
東洋では古来より“神の使い”とされ、信仰の対象ともなっているドラゴン(竜)。 現代の創作物語においてもドラゴンは神聖な存在とされ、主人公の願いを叶えたり、その背中に乗せたりします。敵として出て来たとしても、ボスレベルでかなり強い設定となっている事がほとんどです。
しかし、西洋の神話や聖書に登場するドラゴンはもっぱら邪悪な存在とされ、退治されてばかりなのです。多頭だったり、大蛇だったり、炎や毒を吐いたりとドラゴンの種類は様々なのですが、共通している事は「英雄か聖者に、あっけなくやられてしまう」こと。聖書では悪魔と同一視されてしまっており、善に対する「悪」という象徴となってしまっているのです。
ドラゴン(竜)の絵画13点をご覧ください。一部グロテスクな表現がありますので、ご了承ください。
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「フランスの動物寓意譚の挿絵一部 13世紀頃」
ど、ドラゴン?顔や身体、尻尾などの何処の部分を見ても、現代の
ドラゴン像とは全く違いますね。当時はドラゴンという怪物の
概念が固定されておらず、作者の裁量の部分が大きかったのでしょう。

「中世写本の挿絵 13世紀以降」
口をかぱっと開けて、ちょっとお間抜け顔のドラゴンさんですが、
だいぶドラゴンらしくなりました。この姿になったのは中国美術が
伝来したことに関係あるそうです。しかし、よく見ると後ろ足がないし、
羽が背中ではなく脇から生えていますね。

「中世写本の挿絵 年代不明」
聖ゲオルギウスがドラゴンを退治する場面。13世紀の「黄金伝説」より、
この伝説が広まりました。古代ローマ時代、乙女の生贄を食べる
竜が住み着いて困っていたカッパドキアへ、騎士ゲオルギウス現れます。

「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1605年」
「竜を退治した暁にはキリスト教へ帰依して欲しい」という願いを
王国は受け入れ、ゲオルギウスは見事ドラゴンを退治してのけます。
この主題は多くの画家に好まれ、描かれています。
→ 聖ゲオルギウスに付いての絵画を見たい方はこちら

「中世の時祷書の挿絵 1480年頃」
ツチノコのようなドラゴンの腹から女性が出ているというシュールな
作品。女性はアンティオキアの聖マルガレーテと言い、ドラゴンに
喰われた時に十字架を握って祈りを捧げると、腹を突き破って中から
出ることができたという奇跡が伝えられております。

「Joan Reixach 作 1456年」
こちらもドラゴンから出たばかりのマルガレーテさん。血がどばーと
出ていて、水かきのあるドラゴンは可哀想な感じになっています。
体つきといい体色といい、この子は現代でも通じそうな姿ですね。
→ 聖マルガレーテについての絵画を見たい方はこちら

「中世写本 Book of Flowers の一部 1090-1120年頃」
キリストに敵対する、偽の救世主であるアンチキリスト。
このドラゴンは厳密には海の怪物リヴァイアサンとされ、世界の終末が
起こる際、アンチキリストは怪物に乗って現れるとされています。
→ アンチキリストについての絵画を見たい方はこちら

「イタリアのシエナ派の画家 14世紀」
ドラゴンを踏み踏みやっつける四大天使の一人ミカエル。
このドラゴンはサタン(ルシファー)の化身とされ、蛇の姿や人間の
姿で表されることもあります。「ぎょえー!」と言った表情がなんとも
憐れがしですね・・・^^;

「作者不詳 1495年頃」
こちらもミカエルがサタンをやっつける場面。半分に分かれた構図は
上部が天国、下部が地獄を表しています。よーく見るとミカエルは
ドラゴンを踏んでおらず、またいでいる感じです。余裕の表れ・・・?
→ ミカエルとサタンの戦闘についての絵画を見たい方はこちら

「アーサー・ラッカム作 1911年」
こちらは聖書ではなく、北欧神話の物語。洞穴に住んで財宝を守る
というドラゴンのイメージは北欧から由来しているのです。
元はドヴェルク(ドワーフ)であったファヴニールは欲のあまりドラゴンの
姿となり、英雄シグルズによって退治されてしまうのでした。

「Thomas Blanchet 作 1614-89年」
こちらはギリシャ神話のカドモスの物語。テーバイの創始者である
カドモスはドラゴンに部下たちを殺されてしまった為、岩で頭を打って
倒してしまいます。女神アテネが現れてその勇姿を褒め称えたそうです。

「ヘンドリック・ホルツィウス作 1558-1617年」
こちらもカドモスの作品。ドラゴンは大蛇ともされていますが、
絵画では強そうなドラゴンに描かれることが多いです。三つ首の
ドラゴンが部下の首をもぐもぐし、足元には骨が大量に・・・。

「コルネリス・ファン・ハールレム作 1588年」
これはちょっと閲覧注意な状態ですね。名誉挽回とばかりにドラゴンが
部下に噛みついています。カドモスは画面の奥の方におり、まだ
気付いていないようです。部下がバラバラ事件でございます・・・。
神話の物語よりドラゴンの惨事を描いた珍しい作品です。

ちなみに、ハリー・〇ッターに登場するドラコ・マ〇フォイの名前は、ラテン語でドラゴンや蛇を意味しています。「鋭く睨む者(ドラコーン)」が原義で、13世紀頃に蛇、竜というドラコという単語が生まれたそうです。
また、ルーマニアの残虐君主であるヴラド三世の父親が、「ドラクル(竜公)」という呼び名を持っていたそうです。その息子であるという意味の「ドラクレア」という呼び名がヴラド三世に与えられ、それが英語読みとなると「ドラキュラ」になるのです。ドラキュラは「ドラゴンの息子」という意味なんですね。
→ ヴラド・ツェペシュについての絵画を見たい方はこちら
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>> 美術を愛する人様へ
こんばんは。
西洋だと蛇はアダムとイヴをそそのかした悪魔の化身ですから…。
現代でも蛇が不吉な象徴とされているのが分かる、興味深い記事ですね。
確かに西洋だと竜、東洋だと龍のイメージがあります。
私達日本人にとって龍は縁起の良い生物のように思いますが、西洋の人にとって、干支の動物に龍や蛇がいるのは不吉な感じがするのでしょうかね。
(ちなみに私は蛇年です…w)