Pietro Bianchi, Pyramus and Thisbe, c. 1724-5 -

 ピュラモスとティスベはギリシャ神話に登場する恋人たちです。オウィディウスの「変身物語」に掲載されています。
 バビロンの街の隣人同士である二人は愛し合っていました。しかし、彼等の親は折り合いが悪く、その恋に猛反対。会う事すら許してくれず、ピュラモスとティスベは毎夜ごと壁に空いた穴から愛をささやく事しかできませんでした。月日は経ち、二人は駆け落ちをして何処か遠くで暮らそうと決心し、バビロンのはずれのニノスの墓所で落ち合おうと約束したのです。

 約束の夜にティスベは家から抜け出し、墓所へと到着します。ピュラモスはまだ来ていません。彼女が泉のほとりの桑の木の側で待っていると、恐ろしいうなり声が聞こえてきました。ティスベは慌てて逃げたものの、被っていたベールを落としてしまいます。姿を現したのは口元を血で染めたライオン。猛獣は水を飲み、ベールにじゃれついて遊んだ後に遠くへと去っていきました。

 そのタイミングでピュラモスが現れてしまいます。目に入って来たのは血まみれで引き裂かれたベール。彼はティスベがライオンに食べられたと思い込み、絶望の余り持っていた短剣で自分を刺して絶命してしまったのです。もう安全と思って元の場所に戻ったティスベが見たのは、ベールを握ったまま息絶える恋人の姿。彼女はピュラモスが握っていた短剣を胸に当て、後を追ったのでした。翌日になり、惨劇を知った互いの両親は深く哀しみ、和解をして二人を一緒に埋葬してあげたそうです。
 悲劇の王道とも言えるピュラモスとティスベの絵画14点をご覧ください。

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「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1909年」
隣人であるにも関わらず、両親のいさかいのせいで
一緒になれないピュラモスとティスベ。彼等は両親の
目を盗み、壁越しで日々愛を囁き合っておりました。
Thisbe, by John William Waterhouse, 1909

「フランスの彩色写本の挿絵  15世紀頃」
「そうだ。愛の逃避行をしよう!」と二人は提案し、墓所で待ち合わせ
をします。しかし、ライオンが現れた事により勘違いの悲劇が
訪れてしまうのです・・・。布をはむはむしているライオンに、
絶命する二人。中世の作品がシュールです。
france 15th

「作者不詳  17世紀頃」
ピュラモスは恋人がライオンに喰われたと思い込み、短剣で自らを
刺します。その亡骸を見た彼女は、絶望しながら同じ短剣で後を
追ったのでした。泉の向こうにはライオンの姿が。
Anonymous 17th

「Andreas Nesselthaler 作  1795年」
あられもない姿で胸を刺し、亡くなっている愛しい人を発見する
ティスベ。空中では愛の神キューピッドが飛翔しておりますが、
二人は幸せを掴むことなく絶命してしまうのでした・・・。
Andreas Nesselthaler - Pyramus and Thisbe, 1795

「Frans Francken 1世の追随者作  17世紀」
とっても穏やかな感じのティスベさん。ショックを通り越して悟り切って
しまわれたのでしょうか。まだ少年のはずのピュラモスが、
将軍のようなムキムキの洋服を着たおじさんになってる・・・。
Attributed to Frans Francken I 1542-1616

ハンス・バルドゥング・グリーン作  1530年」
実際だと逃避行は深夜に行われた事なので、この闇深い作品の
ようだったのでしょう。照明がほぼない時代、かなりの暗さだったと
思います。ライオンに喰われた誤解をしたのも頷けますね。
こちらのピュラモスも立派な髭を生やしたおじさんだ・・・。
Hans Baldung Grien, Pyramus and Thisbe, c. 1530

「ルーカス・クラナッハ(父)作 1472-1553年」
悲痛な表情で愛しい人の短剣を使い、後を追うティスベ・・・。
って、ピュラモスがっつりと目を開けている!生きてるがな!
Lucas Cranach the Elder

「Jacopo Vignali 作  1592-1664年」
うつぶせに倒れるピュラモスに、前かがみになって短剣を胸に
当てるティスベ。結構なリアリティがある作品ですね。
Pyramus and Thisbe at the mulberry tree by Jacopo Vignali

ピエトロ・ビアンキ作   1724-5年」
短剣へダイブ!
よく見ると、短剣の柄はピュラモスの背中に当てられています。
自分の重さで剣が刺さった後、彼と重なり合えるという配慮
なのでしょうか。他の作品も背中に柄が置かれたものがあります。
Pietro Bianchi, Pyramus and Thisbe, c. 1724-5

グレゴリオ・パガニ作  1558-1605年」
何とも言えない表情をした、和風に見えるティスベ。
物語では短剣だとされていますが、長剣を描く作品も幾つかありますね。
この剣の細さだと、ピュラモスの方も刺さってしまいそうですが・・・。
Pyramus and Thisbe by Gregorio Pagani 1558-1605

「Niklaus Manuel Deutsch 作 1515年」
一瞬、ティスベがピュラモスを突き刺そうとしている図に見えて
しまった・・・。そんな猟奇的な内容じゃないですよね^^;
左側の女性達と微かに見える人影は彼等の両親でしょうか。
Pyramus and Thisbe, by Niklaus Manuel Deutsch 1515

「Abraham Hondius 作 1660-75年」
こわい、こわすぎる。ティスベさん鬼気迫る表情をしておりますね。
ピュラモスも白目だし・・・。
Abraham Hondius  Pyramus and Thisbe 1660-75

クリスティーヌ・ド・ピザンの写本挿絵  1400年頃」
ゆるい、ゆるすぎる。
劇的なシーンなのに、ピクニックをしているかのようなほのぼの感が
あります。さり気なくお座りしているライオンが可愛い。
Christin de Pisan  1400

「Jose Maria Arango 作  1790-1835年」
折り重なるようにして息絶えている二人。彼等の両親は恋人達の
悲惨な死を目の当たりにして深く後悔し、和平を結ぶのでした。
そうして二人を一緒のお墓に入れてあげたそうです。
Arango, Jose Maria; 1790-1835

 既にご存知かもしれませんが、このピュラモスとティスベの物語はシェイクスピアのかの有名な「ロミオとジュリエット」の元になったとされています。両家がいさかいを起こしている中での恋人。二人は共に逃避行を決めるものの、運命の悪戯で女性が命を落としたと思い込み、絶望の最中に命を絶つ男性。女性は亡骸を目の当たりにし、後を追う。そしてその悲劇を悲しんだ両家が和解する・・・。大筋のストーリーは全く同じなのです。

 古代ギリシャとシェイクスピアの時代。双方はかなりの年月が隔てていますが、お家柄を尊重し、領地を巡って争いを起こし、親が結婚相手を決める時代でした。親の目を潜り抜けて逃避行をする恋人達が、海で難破したり、山で猛獣に襲われたりして命を落としてしまったという事件も、現代より多かったように思います。当時の人々がこの物語を読んだ時には、現代の私達よりもずっと身近な事に感じられたかもしれませんね。

→ ロミオとジュリエットについての絵画を見たい方はこちら


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