Andrea del Verrocchio and Leonardo da Vinci 1472-75 -

 キリストが30歳になった時、ヨルダン川のほとりに預言者が現れたという噂が立ちました。その預言者は人々に「神の国は近付いている、準備しなさい」と告げ、洗礼を授けているそうです。
 キリストは出番が近付いていることを悟り、川へと向かいました。預言者の正体はキリストの親戚であるヨハネ。彼は不信仰者に与えられる恐ろしい滅びと、救世主の到来を民衆に告げていました。キリストはヨハネの元へ歩いて行くと、「私に洗礼を授けてください」と言いました。ヨハネは彼が神の子であることを感じ、「恐れ多いです」と辞退しようとしましたが、キリストは「やっていただきたいのです。正しい事は行うべきです」と言い、ヨルダン川に降りて行って、ヨハネに洗礼をしてもらいました。この時、天から鳩の姿をした聖霊が舞い降り、「私の愛する子よ・・・」という神の声が聞こえて来たそうです。
 洗礼の種類は浸礼(水を全身に浸す)、灌水礼(頭部に水を注ぐ)、滴礼(手を濡らして頭を押す)などがあり、キリストが受けたのは川に全身を付ける浸礼だったと思われます。洗礼の歴史については確かなことは分かっておらず、浸礼はキリスト教以前の古代イスラエル時代から行われていたそうです。
 ヨハネから洗礼を受けるキリストの絵画15点をご覧ください。

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「ジョット・ディ・ボンドーネ作  1305年」
ヨルダン川で半身を浸し、洗礼を受けているキリスト。頭上には
祝福を与える神がおり、左側にはお召し物を持つ天使達がいます。
服を持つ天使は記述にはありませんが、中世ルネサンスの絵画に
共通した表現になっております。
The Baptism of Christ, 1305 - Giotto

「サンドロ・ボッティチェリ作  1445-1510年」
ヨハネはお椀を持っており、頭に水を垂らしています。
ルネサンス以降、ヨルダン川の水はかなり浅めとなり、浸礼ではなく
灌水礼を用いた絵画ばかりとなります。中世以降、洗礼は灌水礼、
滴礼へと変化しており、その影響なのでしょう。
 The baptism of Christ

「ペルジーノ作  1481-83年」
キリストの洗礼を民衆が見学しており、頭上には立派な天使と神が。
浸礼から灌水礼へと変化していった経緯として、十字軍での断続的な
戦争で時間や経費、水が不足していたという説があります。
Baptism of Christ, 1481 - 1483 - Pietro Perugino

ドメニコ・ギルランダイオ作  1486‐90年」
人数やポーズは異なるものの、上記のベルジーノの作品を意識して
描いたことが分かります。また、ルネサンス絵画のキリストはほぼ
100%腰布をしておりますが、中世の作品は着ていない方が多いです。
洗礼法の違いか、絵画の具象性の違いかどちらなのでしょうか・・・?
1490 - Domenico Ghirlandaio

アンドレア・デル・ヴェロッキオとレオナルド・ダ・ヴィンチ作  1472-75年」
洗礼の絵画の中で最も有名な師弟の共同作品。
背景と天使の部分をレオナルドが手掛けたとされています。
他の弟子の筆跡もちらほらと見受けられるそうです。
Andrea del Verrocchio and Leonardo da Vinci 1472-75

フアン・デ・フランデス作  1508-19年」
こちらの作品ではお椀ではなく手で水を垂らしていますね。
天使さんの振り返った表情が何とも言えません・・・。
Juan de Flandes   The Baptism of Christ  1508-19

チーマ・ダ・コネリアーノ作  1493年」
「貴方も洗礼を施し、悔い改めよ」と告げているかのようなキリストの
表情。頭上ではカラフルなケルビムたちが祝福をしています。
1493 - Cima da Conegliano

ヨアヒム・パティニール作  1515年」
北方ルネサンスの画家で、風景画家の先駆者とされております。
この方は本当に風景が細微で素晴らしいです。背景ではヨハネが
民衆に説教をしており、異時同図法になっているようですね。
The Baptism of Christ, 1515 - Joachim Patinir

「エル・グレコ作  1608年」
鮮やかな色でうねるような構図。他の作品とは一線を画した、劇的
で美しいキリストの洗礼となっております。赤や黄、黄緑などの色を
キリストの周囲に配置することで、存在をより一層強めています。
1608 - El Greco

「Ottavio Vannini 作  1585‐1643年」
こちらは変わって優しい風合いをしております。最初、近代の作品だと
勘違いしてしまいました。調べてみると17世紀の絵画でびっくり。
キリストやヨハネの容姿、配色など、どこか現代的な匂いがするなぁ・・・。
The Baptism Of Christ by Ottavio Vannini

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作   1655年」
ルネサンス時代では手を合わせていたキリストが、バロックに入ると
交差させた姿も描かれるようになります。この作品は天使の姿が
描かれず、シンプルイズザベストな感じですね。
Battesimo di Cristo  1655  Bartolomé Esteban Murillo

パリス・ボルドーネ作    1535-40年」
筋肉ムキムキのヨハネさんが変わった格好で水を垂らしていますね。
十二使徒にもヨハネがおりますが、別人であり、前者は洗礼者ヨハネ、
後者は使徒ヨハネと呼んで区別しています。
Paris Bordone  1535-40

「グイド・レーニ作  1622‐23年」
厳かに行われる洗礼を神妙そうに見守る、少女風な天使さんたち。
毎回思うのですが、レーニさんの描く人物ってセクシーですよね。
聖人なのに腰布が下がりすぎのような・・・。
Guido_Reni  The_Baptism_of_Christ 1622-23

パオロ・ヴェロネーゼ作   1555年」
キリストのポーズが何とも言えない洗礼。
物凄く失礼ですが、アニメである変身シーンのようです・・・。
ヨハネの動きも少し格好つけているような?
 Veronese (Paolo Caliari)  1555

パオロ・ヴェロネーゼ作  1580-88年」
ヴェロネーゼさん二枚目。これはあからさまにおかしい格好を
しております(笑) 洗礼は第二の出生とされているので、きっと新たなる
生を表現しているのでしょう・・・か?
Paolo Veronese (Paolo Caliari) and workshop   1580-88

  浸礼はパプテスマとも呼ばれ、キリストが行った洗礼だと考えられてきましたが、ルネサンス以降では浸礼を行った絵画は私が見た限りでは一枚もありません。それは中世以降に、灌水礼と滴礼が主として行われるようになったからだと思います。浸礼のことを知っている画家も勿論いたと思われますが、絵画を観る信仰者がキリストを身近に感じられるよう、あえて灌水礼としたのではないでしょうか。
 カトリック教ではいずれの洗礼も認めておりますが、プロテスタントのバプステマ教会は浸礼のみしか洗礼を認めていないようです。また、クエーカー教徒(キリスト友会)や日本のプロテスタント派である救世軍は洗礼を行っていないそう。多種多様な宗派を生んだキリスト教は、洗礼一つにおいても奥深い世界を持っていますね。

→ キリストの洗礼の中世作品バージョンを見たい方はこちら
→ キリストの誘惑についての絵画を見たい方はこちら
→ 洗礼者ヨハネの生首を持つ悪女サロメについての絵画を見たい方はこちら


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