント君主の妃イサベルの宮廷画家となった彼は故郷に工房を持ち、幾多の依頼を受けました。

 弟子を入れたルーベンスの工房は組織化し、中には美術館や図書館がありました。ルーベンスが構図や下絵、仕上げを施し、弟子が拡大や中途作業を行いました。弟子の特性を理解し、任せる者を景色や動物によって変え、賃金は描いた分量により決めていたそうです。弟子の中で一番頭角を現したのがアンソニー・ヴァン・ダイクで、共同制作する時もありました。その後、ルーベンスは外交官を行いながら各地で肖像画や連作を手掛け、国際的に有名となりました。晩年は故郷周辺で仕事をしながら暮らしていましたが、痛風を患っていた彼は1640年5月に心不全により亡くなりました。現在故郷の聖ヤーコプ教会に静かに眠っています。
 ルーベンスの作品は数限りなくあり、どれを紹介して良いか迷ってしまいましたが、あえてあまり観たことがないマイナーそうなものを選びました。作品は年代順に並んでいます。では、バロック時代の多産の巨匠ルーベンスの絵画15点をご覧ください。

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「デモクリトスとヘラクレイトス  1603年」
この二人は古代ギリシャの哲学者です。ヘラクレイトスは万物は
常に変化するもの、火だと考え、デモクリトスは小さいブロック状のもの、
アトムが万物を構成すると考えていました。この二人は時代が異なり
ますが、依頼者の要望の為か揃ってカメラ目線をしています。
democritus and heraclitus by peter paul rubens

「聖グレゴリウス1世の法悦  1607年」
6世紀頃のローマ教皇であり、聖人とされています。グレゴリオ聖歌は
彼が由来しているとか。右側の女性は聖ドミティラ。ローマ帝国時代の
フラウィウス朝の王クレメンスの妻です。両側の者達も聖人となっており、
依頼人の守護聖人たちなのでしょうか。
The Ecstasy of St Gregory the Great 1608

「羊飼いの礼拝  1608年」
東方三博士がキリストの元へ来る前、羊飼いが野宿をしていると
天使が現れて「ダヴィデの町で救世主が生まれた」と告げました。彼等は
早速そこの場所を探しあて、幼児キリストを礼拝した、というお話。
マイナーな題材だと思ったら、結構作品があるんですね。
Rubens_Pieter_Paul-Adoration_of_the_Shepherds

「幼児虐殺  1611-12年」
救世主の誕生を危ぶんだヘロデ王がベツヘレムに住む2歳以下の
男児全てを殺すよう命じました。キリストの父ヨセフと母マリアは
御告げによりそれを知り、エジプトへ逃亡して難を逃れたのです。
Peter_Paul_Rubens_Massacre_of_the_Innocents 1611-12

「三位一体  製作年不明」
磔刑されて絶命したキリストを中央にして、それを支える至高神、
聖霊を象徴する鳩が描かれています。この三体は一つの存在として
確立しており、三位一体と呼ばれています。
→ 三位一体(トリニティ)についての絵画を見たい方はこちら
Holy Trinity - Peter Paul Rubens

「ガニメデの拉致  1611-12年」
ギリシャ神話の美青年ガニメデ(ガニュメデス)は最高神ゼウスにより
オリュンポスへ拉致され、神々の給仕係となりました。その経緯は
給仕を務めていた女神へーべーがヘラクレスへと嫁ぎ、席が空いた為、
美形のガニメデを代わりにさらってきたという次第です。
The Abduction of Ganymede 1611-12 rubens

「四つの世界  1612-14年」
これらの人物画は大陸と河川の寓意で、女性がアジア、アメリカ、
ヨーロッパ、アフリカの大陸、男性がその代表的な河川を意味しています。
一番左がヨーロッパ、その下がアフリカ、右奥がアメリカ、右手前が
アジアであるそう。虎とワニがだいぶリアルに描かれていますね。
The Four Parts Of The World 1612-1614

「聖家族  1614年」
幼児のヨハネとキリストが聖霊の鳩で遊んで(?)おり、マリアとヨセフ、
ヨハネの母である聖エリザベスが見守っています。聖画ですが、
人間味があって親しみが持てる作品ですよね。
 John

「オレイテュイアを誘拐するボレアス  1615年」
ボレアスは北風を運ぶ風の神で、アテナイの王女オレイテュイアを
誘拐してしまいました。彼は最初言葉での説得を試みていましたが、
駄目だと分かると暴挙に出てしまったのです。
Boreas abducts Oreithya - by Peter Paul Rubens

「十字架降下  1617-18年」
ネロが見た祭壇画のものが一番有名ですが、ルーベンスは他にも
たくさんの十字架降下の作品を描いています。白く光るキリストを
中心にして、母マリア、マグダラのマリア、右には使徒ヨハネがいます。
左のおじさんは遺体を埋葬したとされるアリマタヤのヨセフでしょうか。
Peter_Paul_Rubens_-_Descent_from_the_Cross

「マクシミリアン一世  1618年」
彼は神聖ローマ帝国の皇帝です。武勇に秀でており、
ハプスブルク家の繁栄に貢献したことから大帝と呼ばれています。
ルーベンスはハプスブルク家の者達と深く関わっていたので、
彼等から依頼を受けたのでしょう。
Maximilian I rubens

「牧神パンとシュリンクス  1617-19年」
ギリシャ神話のパンは乙女シュリンクスに恋をして追いかけますが、
彼女は嫌がって身体を葦に変えてしまいます。ルーベンスが愛や
誘拐系が好きなのではなく、そんな依頼が多かったのでしょうね。
→ 牧神パンについての絵画を見たい方はこちら
Pan_syrinx_Rubens

「フィレンツェでのプリンセスの誕生   1622-25年」
フランス王妃マリー・ド・メディシスの誕生を描いた作品で、24点の
連作の中の一つ。ルクセンブルク宮殿にと彼女に委託されました。
メディチ家で生まれ、フランスに嫁いだマリーの人生の苦悩や勝利を
描いたその連作は「メディチ・サイクル(メディシスの生涯)」と呼ばれました。
The Birth of the Princess, in Florence  1622-25

「不幸に勝利する栄光のヘラクレス   1633年」
チャールズ1世が宴会場の天井画の依頼をして、この絵画はその案の
スケッチの一つです。神話画ではなく寓意画となっており、メデューサに
見える女怪物は悪徳、不幸を象徴し、ヘラクレスは美徳を意味します。
Hercules as Heroic Virtue Overcoming Discord 1632 - 1633

「帰宅  1640年」
亡くなる年に描かれた作品。
牧歌的な風景の中、人々が家路に向けて歩いています。
かーえーろうか、もうかえろうよー♪ あーかねいろにそまるー♪ と
木山裕策のhomeが聞こえてきそうですね・・・。
Rubens  Return from the Fields

 余談ですが、ルーベンスは32歳の時に地元の有力者の娘イザベラ・ブラントと結婚します。3人の子宝に恵まれますが、49歳の時に奥さんが亡くなってしまいます。その4年後になんと、彼は16歳の少女エレーヌ・フールマンと再婚するのです。ルーベンス53歳。実に37歳差です。親子ほど離れた年齢で、現代の感覚で言えば犯罪気味です。しかし、ルーベンスはこの少女を深く愛し、彼女のセクシーな絵画を描き、5名の子供を授けているのだから、当時はその年齢差がごく普通で、愛に年齢は関係ないということでしょう!

 話は変わり、ベルギーのフランダースでは2018年~2020年まで「フランドル絵画年」を迎えるそうです。「フランダースの巨匠たち」と名付け、過去から現在までの風潮、影響を探るイベントが大々的に行われます。2018年はピーテル・パウル・ルーベンスの年とされ、2019年はピーテル・ブリューゲル(父)の没後450年の年、そして2020年はゲントの祭壇画の修復が終わるのでファン・エイク兄弟の年になるそう!

 日本で関連した展覧会をやるのかは分かっていませんが、何らかの影響はありそうです。2018年の年はじめには「ブリューゲル展」の開催も決まっていますしね。2017年は「バベルの塔展」や「ベルギー奇想の系譜展」がやってウハウハしていたのに、二年後までフランドル絵画の年だとは!嬉しくて仕方がありません!「ルーベンス展」と「ファン・エイク展」もやらないかな~わくわく^^

→ 「ブリューゲル展 -画家一族150年の系譜-」について詳しく知りたい方はこちら
→ ファン・エイク兄弟についての絵画を見たい方はこちら


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