Falstaff with a Tankard of Wine and a Pipe  Mihály Zichy -

 フォルスタッフはシェイクスピアの戯曲「ヘンリー四世 一部&二部」と「ウィンザーの陽気な女房たち」に登場する老騎士です。
 大酒飲みで肥満体、臆病者で好色、強欲で嘘つき、追い剥ぎをするごろつきの悪人という、ダメダメな騎士ですが、頭が切れてユーモアに富み、たまに真相を突いた警句を吐くという深遠な一面も持ち合わせています。そのギャップは開演当初から多くの人に愛され、フォルスタッフはシェイクスピアの物語から飛び出して多くの二次創作が作られ、現代でも語り継がれております。

 「ヘンリー四世」によると、フォルスタッフはヘンリー四世の息子ハル王子の放蕩仲間で、飲んだくれて遊び呆けていました。ある日、ノーサンバランド伯の者達はヘンリー四世に謀反し、戦争を起こします。王は王子に鎮圧を命じ、ハル王子は名誉挽回の為にホットスパーを一騎打ちの末に倒します。ずっと逃げ回っていたフォルスタッフはホットスパーを倒したのは自分の手柄だと主張しますが、その嘘は見破られてしまうのでした。

 ホットスパーの死にノーサンバランド伯は怒り、応戦してきました。フォルスタッフは判事のシャロ―を頼って、兵士を募ったものの、役に立たない者ばかり。ハル王子の弟ジョン王子の策略で謀反者達は捕まり、処刑によって反乱は鎮圧されたものの、ヘンリー四世は重病に伏せり、ハル王子に王冠を託して息絶えてしまいます。王位を授かってヘンリー五世となった彼は、馴れ馴れしく話し掛けて来たフォルスタッフを拒絶し、罪で投獄してしまったのです。その後、フォルスタッフはフランスまで放浪したあげく、汗かき病によって死んでしまったとされています。
 愛すべき悪人、憎めないごろつきであるフォルスタッフの絵画14点をご覧ください。

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Eduard von Grützner 作  1846-1925年」
立派すぎるビール腹を突き出し、にやりと笑っているフォルスタッフ。
嘘を付く、追い剥ぎをする、女をたぶらかすというお墨付きの悪で
ある彼ですが、世間の矛盾や不条理さを上手く突き、吹っ切れた
言動をすることで、魅力的な人物となっております。

Eduard Grützner Falstaff mit Zinnkanne und Weinglas

Eduard von Grützner 作  1904年」
なんかビールのお店の看板みたいに見えますね。
こういったフォルスタッフのプロマイド風肖像画はかなりの枚数
存在します。描かれた絵画の立派さを見ると、いかに彼が愛され、
有名であったことが分かりますね。
Sir John Falstaff by Eduard Grützner 1904

「作者不詳  1840年頃」
フォルスタッフとハル王子の作品。王子はヘンリー四世の正当な
後継者でありながら、ごろつきとつるんで遊んでばかりいました。
フォルスタッフの物言いを楽しみ、ふざけ合っていたのです。
 at the Boar's Tavern unkhown 1840

ジョージ・クリント作 1770–1854年」
居酒屋「ボアーズ・ヘッド」で自らの冒険談を語っているフォルスタッフ。
勿論それは嘘っぱち。ハル王子は面白そうにそれを聞いていますね。
ですが、他の人達はしらー・・・といった表情を向けています。
George Clint 1770–1854

「Adolf Schrödter 作  1867年」
フォルスタッフとその小姓。
小姓の少年はまだ幼く、レイピアが地面に着いてしまっていますね。
フォルスタッフは偉そうにしていますが、ころんころんです。
Adolf Schrödter Falstaff und sein Page 1867

「ロバート・スマーク作 1753-1845年」
謀反者ホットスパーの死体に攻撃しようとしているフォルスタッフ。
彼は手柄を横取りしようと、ハル王子が倒した敵に対して剣を
振り下ろします。それは本当にクズな行為ですよね・・・(汗)
Falstaff and the Dead Body of Hotspur  Robert Smirke

ジョン・カウズ作  1778-1862年」
フォルスタッフは判事のシャロ―の手を借りて、新兵を募ります。
しかし、やってくるのは役に立たない者ばかり。戦争どころではありません。
Falstaff and the recruits  Henry IV  Part II  John Cawse

「フランシス・ヘイマン作  1760年」
こちらもフォルスタッフが新兵を募っている場面。
紹介されている大男は杖を持っており、怪我人のようですね。
フォルスタッフも小姓も取り巻きもだらだらしており、戦う気がゼロです。
Francis Hayman Falstaff Raising Recruits 1760

「ジョン・カウズ作   1820年」
家来ピストルはフォルスタッフにヘンリー四世の崩御を伝えます。
「そうか!ならハルは王となるのか!」と彼は褒美を期待し、
喜び勇んで戴冠式へと出席するのですが・・・。
john Cawse  1820

「ロバート・スマーク作  1795年」
ハル改めヘンリー五世は「何かくれ!」と言いよって来たフォルスタッフ
に厳しく接し、司法長官を呼んで彼は監獄へと連行されてしまいます。
予想を裏切られる事になったフォルスタッフの深い絶望の様子が
表れていますね。調子に乗るから・・・。
Robert Smirke 1795

フィリップ・フランシス・ステファノフ作 1840年」
こちらは「ウィンザーの陽気な女房たち」の絵画。この戯曲は女王
エリザベス1世が「フォルスタッフの恋物語が見たい」と所望した為、
生まれたとされています。ころころと太ったフォルスタッフが看護師の
クイックリー夫人と何やら話しているようですね。
Francis Philip Stephanoff, circa 1840

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1792年」
フォルスタッフから同じ文面の恋文を受け取った二人の婦人は、
懲らしめてやろうと誘いに乗ったふりをし、フォルスタッフを洗濯籠の
中へぶち込んで、籠を川へ捨てるよう使用人へ伝えたのです。
フォルスタッフは踏んだり蹴ったりな状態です。
Falstaff in the laundry basket by Johann Heinrich Fussli 1792

ジェームス・ステファノフ作  1832年」
フォルスタッフは、夫人達に「狩人ハーンの恰好をして、オークの
木の下で待っていて」と言われ、意気揚々と待ちますが、それは
彼をからかう為に行ったことでした。不気味なおじさん過ぎます・・・。
James Stephanof

ミハイ・ジチ作  1873年」
「ヘンリー四世」では失意の内に終わってしまいましたが、彼は垣根を
飛び越え、他の物語や絵画、音楽にも進出してきています。
王を批判し、問題提起する道化師のように、フォルスタッフは
世を斜め横から見て、常識やルールのおかしさを今に伝えているのです。
Falstaff with a Tankard of Wine and a Pipe, 1873 by Mihály Zichy

 シェイクスピアの作品は数多くあれど、物語を抜けだして一人歩きした創作人物は、たった二人だけだとされています。それはフォルスタッフと「ヴェニスの商人」に登場する、強欲なユダヤ人であるシャイロック。
 金に貪欲で、主人公の友人に「金を出せないならお前の肉を一ポンドもらう」と脅迫するシャイロックは単なる悪役とされていましたが、迫害され続けるユダヤ人の悲劇的な側面をも内包しており、深遠な人物であると考えられるようになりました。シャイロックは音楽や文学に登場するようになり、本当かはちょっと分かりませんが、あのシャーロック・ホームズの由来になったともされています。
 完璧な善人よりも、卑劣でも懸命に生きている人の方が共感を覚えやすいのかもしれませんね。ただ、フォルスタッフみたいな人が身近にいたら、ドン引きしますけれど・・・(^^;



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