Merlin, by Frank Godwin -

 マーリンは中世西洋の伝承に登場する魔術師です。
 初登場の物語は12世紀の「ブリタニア列王記」であり、砦の基礎が固まらずにブリテン王ヴォーティガーンが困っていた時に連れてこられた少年がマーリンです。彼は超自然的で荒々しい能力を持ち、王の悩みに応えたとされています。マーリンは始めこそアーサー王と接点がありませんでしたが、時代が経てキリスト教が台頭するにつれ、アーサー王の良き助言者として登場するようになります。マーリンの母は人間で、父は夢魔(悪魔や妖精とも)とされ、邪悪な父の影響で闇の道へ進みかねないと判断した母親は、マーリンを教会へと連れていって洗礼を受けさせました。すると邪悪な部分は消え、魔術の力は残ったとされています。マーリンは深い知恵を持ち、政治や戦、恋愛などの様々な分野で円卓の騎士たちにアドバイスを与えました。

 マーリンは聖なる魔術師である共に、闇の部分も抱いていました。彼は悪戯好きで、恋愛沙汰を好んでいたのです。愛弟子であるヴィヴィアンに執着し、マーリンはいつか我が物にしたいと思っていました。師から魔法を習っていた彼女は、それに勘付いていました。そして、ヴィヴィアンはマーリンに魔法をかけて動けなくして地中の深い穴に放り込み、巨大な岩で穴を塞ぐと、強力な魔法をかけて封印してしまったのです。どんな強力な魔術師でさえ、封印を内側から破る事ができません。彼女はそのまま姿を消し、マーリンは永久に閉じ込められることになってしまったのです。
 魔術師のイメージの礎を生み出した、マーリンの絵画15点をご覧ください。

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「ブリタニア列王記の挿絵  15世紀」
ブリタニア王ヴォーティガーンは砦の基礎ができず、悩んでいました。
父なしで生まれた子の血を混ぜればいいと進言され、連れられたのが
マーリン少年。しかし、彼は「原因は地下に白と赤の竜がいるからだよ」
と言い、実際地下には二匹の竜が争っていたのでした。
dragons from 15th history-of-the-kings-of-britain

「イタリアの工房の作品  1352年」
マーリンは初期中世では毛深く若い人物として描かれ、老人の姿で
登場するのは15世紀頃とされていますが、この作品では立派な髭を
生やした老人ですね。赤い衣服を着て、何かアドバイスをしているよう。
 1352 Italian School

「彩色写本の挿絵    1300年頃」
こちらの老人はマーリンであると紹介されていましたが、どんな
シーンであるのかが分かりません。教会の写字生に何を伝えよう
としているのでしょうか。
Merlin, Arthur's advisor  1300


「ニュルンベルク年代記の挿絵版画   1493年」
風来坊のような恰好をしたマーリン。ですが、頭の三角帽子は魔術師
としての原型がありますね。変身が得意で、王や貴族をからかって
遊んでいたそうです。
Merlinus in the Nuremberg Chronicle  1493

「作者不詳  18世紀頃」
アーサーの赤ん坊を見つけた、若きマーリン像。彼は4代に渡って
ブリテン王に仕え、アーサーの里親を見つけ、聖剣エクスカリバー
へと導き、裏から勝利の手助けをしました。
Merlin And Arthur 18th Century

N・C・ワイエス作  1882-1945年」
アーサーを抱きながら、凄い威厳を称えてこちらを見据えるマーリン氏。
時代が経るにつれて、騎士道精神が重視されるようになり、魔術師は
更に善人としての側面が強く出るようになります。
NC Wyeth - Merlin taking away the infant Arthur

フランク・ゴッドウィン作  1889-1959年」
魔術師と聞くと、この作品のような姿を思い浮かべる人は多いのでは
ないでしょうか。こうした白髪でローブ姿の老人といったイメージは
「指輪物語」のガンダルフ、「ハリーポッター」のダンブルドア教授へと
繋がっていくのです。
Merlin, by Frank Godwin

「作者不詳  19世紀の挿絵」
楽器を手に持ち、荒れ狂う波の横でノスタルジーに浸るかのような
マーリン。彼の性格は定まりにくく、物語毎に性格が異なるといっても
過言ではありません。
A typical 19th  depiction of Merlin by his cave at Tintagel

ジェームス・アーチャー作   1871年」
アーサーはマーリンの助言を受けて王になりますが、グネヴィアとの
結婚は災いが起きると言われたにも関わらず、結婚してしまいます。
部下ランスロットの不倫を皮切りに、アーサー王の失墜が始まって
行くのです。
Merlin and Lancelot, 1871 - James Archer

「ギュスターヴ・ドレ作  19世紀」
マーリンにはヴィヴィアンという愛弟子がいました。彼女は相当の
魔術の使い手で、マーリンは一目置いていました。笑顔で寄りかかって
来るヴィヴィアンの姿を見て、恋の炎がメラメラ燃え上ってきます。
Vivien and Merlin  19th Gustave Doré

「ギュスターヴ・ドレ作  1832-83年」
いきなりガツガツいっては嫌われると思い、表面上では落ち着いた
賢者を装っていました。しかし、マーリンの内心は穏やかではなく、
愛が実ることを虎視眈々と狙っていました。
Viviane et Merlin se reposant dans  Gustave Dore 1832-83

「エドワード・バーン・ジョーンズ作  1833-98年」
ストーカーっぽくなってきたマーリンをヴィヴィアンは警戒し、
「こんな爺さんと恋愛なんて嫌よ」と思うようになっていました。
Nimue,  Lady Lake  Beguiling of Merlin  Edward Burne-Jones

「W. Otway Cannell 作  1883-1969年」
ヴィヴィアンは湖の乙女、ニムエとも呼ばれ、ランスロットを養育した
者ともされています。物語によって、マーリンとヴィヴィアンは相思相愛
となったとされていますが、大多数は恋が成り立っておりません。
この作品のマーリンはイケメン風ですね。
Merlin and Vivien   Lewis Spence

「エドワード・バーン・ジョーンズ作  1833-98年」
物凄く冷ややかな目線を送るヴィヴィアンさん。マーリンは「ううぅ・・・。
ヴィヴィアンの背中美しす~!」と言った感じに見つめています。
封印の数分前かもしれませんね(笑)
Merlin and Nimue by Edward Burne-Jones

「アーサー・ラッカム作  1917年」
ヴィヴィアンは隙を見て金縛りの魔法にかけて動きを封じ、マーリンを
穴へと落として巨大な岩で出口を塞いでしまいます。その上に強力な
封印をかけて。こうして賢者マーリンは非業なラストを迎えたのです。
Merlin and Nimue Arthur Rackham 1917

 以前、ノリでJ・ガンソン著の「マーリンの謎」という書籍を購入しました。
 昔々、王国には偉大な魔術師が残したオークの杖がありました。そして、マーリンは王国破壊を目論む黒魔術師と、人間のお姫様から産まれました。ブレイズという白魔術師によって二人は助けられ、マーリンは成長し、アーサー王を手助けしました。その後、杖と王国はフクロウと猫によってずっと守られており、湖の乙女ニミュー(ヴィヴィアン)とマーリンの姿に戻ります。しかし、黒魔術師が王国を破壊しようと攻めてきて、ニミューとマーリンは彼等を倒したものの、肉体を失くしてしまいます。オークの杖の謎を解く者が現れると、二人の肉体は復活し、真の平和が訪れるのです。
 ―というあらすじで、濃ゆい挿絵もあり、なかなか面白かったのを覚えています。そして実際に、読者がマーリンの謎を解いて応募すると、マーリンの杖と賞金が与えられたそうです。古めの書籍なので応募はもうできませんが、現代も脱出ゲームやクイズ番組が人気を博しているので、今似たようなことをやったらウケるのではないでしょうか。
 マーリンはかつての光と闇の混在したトリックスターとしての性質は薄れてしまったかもしれませんが、魔術師の代表格、代名詞ともなり、現代でも新たな物語を生み出しておりますね。

→ アーサー王についての絵画を見たい方はこちら


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