
エンデュミオンは月の女神セレネの愛により、永遠に眠ることとなった美青年です。
ある日の深夜、エンデュミオンは山頂で睡眠をとっていました。そこへセレネが偶然居合わせ、彼の寝姿を見るや否や恋に落ちてしまいました。美しい寝顔を見たい一心でセレネは毎夜そこを訪れるようになります。始めこそ寝姿を見るだけで満足していましたが、次第に耐え切れなくなった彼女は抱擁や接吻をしてしまいます。エンデュミオンはそれを現実ではなく、夢だと思っていました。毎夜毎夜、夢の中で美しい女性が現れて自分を愛してくれる、と。エンデュミオンも次第に女神に惹かれるようになっていきます。
しかし、彼は人間。寿命は限られた存在です。老いと離別を恐れたセレネはエンデュミオンに囁きました。「貴方はこのまま老いて死ぬのと、美しい姿のまま永遠の眠りにつくのと、どちらがいい?」と。彼はためらわずに後者を選びました。セレネは主神ゼウスに頼み込み、願いを叶えてやりました。こうして永久の眠りについたエンデュミオンはラトモス山の洞窟へと運ばれ、セレネと夢の中での永遠の愛を築いたのです。
眠る美青年エンデュミオンと、恋する女神様の絵画13点をご覧ください。
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「Frans Christoph Janneck 作 1703-61年」
月を象徴する孤独な女神セレネは、ある日美青年が寝ているのを
発見します。その寝姿は清らかで無垢な子供のよう。彼女は一瞬で
エンデュミオンに恋をしてしまいます。

「ベネデット・ジェンナーリ(孫)作 1633 - 1715年」
エンデュミオンの職業は羊飼いとされていますが、エーリスの王とも
されています。羊飼い&王子のパリスに境遇が似ていますね。
殆どの画家は彼を羊飼いとして表しており、杖や猟犬、家畜などが
描き込まれています。このセレネは美少女戦士を思わせるティアラをしていますねw

「ピエル・フランチェスコ・モラ作 1612-66年」
夜の帳の中、月そのものから見守るセレネ。
左のキューピッドは口に手を当て、「静かに」と言っているようです。
傍らで犬もすやすやと眠っています。

「フランチェスコ・ソリメーナ作 1705-10年」
登場が派手なセレネさん。エンデュミオンは女神の登場を夢の中の
事だと思い込みます。もしかしたらセレネはそっと近寄っただけで、
夢の中ではこのような煌びやかになっていたかもしれませんね。

「アンドレイ・イワノビッチ・イワノフ作 1775-1848年」
この姿で寝ていて風邪を引かないのでしょうか、なんて思ってしまいました。
そんなこと言ったら、神話の登場人物全員が風邪引きですよね(笑)

「フランチェスコ・トレヴィザーニ作 1656–1746年」
夢の中で逢瀬を重ね、相思相愛となった二人。セレネは年老いていく
月日が耐えられず、彼に人間としての死か、永遠の眠りかを選択
してもらいます。彼の出した答えは後者でした。

「Gerard de Lairesse 作 1640-1711年」
セレネの表情や月が日本っぽい雰囲気を出しているような気がします。
あえてエンデュミオンの上半身に影を差すことで、夢の領域である
ことを伝えているのでしょうか。

「Nicolas Bertin の追随者作 1700年頃」
この羽の生えたおじさんは、ゼウスとも西風のゼピュロスともされていました。
ゼピュロスは美青年ヒュアキントスを愛していたので、こちらの方が
可能性として高いように思います。愛するエンデュミオンを奪われ、
女神様はブチ切れ状態の表情をしております。

「ジョージ・フレデリック・ワッツ作 1872年」
恐らく一番印象的であろう作品。ほぼ頭突き状態で顔を突き合わせています。
エンデュミオンの無意識の奥底から現れた、女神と言った感じで、
フロイトやユングを示唆しているような気がします。

「ヨハン・カール・ロスの追随者作 18世紀頃」
恐らくゼウスが彼に永遠の眠りを与えている場面。「ほうぅ!」と魔術で
眠らせるのではなく、壺から何かを取り出して振りかけているようです。
なかなかエンデュミオンが良い年齢をしているような気が・・・。

「Nicolas Guy Brenet 作 1770-1846年」
物語より美青年の肉体美を全力で描いた作品。
セレネそっちのけで艶めかしい謎のポーズでエンデュミオンが寝ています。

「Nicolas Guy Brenet 作 1770-1846年」
同じ作者の作品。余程このポーズが好きとみえる。
神話の名を借りた裸体画のような・・・。こういった美青年のセクシーさに
走った作品を、私は勝手にセバスティアヌス現象と名付けました。
→ 聖セバスティアヌスについての絵画を見たい方はこちら

「antonio bellucci 作 1654-1726年」
こうして永遠の眠りを得たエンデュミオンは、夢の中でセレネとの
永遠の愛を得ることができたのです。二人は子供を50人生んだと
されています。女神様はスケールが違いますね!

エンデュミオンに恋をしたのはセレネではなく、アポロンの双子である狩猟の女神アルテミスという説もあります。アルテミスは羊飼いである彼の財産が眠り中心の生活によって失くならないよう心配りをし、羊や子羊を野獣から守ったり、家畜の群れをそっと増やしていたそうです。孤独な月の女神様や節操を司る女神様のハートを射止めるなんて、なかなかやるじゃないですかエンデュミオン・・・。
また、この物語は「空想する詩人」を象徴しているという説もあります。エンデュミオンは若い詩人を表し、月明かりの中で美しい愛を描き出そうと、夢や理想の狭間の中で漂っている姿であるそう。空想で壮大な物語の海を旅する詩人にとっては、永遠の眠りは歓迎すべきことなのですね。
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>> 季節風様へ
こんばんは^^
エンデュミオンが服を着ている作品は少なく、お肌が露わな作品が目立ちますよね^^;
夜中に裸で寝ていて「風邪を引かないか」とか「野獣に襲われないのか」をツッコむのは、美を追求する絵画世界においては暗黙の領域なのかもしれませんw
確かに寝苦しい酷暑の中に、安らかな表情で安眠しているエンデュミオンの絵画を飾ったらマイナスイオンが出てぐっすりと寝られそうです^^
個人的にベネデットさんの作品を飾りたいです。
ワッツさんの作品は二人の顔の近さばかりに目が行ってしまい、ドレスの繊細さに気付いていませんでした^^;ひだが美しいですね。
このような夢を見た者は、一生幸福な夢から目覚めないであろう…。←ぇ