
ギリシャ神話に登場するミダスは、何でも黄金に変える能力を得たり、ロバの耳となってしまったりした王です。
フリギア(現トルコ)の都市の王であるミダスは、泥酔していたシレノスを保護して10日間もてなし、シレノスの教え子であるデュオニソスの元へ送り返しました。感謝したデュオニソスはミダスに願いを叶えようと申し出ます。すると王は「触れるもの全てが黄金に変わるようにして欲しい」と頼みました。こうして能力を手にしたミダス。始めこそは石や草が金に変わってウハウハしていましたが、食べ物や飲み物までが金に変わってしまい、自分の間違いに気付きます。「すみません。やっぱりいりません」と祈るミダスに、デュオニソスは怒ることなく聞き入れ、「ならパクトロス川で行水しなさい」とアドバイスしました。ミダスがそのようにすると、能力は流れていき、川砂は砂金に変わったそうです。
これに懲りたミダス王は富を憎むようになり、牧神パーンの崇拝者となりました。ある日、パーンと芸能の神アポロンは音楽合戦を行いました。パーンの素朴な音楽と、アポロンの美麗な音楽が奏でられます。審判者や居合わせた者たちはこぞってアポロンに軍配を上げましたが、ミダスだけはパーンを推薦しました。「お前は聞く耳がない!」と怒ったアポロンはミダスの耳をロバの耳に変えてしまいました。ミダスはターバンを巻いてロバの耳を隠していましたが、理髪師だけには隠せないので他言するなと命じていました。秘密に我慢できなくなった理髪師は、穴を掘ってそこへ話をささやいてから塞ぎました。その後、そこから育った葦が「王様の耳はロバの耳」と秘密を喋るようになってしまったそうです。
童話でもおなじみのミダス王についての絵画13点をご覧ください。
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「ニコラス・トゥルニエ作 1620年」
デュオニソスから何でも黄金に変える能力を貰ったミダス王。
始めは「億万長者じゃー!いえーい!」と喜びますが、食べ物や
飲み物が金に変わってしまう事を知り、彼は肝を冷やします。
絵画ではワインが黄金になっていますね。栄養が全くない・・・。

「C・E・ブロック作 1870-1938年」
19世紀の小説家ナサニエル・ホーソーンによると、ミダスはうっかり
愛娘を触ってしまい、黄金の彫像に変えてしまったそうです。
ご飯が金になるより数倍も悲しい出来事です・・・。

「ウォルター・クレイン作 1845-1915年」
絵の下には「ミダスの娘は黄金に変わった」と書かれていますね。
ワインが黄金になったという事は、手だけではなく全身どこでも
触れれば金になると言うことなのかしら。服もぴっかぴか・・・?

「アーサー・ラッカム作 1867-1939年」
幼い娘だけではなく、ミダス王までもが黄金に輝いているように
見える作品。きっとラッカムさんも「服も靴も肌に触れているものは
全部金になるのでは!?」と思って描いたのですね。凄く重そう・・・。

「二コラ・プッサン作 1594–1665年」
「こんな能力嫌だ!」と嘆いたミダスはデュオニソスに祈ります。
願いを聞き届けた神は「パクトロス川で行水してきなさい」と彼に
言いました。早速ミダスがそのようにすると能力は水に流され、
パクトロス川は砂金でいっぱいの川になったそうです。

「二コラ・プッサン作 1627年」
プッサン二枚目。こちらも行水をするミダスの作品。ミダスは左側の
うつむいているおじさんです。右側の人物はパクトロス川の擬人化
としている解説もありましたが、デュオニソスかな~?とも思って
しまいます。右下には子供二人が水を流しています。

「バルトロメオ・マンフレディ作 1617-19年」
脚をごしごしと洗うミダス王。象徴的なものを一切排し、暗闇の中で
静かに脚を洗っている様子はちょっと不気味に見えます。
黄金に対する嫌悪というか憎しみがひしひしと感じられるような・・・。

「Simon Floquet 作 1634年頃」
その後ミダスは富を捨て、牧神パーンの崇拝者となりました。
ある時パーンとアポロンが音楽合戦を行う事になり、二人の音楽が
奏でられます。審判者トモロスや取り巻き達がアポロンを支持する
中、ただ一人ミダスだけがパーンを絶賛するのでした。

「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1636-38年」
怒ったアポロンはミダスの耳をロバの耳に変えてしまったのでした。
こうしたテーマの絵画は「The judgement of Midas (ミダスの審判)」
と言う題が付けられ、幾つかの作品が残されています。

「ヤーコブ・ヨルダーンスの工房作 17世紀」
めっちゃ凄い肉体をしたアポロンですね・・・^^; 中央にいるのは
審判者トモロス。ミダスは右側の青い衣服を着た人物で、横の
パーンを指さしています。それにしても肉体が凄い・・・。

「アブラハム・ヤンセンス作 1601-2年」
さて、ミダス王はどこでしょう? 右手前の人物はサテュロスで、
中央にはトモロス。そして・・・そのちょっと右側を見てください。
ひっそりとロバの耳をしたミダスがいますね^^

「ノエル・ハレ作 1750年」
後光を発して神様パワーを出しまくっているアポロンが、ミダスに
罰を与えていますね。地べたにふにゃっと座って頭を抑えたミダスが
何だか可哀想です。それにしても審判者のトモロスさんはどの
絵画でもいいポジションにいるような気がします・・・。

「Othea's Epistle (女王の写本より) 作者不詳 15世紀」
最後にこんな作品を掲載する管理人w
アポロンの頭が!パーンが一般人というより、ミダスのロバの耳が
可愛いというより、アポロンの頭がーっ!

「黄金のパワーが欲しい!」と願ったのに「すみません。やっぱりいらない!」とデュオニソスに謝って許されたミダス。そして、「アポロンよりパーンの音楽の方が最強!」とアポロンに喧嘩を売ったのにロバの耳に変えられただけで許されてしまったミダス。一説によると彼が反省の色を見せると、アポロンはロバの耳を人間の耳に戻してあげたそうです。
アポロンは結構残酷な神で、音楽合戦に負けたサテュロスのマルシュアスという者を皮剥ぎにしてしまったり、愛を拒んだカサンドラに呪いを掛けたり、戦争においては疫病の矢をまき散らしたりしています。アポロンとは限らず、「私って神より優れてる!」と言った者はことごとく神の怒りを受け、悲劇的な最期を遂げています。
ミダス王自身が「わしが一番上手じゃ!」って言っていないから良かったのですかね。神は人間の「間違い」には寛容で、「奢り」には厳しいのかもしれません。ミダスは何と言うか、憎めない性格のように思えますね。
→ 皮剥ぎをされてしまったマルシュアスについての絵画を見たい方はこちら
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>> 季節風様へ
こんばんは^^
人間過ちは犯すもの。犯した後の姿勢が大事ですよね。
王の身分ではプライドが邪魔をしてなかなか「私が間違っていた」と言うのは難しい。その点ミダス王は素直だから許されるのですよね。
「触る全てのものを金にする」ではなく、「触る全ての金属を黄金に変える」なら大丈夫だろうかと考えたのですが、人間の体内に微量の鉄分が入っているので、結局は相手に触れると一瞬で貧血に陥りエライことになってしまいます…。
やはり欲望は厳禁ですね。
最後の絵は「アポロンは太陽神だ。だから頭を太陽にしよう」と考えた、象徴を好む中世の絵師が描いたのだと思います。
中世の作品で、ダフネが月桂樹に変わって悲しむアポロンも太陽の頭をしているものがあります。
ただ、気持ちが高ぶって太陽に変化してしまった!という可能性もあるかもしれません^^