Psyche with Sleeping Cupid  Louis Jean Francois Lagrenee -

 ギリシア神話に登場するプシュケーは、クピドの愛を受けたものの、禁じられた姿を見てしまった人間の女性です。
 とある王国の三番目の王女であるプシュケーはかなりの美貌の持ち主で、人々は美の女神ヴィーナス(アフロディテ)をそっちのけにして彼女を褒め称えてしまいます。それに怒ったヴィーナスは息子クピド(エロース)に「あの娘に愛の矢を撃ち込んで、卑しい男を愛するようにしておくれ」と命じます。悪戯好きのクピドは了承し、プシュケーに忍び寄るのですが・・・。なんと矢で自分を傷付けてしまい、愛が芽生えてしまったのです。

 その後、プシュケーの元に一人も求婚者が現れず、父母は心配してアポロンの神託を受けました。神託は「彼女は人間の花嫁にはなれず、山頂にて怪物が待っている」という恐ろしいものでした。プシュケーは毅然に山頂へ行くことを決意し、風の神ゼピュロスに運ばれて立派な宮殿へと到着しました。宮殿中の全てが彼女の物だと言う声が聞こえ、運命の夫は夜中にだけ現れて、プシュケーが何度姿を見せるよう頼んでも拒否して帰ってゆくのでした。

 宮殿に暮らす内に家族が恋しくなった彼女は、夫に二人の姉を招くことを了承させます。しかし、彼女たちは妹の豪華な暮らしに嫉妬し、「夫は怪物で、お前を太らせて食べようとしている。ナイフを使って首を斬り落としなさい」と吹き込みます。それを信じてしまったプシュケーは、ナイフを握り締めながら真夜中で寝ている夫の側に忍び寄り、ランプをかざしました。すると、明かりに照らされたのは怪物ではなく美しい神の姿でした。プシュケーはうろたえて彼の肩に油を落とし、火傷させてしまいます。驚いたクピドは妻の行った事に気付き、窓から飛び去ってしまったのです。プシュケーが追いかけようとするも、後の祭り。麗しい宮殿は幻のように消えてしまい、プシュケーはむせび泣く事しかできなかったのでした。
 プシュケーとクピドの絵画13点をご覧ください。なお、この先の物語の絵画については次回へ続きます。

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「アルフォンス・ルグロ作  1867年」
ヴィーナスの言いつけで恋の矢で苦しめてやろうと、クピドは彼女に
そーっと近付きます。しかしなんと、自分を傷付けてしまったのです。
クピドは瞬く間にプシュケーを愛してしまいました。
Cupid and Psyche (1867) by Alphonse Legros

ピエール=ポール・プリュードン作  1758- 1823年」
「怪物と結婚する」というアポロンの神託を受け、プシュケーは悲嘆に
暮れながらも山頂へと赴きます。すると、風の神ゼピュロスが彼女を
目的地へと連れて行ったのでした。絵画ではゼピュロスだけではなく、
風にまつわる神が総動員しているようですね。
Pierre-Paul Prud'hon (1758- 1823) The Abduction of Psyche

「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作  1849-1917年」
到着したのは自然豊かの中に建てられた、非常に立派な宮殿でした。
無人の場所から何処からともなく召使いの声が聞こえてきました
「宮殿内のもの全てが貴女様のものです。どうぞお寛ぎください」と。
Psyche Entering Cupids Garden by William Waterhouse

ジャン・オノレ・フラゴナール作  1732-1806年」
プシュケ―の夫は夜中に現れて愛を囁いてくれるものの、絶対に姿を
見せようとしませんでした。ホームシックに陥った彼女は夫に頼んで
姉二人を宮殿に招きます。しかし、それが崩壊の始まりでした。
Psyche showing  Sisters  Gifts from Cupid  Jean-Honoré Fragonard

「ルカ・ジョルダーノ作  1695-97年」
「夫はお前を喰おうとしている怪物だ」と姉達に言われ、プシュケ―は
それを鵜呑みにしてしまいます。彼女は返り討ちにしようとナイフと
ランプを用意し、寝ている夫の側へそっと近付きます。しかし、その姿は・・・。
LUCA GIORDANO 1695-97

「ジョン・ウッド作  1801-70年」
どうした事でしょう。怪物と思っていた夫は、見目麗しき神様だったのです。
彼女は驚き、ランプの油を一滴零してしまいます。油は肩に当たり、
クピドは直ぐに目を覚ましました。
Psyche Enamoured of Cupid  John Wood

「Vincenzo Carducci 作  1568–1638年」
事態を悟ったクピドは妻に「お前とはもう暮らしていけない。愛と疑いは
同居できない」と言い残し、窓から飛び立っていってしまいます。
このクピドの寝相、かなりセクシーですね。危ない感じが・・・。
Cupid and Psyche, by Vincenzo Carducci, 1568–1638

ヤコポ・ツッキ作  1541-1590年」
以後、クピドの姿を目撃するプシュケーの絵画が延々と続きます。
かなり人気のある主題であったようですね。プシュケーさんは笑顔で
ナイフを手に持ち、眠れるクピドを見下ろしています。
なんか違うシーンになりつつあるお・・・。
Amor and Psyche (1589) by Jacopo Zucchi

Louis-Jean-François Lagrenée 作  1725-1805年」
クピドの寝相が可愛らしすぎて、何時間でも見ていられるわ♪という
感じのプシュケーさん。物語の劇的な雰囲気は感じられず、静かで
気品ある作品ですね。肌や布、羽の質感とかも精緻で美しいです。
Psyche with Sleeping Cupid  Louis Jean Francois Lagrenee

ジョシュア・レノルズ作  1789年」
バロックの暗黒主義の作品。暗闇の中の光を主眼においた作風なので、
このシーンはもってこいですね。プシュケーの持っていたものは蝋燭と
いう説もあり、画家はその方を採用しているようです。
蠟が肩に垂れたら熱そうだなぁ・・・。
Joshua Reynolds 1789

ジュセッペ・クレスピ作  1707年」
カーテン越しからチラッと見るプシュケーに、拒否する仕草を見せる
クピド。鑑賞者にクピドだという事を知らせる為、羽だけではなく
弓矢や矢筒が描かれている作品が幾つかありますね。
Giuseppe Naria Crespi also known as Spagnolo 1707

オラツィオ・ジェンティレスキ作  1610年」
後ろめたーい感じのプシュケーに、「え、見たの?」と言った感じの
クピド。神話画というよりも、肉体がリアルな為か人間味がある作品の
ように感じます。
Orazio Gentileschi - Cupid and Psyche 1610

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1577-1640年」
肉体凄すぎですって!
プシュケーもクピドもむっちむちの身体をしております。絵画に
描き込まれた女性は一体誰なのでしょうかね?彼女がナイフを持って
いるので、悪意を吹き込んだ姉を同時に登場させているのかな?
Cupid And Psyche by Rubens

 無人の美しい宮殿にいる美女。二人の姉の嫉妬。そして怪物の夫・・・。
 このプシュケーとクピドのシナリオを読んで、なんとなく「美女と野獣」を思い出しました。ディズニー映画で見た事がある人は多いのではないでしょうか。美女と野獣は18世紀のガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ(ヴィルヌーヴ夫人)が書いたフランスの異類婚礼譚が起源となっております。
 展開こそ異なるものの、随所に類似した部分が見られるように感じます。事実、ヴィルヌーヴさんはゼウスが動物に変身して女性を誘惑するという部分に着想を得て、野獣を創り出したとされており、このプシュケーとクピドの物語を参考にしている可能性も大いにありそうです。
 現代においても影響を与えているギリシャ神話の物語って、偉大ですね。



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