
セイレーンはギリシャ神話に登場する、海に現れる怪物です。上半身は美女、下半身は鳥の姿とされています。(後世には魚となった) 海の岩場から美麗な歌を歌って船乗りたちを惑わして海にとび込ませ、その肉を喰らうと考えられています。憐れな船員たちの骨は島に流れ着き、山のようになったそうです。
ホメロスの「オデュッセイア」によると、英雄オデュッセウスが航海していた時、セイレーン達がいるルートを辿らねばなりませんでした。歌を聴くと破滅するので、船員たちは耳を蠟で塞ぐことにしました。しかし、オデュッセウスはセイレーンの歌を聴いてみたいと、部下に自分をマストに縛り付け、絶対に外さないよう命じます。美しい音色を聞いたオデュッセウスは暴走し、「セイレーンの元へ行くんだー!うおー!」と暴れましたが、部下は命令通りそのままにしておきました。船がその場を遠ざかってやっと、オデュッセウスは我に返ったのでした。
また、英雄イアソン率いるアルゴナウタイもセイレーンの座礁を通っています。彼等は吟遊詩人オルフェウスに頼んで、楽器リラを鳴らして打ち消すことができました。音には音で対抗ですね。しかし、ブテスという人のみセイレーンの歌に惹かれてしまい、海へと飛び込んでしまったそうです。
艶やかな音色で男を惑わすセイレーンの絵画13点をご覧ください。
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「フランスのルーアンの色飾写本の挿絵より 1510年頃」
かつてセイレーンはニュムペーで、ペルセポネに仕えていました。
ペルセポネがハデスに誘拐された後、彼女は仕え人を探す為に
鳥の翼を願って得たとされています。(他の説もあり)
このセイレーンは鳥の姿と、男を惑わす楽器を持っていますね。

「イギリスの動物寓意譚より 1235年」
ただ、古代には鳥と考えられていたセイレーンは後年になって
魚の姿となりました。その理由は定かではありませんが、
航海の仕方が沖合沿いから大海原へと広がっていった事が
あげられるそうです。

「ハーバード・ジェイムズ・ドレイパー作 1863-1920年」
人魚のような姿で固定されていたセイレーンは19世紀頃になると
また変化し、妖艶な美女に変身できる存在となりました。
アンデルセンの「人魚姫」が1836年に出版されたので、
もしかしたらそれが関係しているのかもしれません・・・。

「ウィリアム・エッティ作 1837年」
こちらも両足があるセイレーン。ただ、悲恋物語の人魚姫と真逆で、
男達を食い散らかしておりますね^^;
奥の船ではオデュッセウスがマストに縛り付けられ、
「セイレーンちゃんの元へ俺は行くーー!」ともがいているようです。

「レオン・ベリー作 1827-77年」
こちらも魚らしさのない、楽器を持った美女の姿でセイレーンが
描かれています。マストに縛られたオデュッセウスはあくまでも
冷静に彼女を見つめておりますが・・・。どうなんでしょう。

「ギュスターヴ・モロー作 1875-80年」
夕日を背にゆっくりと進む船舶。鰻や水蛇のようにうねうねした
足をしたセイレーン達は優し気に子守歌を歌っているのでしょうか。
次の瞬間、男達に終焉が訪れているのかもしれません・・・。

「ギュスターヴ・モロー作 1826-98年」
モローはセイレーンの主題を幾つも描いています。こちらは
巨人並みのセイレーンが詩人と思われる男性の頭をぐわし!と
掴んでいますね。ワカメで飾られた容姿が怖すぎます・・・。

「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1900年」
オデュッセイアから離れ、画家は音楽を奏でるセイレーンと、
魅せられてしまった一人の男性を劇的に描いています。
露骨な誘惑と破滅が表されていたセイレーンのテーマですが、
この絵画は種族間を越えた愛の予感が感じられます。

「ウィリアム・エドワード・フロスト作 1810-77年」
セイレーンと騎士という題名の作品。こちらは男を誘惑する妖女と
してではなく、爽やかで楽し気なセイレーンを描いています。
もしかしたら、セイレーンと海のニュムペーであるネレイドと同一に
考えているのかもしれませんね。

「Eduardo Dalbono 作 1841-1915年」
難破しかけた船の中にいる何名かの男性。セイレーン達はお腹
いっぱいという風に寝ており、周囲には頭蓋骨が散らばっています。
次の獲物がのこのことやってきた感じでしょうか。

「ウィルヘルム・クライ作 1828-89年」
セイレーンの虜になってしまった男性。背景も美しく、いいムード
なのですが、このまま海に引きずり込まれてご飯と化すのですね・・・。

「グスタフ・ヴェルトハイマー作 1882年」
激しい嵐の中、接吻をしながら海へ引きずり込もうとするセイレーン。
男を喰らう怪物というより、共に心中しようとしている恋人達の
ように感じますね。劇的で美しい作品です。

「フレデリック・レイトン作 1830-96年」
お魚を取りに来た美青年の元へやって来たセイレーン。
こちらも恐怖の魔物という雰囲気は払拭され、「食べちゃいたい
くらい愛してる」という風の禁断の恋の匂いがしますね・・・。

セイレーンは音を発する装置の名称である、サイレンの語源となっているようです。セイレーンの歌声=危険=警笛=サイレンっていう感じなのでしょうかね。また、有名コーヒーチェーン店「スターバックス」のロゴである女性はセイレーンであるそう。なんでもスタバ創業メンバーの一人が、コーヒーや航海の歴史、シアトル港のルーツを探っていたところ、ノルウェーの木版画に描かれたセイレーンを見つけ、ロゴデザインに取り入れたからとされています。
かつて海で男を誘惑して喰らう魔物だったセイレーンは、現代の映画やゲーム、ロゴにおいて姿を変身させ、多岐にわたる活躍をしていますね^^
→ オデュッセウスの冒険についての絵画を見たい方はこちら
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>> 今更ながら……様へ
こんばんは^^
ハルピュイアがそのまま「疾風」と訳されていたのですか?
クレタ島のつむじ風や竜巻を司る女神から来ているとされているので、その影響なのかしら?
ギリシャローマ時代の人は「風」そのものの化身として見ていたけれど、それが鳥と解釈されて怪物となり、キリスト教によって悪魔化して死の使いにみなされたとか…。
なるほどです。