Peter Paul Rubens 1612 -

 「ローマの慈愛(Roman Charity)」と呼ばれているこの物語は、父親に対する娘の献身的な愛を象徴しています。
 時代は古代ローマまでさかのぼり、歴史家ワレリウス・マキシムスが書いた「忘れざる行為の9冊の書とローマ人の言葉」に記録されています。餓死の刑に処されている父親キモンは食糧を与えられず、死の寸前にありました。そこへ居場所を探し出した娘ペロが現れ、死にかけている父に自らの母乳を与えます。彼女の行為は看守によって発見されてしまいますが、この献身的な行為は看守の心を動かし、父親の解放を得ることができたとされています。
 この物語はローマ時代から何名もの画家に描かれ、17~18世紀頃に最も多く描かれました。キモンとペロの絵画、15点をご覧ください。

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「ポンペイのフレスコ画  1世紀頃」
この物語は聖書なみに古く、あの火山によって消えた町ポンペイにも
描かれていました。娘ペロの表情が優しげですね。
 Mid 1st

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1612年」
恐らく「ローマの慈愛」の中で最も有名であろうルーベンスの作品。
餓死寸前の父親がマッチョに見えますが、そこは気にしない。
必死の緊迫感、ペロの深い慈愛が感じられる作品です。2012年に
来日していたそうで、また来て欲しいなぁ~と思います。
(追記)2018年10月のルーベンス展で出展されます!
Peter Paul Rubens 1612

ディルク・ファン・バビューレン作   1623年」
父親の体勢、構成などルーベンスの作品を参考にしたと感じさせる
作品。足を交差させ、必死に飲もうとしている姿がルーベンスのキモン
より力強く思えます。
Dirck Van Baburen  1623

「Bernardino Mei 作  17世紀」
前身で身を乗り出して、母乳を吸おうとしているキモン。かなり青白く
ゾンビ色をしています。ペロは窓を見て警戒しながらも、
穏やかそうな表情をしていますね。
Bernardino Mei 17th

ランブラント・ピール作   1811年」
ガタっという物音に不安に感じる二人。ここは牢獄の中。
看守に見つかれば、娘ペロも同罪になってしまいます。
「ペロや・・・もういい。お前は逃げろ」と父は言います。
Rembrandt Peale 1811

ヨーハン・ゾファニー作  1733-1810年」
「いいえ、駄目です。折角お父様に会えたのですから。離れたく
ありません。さぁ、飲んでください」「ペロや・・・わしは充分飲んだ。
お前を危険にさらしたくないんだよ。逃げておくれ・・・」
Johan Zoffany  1769

ジャン=バティスト・グルーズ作  1767年」
「いいえ!お父様。まだガリガリではありませんか。もっと飲んでくださいな」
「いや・・・いいんだよ。わしに構うな」「早く飲んでください!」
「あ、あぁぁ…」ペロさんの表情がかなりたくましいです。

Jean-Baptiste Greuze  1767

チャールズ・メリン作   1628年」
野外を睨みつつ、父を大事そうに抱いて授乳するペロさん。
女性は強しですね。もう父の顔が乳児に戻ってしまっているような・・・。
Charles Mellin  1628

「イタリアのバロック時代の画家作   17世紀」
優しく父を抱き、命の源を与えるその姿はまさに聖母。
ペロの姿を聖母マリアになぞらえている部分があると思います。
このテーマは当時かなり人気が高く、ペロはローマや古典好きな人達の
マドンナ的な存在だったのでしょうかね。
Baroque painting of Italian School 17th

「Jan Janssens 作  1620-25年」
しかし、彼女の行為は看守に発見されてしまいます。
あわや死刑か!?と思いきや、看守は彼女の行為に感銘を受け、
「貴女の命を賭した行為は素晴らしいものです。特別に父親に恩赦を
与えましょう」と、キモンは解放されることになりました。
Jan Janssens  1620-25

「Pietro Buonaccorsi 作  1501-47年」
娘が獄中に入れるのはおかしい!と思った画家もいたようで、
格子越しに母乳をあげる作品も存在します。ペロが何故か足を交差させ、
カメラ目線をしています。キモンの表情もどことなく不気味・・・。
Pietro Buonaccorsi (1501-47)

「Jan Janssens 作  1620年」
穏やかな表情で父に授乳するペロさん。
す、凄いところに胸があるような気がします・・・。
→ 女性の胸はそこじゃない絵画を見たい方はこちら
Jan Janssens (1620)

「Gioacchino Giuseppe Serangeli 作  1768-1852年」
母乳が出るからペロには赤ちゃんがいるはずだ!と思った画家の
一部は子供を一緒に描き込んでいます。すやすやと母親の腕で
眠る子供と、必死に母乳を吸う爺さん。なんかシュールな光景です・・・。
Gioacchino Giuseppe Serangeli

「Cecco Bravo 作  1601-1661年」
こちらは父娘が再会する場面を描いた珍しい絵画。
ここにも子供がいますね。子供から見たら「おじいちゃーん!」ですね。
Cecco Bravo

「カラヴァッジオ作  1607年」
看守のみならず、他の人々や聖母マリアやキリストや天使がごった煮で
描かれています。この状況にペロはあんぐり。キモンはまだ一生懸命
飲もうとしています。一体どんな状況なんでしょうか・・・。
Caravaggio (1607)

 絵画の中の台詞は私が脚色したもので、実際にはありませんのでご注意です。
 物語を知らないでこれらの絵画を見ると、「な、なんじゃこりゃ!?」となってしまいますよね。現代の感覚で言えば「ありえない」となり、時には嫌悪さえ感じてしまう人がいるかもしれません。しかし、「ローマの慈愛」の絵画は当時かなりポピュラーな題材で、実にたくさんの作品が残っており、どれをご紹介しようか悩んでしまうほどでした。人は誰もが母親の慈愛によって生まれてきます。授乳という行為は命の慈しみの象徴のように感じ、それは太古から連綿と続いている感覚なのかなぁ・・・と思いました。



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