Parmigianino_Selfportrait 1523-24 -

 現代における芸能人や画家、エンターテイナーは芸名や通名を用い、本名を名乗らない者がおります。それは歴史上の画家も同様で、私達が現在普通に呼んでいる名が、実はあだ名という画家もいるのです。通名で呼ばれている画家はルネサンス時代が多く、その名の意味も、呼ばれるようになった経緯も実に様々です。
 では、フラ・アンジェリコやボッティチェリ、エル・グレコやヒエロニムス・ボスなどの10名の画家達の本名と、あだ名の由来を見ていきたいと思います!

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フラ・アンジェリコ
…本名:グイード・ディ・ピエトロ


「代表作:受胎告知  1426年」
La_Anunciación_de_Fra_Angelico 1426


 画家と言えば、結構個性的な面々が多いかと思われますが、ルネサンス時代の画家フラ・アンジェリコは根からの善人で、温和で謙虚で信心深く、正に天使のような人物でした。美しい宗教画を描く彼は、そのまま「フラ・アンジェリコ」(直訳で、天使のような修道士)と呼ばれるようになりました。
 存命中は「ベアート・アンジェリコ(天使のような福者)」「フィエーゾレの修道士ジョヴァンニ」いうあだ名でも通っていたそうです。福者は聖人に次ぐ地位にあり、こんなダークサイドのブログで紹介するのが申し訳ないほどの良い人なのです。

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マザッチオ(マサッチオ)
…本名:トンマーゾ・ディ・セル・ジョヴァンニ・ディ・モーネ・カッサーイ


「代表作:楽園追放  1426-27年」
Masaccio-1426-27

 イタリアルネサンスの巨匠マザッチオ。彼の名もあだ名であり、本名はトンマーゾ・ディ・セル・ジョヴァンニ・ディ・モーネ・カッサーイと言います。マザッチオの由来は、本名のトンマーゾの短縮形「マーゾ」からきているそうで、その語尾に「ッチオ(またはチョ)」を付けると、「ちょっと悪い奴」「いけ好かない奴」みたいな感じの意味が含まれるそうで、それを合わせてマザッチオと呼ばれるそうになったようです。「ちょっと悪いマーゾ君」みたいなニュアンスですね。
 気難しい性格をしていたらしいマザッチオ。こんなあだ名を付けられて、本人は怒らなかったのでしょうかね。しかも日本でこのあだ名が浸透しているなんて・・・。少し可哀想かも^^;

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サンドロ・ボッティチェリ
…本名:アレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピ


「代表作:ヴィーナスの誕生  1485年頃」
-Sandro_Botticelli_-_La_nascita_di_Venere

 かなり知名度のある画家ボッティチェリ。しかし、彼の本名はアレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピと言います。ボッティチェリの意味は「小さな樽」。その由来は「兄が太っていたから」。その太っていた兄の弟という事で、小さな樽=ボッティチェリ。・・・本人あんまり関係ない!( ゚Д゚;)
 サンドロはアレッサンドロの愛称で、アメリカでアレクサンダーをアレックス君と呼ぶ感じだと思います。なので、「小さな樽のサンドロ君」と言ったニュアンスだと思います。
 現在、日本中でボッティチェリという名が浸透しておりますが、彼は一体どういった心境なのでしょうか。陽気だったという噂もあるので、なんとなく笑って許してくれそうな気がします。マザッチオさんよりも良いかな・・・うん。

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ジョルジョーネ
…本名:ジョルジョ・バルバレッリ・ダ・カステルフランコ


「代表作:眠れるヴィーナス  1510年頃」
Giorgione_-_Sleeping_Venus_1510

 ジョルジョーネはイタリアルネサンスの巨匠ですが、その生涯は謎に包まれており、真作と断定できるものは僅か6点しか残されていないそうです。
 そんなジョルジョーネさんですが、彼は性格が大らかな大柄な人物だったようで、大きさを表す語尾「オーネ」をつけて呼ばれるようになりました。イタリアでは同名の人を区別する為に用いられるあだ名があり、同じジョルジョさんがいた場合、大きい方を「ジョルジョーネ」、小さい方を「ジョルジーノ」と呼ぶそうです。なので、ジョルジョーネは「大きなジョルジョさん」みたいなニュアンスなのではないでしょうか。
 ティツィアーノの師匠という噂もあり、おおらかな人物ということで、かなり皆から慕われた人物のように思われます。


パルミジャニーノ
…本名:ジローラモ・フランチェスコ・マリア・マッツォーラ


「代表作:凸面鏡の自画像  1523-24年」
Parmigianino_Selfportrait 1523-24

 美少年の絵画を紹介する書籍に載っていた、イケメンの画家パルミジャニーノ。美術評論家のヴァザーリにも「天使のように美しい」と称されていたそうです。
 イタリアのパルマという都市出身だった為、「パルマの若者」という意味のパルミジャニーノというあだ名が付けられました。恥ずかしいことに、私はパルミジャーノだとずっと思っていました・・・。パルミジャニーノだとは。舌を噛みそうだ^^;
 そんな美貌の青年パルミジャニーノですが、晩年は錬金術に傾倒してしまったそうです。髭も髪も伸ばし放題で、ホームレスのような暮らしをし、かつての美貌も面影がなくなってしまったとか・・・。彼はそのまま37歳の若さで亡くなってしまいました。死後五百年近く経った今、「パルマの若者」と呼ばれて続けているのは、彼にとって救いなのでしょうかね・・・。


ティントレット
…本名:ヤコポ・コミン


「代表作:最後の晩餐  1594年」

ティントレット 1594

 ヴェネツィア派のルネサンスを代表する画家ティントレットもあだ名となります。
 彼のあだ名の付けられ方も実にシンプルで、染物屋の息子だったので、そのまま「ティントレット(染物屋の息子)」と呼ばれるようになりました。現代だったら「俺は画家だ!いつまでも親の職業で呼ばないでくれ!」」と思うかもしれませんが、当時は出身や親、ご先祖を重視していた風潮である為、ティントレットはそう思わなかったの・・・かな?
 全然関係ないですが、本名のヤコポ・コミンって、なんだか可愛い響きですね^^

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ヒエロニムス・ボス
…本名:ヒエロニムス・ファン・アーケン


「代表作:快楽の園  1503年頃」
快楽の園

 悪魔メーカーとも言われた、北方ルネサンスの巨匠ヒエロニムス・ボス。私の師匠です!(`・ω・´)←ぇ
 ドイツ西部のアーヘンから移民してきた画家一族の家系で、お爺さんもお父さんも画家でした。ボスという通称は故郷「ス・ヘルトーヘンボス」から名付けられており、注文が町の外からたくさん入るようになった為、「ボス出身の画家」という意味合いで使うようになったそうです。それがそのまま定着してしまった感じですね。ス・ヘルトーヘンボスは「伯爵の森」という意味なので、ボスは「森」を表します。当時、森は怪物が住まう恐ろしい場所だと考えられていたので、その名前は言い得て妙ではないでしょうか。
 ちなみに、日本のテーマパーク「ハウステンボス」や「トータルテンボス」「ラグーナテンボス」のボスはオランダ語で「森」という説明があったので、同様の意味ですね。もしかしたらなんか出るかも!?
 さらにちなみに、スペインでは「EL BOSCO」と呼ぶそうです。ボスコ・・・可愛いっ!



マティアス・グリューネヴァルト
…本名:マティス・ゴートハルト・ナイトハルト


「代表作:イーゼンハイムの祭壇画  16世紀」
Isenheim altarpiece - First view

 北方ルネサンスのドイツの画家マティアス・グリューネヴァルト。
 しかーし。この名前、実は嘘っぱちなんです(汗) 17世紀の批評家ヨアヒム・フォン・ザントラルトさんが著書「ドイツ・アカデミー」において、「マティス・ゴートハルト・ナイトハルト」の紹介をしようとしたのに、他の画家と名前がごっちゃになってしまい、「マティアス・グリューネヴァルト」と違った名前を書いてしまったのです。全然違うがな!その誤りは20世紀に入ってようやく判明しましたが、現代においても間違いの方が有名となってしまい、その名で呼ばれ続けているのです。
 本名マティス・ゴートハルト・ナイトハルトって、凄く格好いい名前ですよね。ゲームで登場したら伝説の勇者とか、主人公を指導するイケメン騎士とかの立場になりそう。
 自分で付けたり、他人から愛称として呼ばれているならまだしも、何処の誰だか分からない人に名前を間違えられて、現代までもそう呼ばれてしまっている悲劇の画家。物凄く可哀想です・・・。私は今日からナイトハルトさんと呼びます!


エル・グレコ
…本名:ドメニコス・テオトコプーロス


「代表作:1608-13年」
Inmaculada_Oballe_El_Greco 1608-13

 十頭身近い縦長の人物を描くことで有名な、マニエリスムの画家エル・グレコ。
 ギリシャのクレタ島生まれの彼はイタリア、スペインのトレドと国境を移動しました。エル・グレコは「ギリシャ人」という意味で、イタリアにいた際に付けられたあだ名のようです。彼は最晩年まで、サインをギリシャ語で自分の本名を描いていたそうなので、今日まで「ギリシャ人」と呼ばれ続けているエル・グレコの心境は複雑なものがあるのではないでしょうか。「せめてドメニコス・グレコと呼んでくれ!」と叫んでいそうな気がします・・・。


パブロ・ピカソ
…本名:パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ


「代表作:ゲルニカ  1937年」
パブロ・ピカソ ゲルニカ 1937

 一部の人達では噂になっている、ピカソの名前。
 パブロ・ピカソは確かに本名です。しかし、その間が余りにも長いんです。ご両親が聖人と縁者の名前を沢山つけた結果こうなったようです。西洋では、お爺さんや聖人の名前をミドルネームとして付ける風習がある地域があります。無理矢理日本で当てはめていうなら、千手馬頭太郎十一面五右衛門如意輪・・・と観音様とご先祖様の名前をつらつらと並べる感じでしょうか。←ぇ
 随所に挟まれるファンやデ、イ、というのは~出身や、~の息子みたいな意味合いらしいです。ピカソが画家活動を始めた当初はパブロ・ルイス・ピカソと名乗っていたそうで、後にルイスさえも省いてしまったそうです。ピカソは自分の本名を覚えていなかったという噂もあり、なかなか大変な名前ですよね。もしこの名前をテストの名前欄に書こうとしたら、はみ出まくるし、かなりの時間が消費されてしまいますよね・・・。←w


<おまけ>
レンブラント・ファン・レイン
…本名:レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン


「代表作:夜警  1642年」
The_Nightwatch_Rembrandt 1642

 本名はミドルネームにハルメンソーンが入ったくらいで同様です。ちょっとした素朴な疑問の為にレンブラントをご紹介しました。
 画家は通常、名字の方で呼ばれています。ダ・ヴィンチしかり、ラファエロしかり、ミケランジェロ、ベラスケス、ルーベンス、ブリューゲル、フェルメール、ゴッホ、ルノワール、ムンク、ルドン、メムリンク、デューラー、ホルバイン・・・などなど・・・。ですが、レンブラントは名前で呼ばれているのです。名字ならレインさんとなるはずで、どうして日本でレンブラントで浸透したのかな~?という疑問です。レインだと「雨」だと思うから?短いから?何かと被ったから?日本に紹介した際に呼ばれた方が優先されたから?
 様々な憶測がよぎりますが、よく分かりません^^;


【追記】
 ジョット・ディ・ボンドーネも同様の現象が起きていました。ボンドーネではなく、ジョットと呼ばれていますね。しかも、調べてみるとジョットはあだ名のようで、本名はアンジョロ・ディ・ボンドーネ。
 ジョルジョーネと同様におおらかで大柄だったのか、アンジョロットという愛称で呼ばれていたそうです。それが短くなって、ジョットと呼ばれるようになったそう。なので、ジョットは「おっきなアンジョロ君♪」くらいの親密さで呼んでいる感じですね。
 話は戻って、名前と名字で呼ばれる違いはなんだろ~?と思います。かなり素朴な疑問ですが、分かる方がみえたら教えてください!



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