1790 -

 「疑い深いトマス」という主題は、本当にキリストが復活したかどうかを疑った使徒トマスが、手や脇腹の傷を見て触ったことで信用した物語です。
 ゴルゴダの丘にて磔刑されて三日後、キリストは墓石の中より復活を果たしました。マグダラのマリアや女性たち、二人の弟子が死んだはずの救世主を目撃します。その話は使徒達にも伝わり、考えていると突然彼等の中央にキリストが出現し、「君たちに平和があるように」と言いました。使徒たちは非常に驚き、幽霊を見たと思いました。そんな使徒達に対し、キリストは「手足を触ってみなさい」と伝えてから皆の前で焼き魚を食べてみせたので、彼等はやっと信じました。しかし、その場には使徒トマスは不在でした。

 トマスは皆から「主は復活なさった!」という話を聞いてもなかなか信じようとしませんでした。「私は手に釘の後を見てそこに指で触れ、脇の傷にこの手を入れてみなければ信じられない」と頑なに宣言したのです。その八日後。トマスを含めた使徒の元にキリストが再登場します。以前と同じことを言い、キリストは疑い深いトマスを呼びます。そして手を差し出して「この傷をよく見て触れてみなさい」と言い、「さぁ、私の脇腹に手を入れてみるのです」と言ったのです。トマスは恐る恐るそれらを行い、復活を心から信用しました。キリストはトマスに「貴方は私を見て信じましたが、私を見たことがなく信じる者は幸いなのです」と伝えたそうです。
 キリストの脇腹にそーっと指を入れる使徒トマスの絵画、15点をご覧ください。

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「マルティン・ショーンガウアーとその工房作  1448-91年」
キリストが持つ旗は「復活の旗」と言い、死に打ち勝って復活したキリスト
を象徴しています。トマスの手首を持ち、脇腹の傷へといざなっています。
立膝をし、二本指で触れるトマスの表情は敬虔に満ちていますね。
Martin Schongauer and workshop - Doubting Thomas

ドゥッチョ・ディ・ブオニンセーニャ作  1308-11年」
キリスト、斬新な服のめくり方をしていますね!
上着とスカートは繋がっていないのか、はたまた切ってしまったのか・・・。
トマスがそっと触る中、他の使徒達が心配そうに見つめています。
Duccio, Reassuring Thomas, 1308-1311, Museo dell Opera del Duomo

チーマ・ダ・コネリアーノ作  1504-05年」
青空が映える神殿の中で行われているトマスの疑い。右の聖人は
聖マグヌス(本名オークニー伯マグヌス・エーレンドソン)であり、11世紀
後半頃に北欧で活躍した方です。時代が全く異なるので、おそらく
聖堂の名前か、依頼者の守護聖人に関わっているのでしょう。
Giovanni Battista Cima da Conegliano  1504-05

「Ludovico Mazzolino 作  1480-1528年」
フランドル系の風景の中、腕を広げて「さぁ、傷口に手を入れよ!」と
言っています。トマスは遠慮なくずぼっと二本の指を入れていますね・・・。
なかなか個性的な作品です。
Ludovico Mazzolino The Incredulity of St Thomas

ルカ・シニョレッリ作  1450-1523年」
若いイケメンっぽいトマスが、服の裂け目から覗いた傷口に指を
入れようとしています。傷口の描写もそうですが、金髪のキリストって
珍しいような気がします・・・。

Luca Signorelli  Christ and the Doubting Thomas

フランチェスコ・サルヴィアーティ作   1543年」
なんか宗教画にも関わらず、肌色が多い作品です。
こちらもイケメン気味のトマスですね。トマスは髭の生えたおじさんで
描かれることが多いのでレアです。キリストが自分の腰布を踏んでいる
のが気になる。歩いたらほどけますよ・・・。
 FRANCESCO SALVIATI, 1543

「カラヴァッジオ作  1601年」
最も有名なトマスの疑いの作品。バロック調の暗い背景の中、
皆が傷口を凝視しています。これにより、一点に視点が集中した
緊張性が生まれるのです。
Caravaggio - The Incredulity of Saint Thomas 1601

「レンブラント・ファン・レイン作  1606-69年」
レンブラントは引き気味の構図で描いていますね。左わき腹を指し、
手を入れなさいと言っています。画家によって左右が異なるのが
気になるところ。聖書によっては単に「脇腹を刺された」とあったり「心臓を
刺された」とあったり・・・。心臓が左右逆転しているって、まさか・・・!?
Rembrandt - Doubting Thomas

ヘラルト・ファン・ホントホルスト作  1592-1656年」
セピア系の色合いの中、トマスは二本指で傷口に触れています。
神秘的な作品ですが、キリストのおへそが凄く気になる・・・。
Honthorst, Gerard van Der ungläubige Thomas

「ベンジャミン・ウエスト作  1790年」
この作者は新古典主義の画家で、アメリカで生まれ、イタリアへ
引っ越して様々な画風に触れたそうです。個人的にはルーベンスの
影響が見て取れるような・・・。この作品、結構好きです。
 1790

Leendert van der Cooghen 作   1654年」
キリストのお肉が少したるんでいるように見えるのは私だけ?
左側の使徒はおじいさんばかりの中、右側でのぞき込んでいる少年が
使徒なのか、誰なのかちょっと気になりますね・・・。
Leendert van der Cooghen - The Doubting Thomas  1654

ヘンドリック・テル・ブルッヘン作   1622年」
痛がって見えるキリスト。傷口をつんつんされたら痛いですよね・・・。
一人一人の表情が個性的で、見つめているとじわじわ来ます。
Hendrick ter Brugghen  1622

カール・ハインリッヒ・ブロッホ作   1881年」
傷口に触れたトマスは本物だと認識し、「我が主よ!」とひれ伏します。
そんな彼にキリストは「触ってから信じるのではなく、見ずに信じる者の
方が幸いだぞ」と諭すのです。
Carl Bloch, The Doubting Thomas, 1881

ジョン・バレンタイン・ハイト作  1758年」
そこ、脇腹!?
人々の表情も気になる所ですが、それよりもキリストの足首を掴んでいる
女性(マグダラのマリア?)が怖すぎる!貞子化しておりますよ!
John Valentine Haidt, Thomas Doubting, 1758

マッティア・プレティ作  1656-60年」
大きく両腕を広げて、凄いポーズで「我の脇腹の傷に触れよ!」と
アピールしているキリスト。トマスは「ほ、本物かも!」と隣の人に
確認をしているように見えます。この個性的な構図をどうやって思い
付いて描こうと思ったのか、経緯を知りたいですね・・・。
Mattia Preti 1656-1660

 キリストは使徒トマスに「私の手の傷口を見て、指で触れよ。そして脇腹の傷に手を入れよ」と言いました。それに対し、前者の「手の傷に触れる」という絵画は一枚もなく(私の詮索力において)、後者のシーンを画家たちは描き、手ではなく指を1~2本入れる場面としました。
 ていうか、手を全部入れたらシュールすぎますよね・・・。絵画で表わすなら、やはり指でそっと入れる方が劇的に感じるような気がします。(ジョン・バレンタイン・ハイトさんの作品が、指四本を突っ込んでいるように見えますが・・・)

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