The Toilet Of Venus by Peter Paul Rubens -

 化粧するヴィーナス (The Toilet of Venus) は、ルネサンスからバロック、ロココ時代に流行った絵画テーマです。
 化粧をしているのではなく、鏡を見たり、キューピッドや侍女に身だしなみを整えさせている美の女神ヴィーナスとして描かれることが多いです。原題の「Toilet」 はトイレという意味ですが、「身だしなみを整える」という意味としても使われ、身支度をしていることを指します。古代ローマの時代から身だしなみを整える女性の絵画は存在しており、それが派生して美しさの象徴であるヴィーナスに変化したのだと思われます。
 よく似た題名に「鏡のヴィーナス(Venus with a Mirror)」 がというものがあり、鏡に顔を映して身支度するヴィーナスの絵画に使われます。これらは時として混同されて用いられており、この記事では同一として紹介させていただきます。
 では、化粧するヴィーナスの絵画13点をご覧ください。

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「ジャコポ・ティントレットの後継者作  16世紀」
一糸まとわぬ姿のまま鏡を眺めているヴィーナスの足を、
侍女と思われる女性がマッサージ(?)しています。この作品では
ヴィーナス自身を描いたというよりも、女神のように美しい人間の
女性の身支度場面を描いた、といった風情ですね。
Toilet Of Venus  after Jacopo Tintoretto

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1577-1640年」
私の金髪って美しいわ~と眺める豊満な肉体のヴィーナス。
息子キューピッドが鏡を持ち、ヴィーナスの顔をじっと見ていますね。
The Toilet Of Venus by Peter Paul Rubens

「ディエゴ・ベラスケス作  1647-51年」
この作品は鏡のヴィーナスではなく、英国圏ではロークビーの
ヴィーナス(The Rokeby Venus)とも呼ばれています。この絵画が
イングランドのロークビー・ハウスにあった事に由来していると思われます。
現在ではロンドンのナショナルギャラリーで会う事ができますよ^^
The Toilet of Venus The Rokeby Venus Diego Velazquez 1647-51

フランチェスコ・アルバーニ作  1578-1660年」
かなり遠い感じの化粧するヴィーナス様。周囲が大騒ぎをしていても
気にせずにおめかしです。神々の棲む世界オリュンポスを
想像して描いたのでしょうか。平和な日常です(?)
The Toilet Of Venus by Francesco Albani

「グエルチーノ作  1622-3年」
キューピッドの数が半端ない作品。侍女がアクセサリーを選んで
いるようですが、「僕の花輪綺麗だよ!」「僕のお洋服の方が豪華!」
「こっちの飾りの方がいい!」と大騒ぎですねw
Guercino - The Toilet of Venus 1622-23

「グイド・レーニと彼の工房作  1620-5年」
先程の賑やかさとは打って変わり、沈んだ雰囲気のある作品。
三人がかりで身支度をしてもらっているヴィーナスはどこか上の空
のようです。何かしらの恋の病なのかしら・・・?
The Toilet of Venus  1620-5 Guido Reni and Studio

「シモン・ヴーエ作  1626年」
落ち着いた雰囲気のあるヴィーナスが鏡をじっと見つめています。
白い鳩や水差しは彼女のアトリビュート。
Simon Vouet The Toilet of Venus 1626

「シモン・ヴーエ作  1628-39年」
ヴーエさん二枚目。同じ主題でずいぶんと雰囲気が変わりましたね。
「私って美しいうふふ~♪」と酔いしれるヴィーナスですが、鏡の中の
女神は何だか不気味な微笑みになっています・・・。
Simon Vouet - Toilet of Venus 1628-39

「シモン・ヴーエ作  1640年」
三枚目のヴーエさん。上記の作品に構成はよく似ていますが、
技術&構図的によりレベルアップしたことが伺えます。
華やかさや美しさを前面にアピールした作品ですね。
Simon Vouet The Toilet of Venus 1640

フランソワ・ブーシェ作  1703-70年」
ロココの代表格とも言えるブーシェもこの画題を手掛けています。
きらめく濃淡に優しい色使いの中、優雅に身支度をしている
ヴィーナス様。髪を整えるのも一苦労ですね。
The Toilet Of Venus by Francois Boucher

「フランソワ・ブーシェ作  1751年」
ルイ15世の公妾ポンパドゥール夫人はブーシェのパトロンをしており、
この作品はベルビュー城の彼女の化粧室を彩る為に依頼されました。
ポンパドゥール夫人は劇でヴィーナス役をやっており、この作品は
美の女神に夫人を重ね合わせたものだと思われます。
The Toilet of Venus, by François Boucher 1751

ジャン=バプティスト・ルニョー作  1754-1829年」
緑溢れる自然の中、身を飾って鏡を見ているヴィーナス。
身だしなみを立派に着飾る夫人たちは、美の女神のように美しく
なりたいと願って、こういった作品を依頼したのでしょうかね。
The Toilet of Venus' by Jean-Baptiste Regnault 1754-1829

ウィリアム・エッティ作  1787-1849年」
近代のこの作品は宮廷の優雅さや美麗さではなく、古代ギリシャや
ローマの情緒が感じられますね。髪を結っているヴィーナスを
数人がかりで飾ろうと奮闘中です。
William Etty  The Toilet of Venus 1787-1849

 少しはしたない話になりますので、ご了承ください^^;
 身支度を表している単語「Toilet」。このToiletは「トイレの便座」というニュアンスが含まれているようで、イギリス英語ではお手洗いと便座の二つの意味で、アメリカ英語では便座オンリーで使われる単語のようです。
 現代だと、家の中のトイレは「bathroom」、公衆トイレだとイギリス英語では「bathroom」や「toilet」、アメリカ英語だと「restroom」が使われているようです。日本語で言うと、「bathroom」は「お手洗いへ行ってきます」、「toilet
」だと「便所へ行きます」くらいのニュアンスなのではないでしょうか。

 そう考えると、「The Toilet of Venus」という言葉は美しいヴィーナス様にとってお上品さに欠けるように思われてしまうのですが^^;  bathroomやrestroom、化粧室という意味のpowder roomを使った方が上品に聞こえるような気がすると、私には思えてしまうのでした。当時にはトイレや身支度、化粧室を表す単語が「toilet」しかなかったのかしら・・・?



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