Jan Gossaert, Danae, 1531 -

 ダナエはギリシャ神話に登場するアルゴスの王女で、ゼウスとの間に英雄ペルセウスをもうけました。
 ある日、アルゴス王アクリシオスは世継ぎについての神託を求めました。結果は「息子は生まれないが、男の孫ができてお前は孫に殺される」という恐ろしいものでした。王は慌てて娘ダナエを青銅の部屋に閉じ込めたのですが、神の王ゼウスが彼女に目を付け、黄金の雨に化けて関係を持ってしまったのでした。

 年月が経ち息子ペルセウスを産んだダナエ。アクリシオスはおののきながらも娘と孫を殺すことをためらい、二人は箱に入れられて海に流されたのでした。箱はどんぶらこっこと海を漂い、運よくセリーポス島に漂着して二人は漁師に救われたのです。その後も神話は続きますが、画家達にとって部屋に閉じ込められたダナエの元に、金の雨に変化したゼウスが現れる場面は需要のあるシーンだったようで、多くの作品が残されています。
 では、ダナエの絵画13点をご覧ください。セクシーな描写が含まれますのでご了承ください。
 
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「ベルギーのブリュージュにある彩飾写本より  1470-80年」
中世ルネサンス時代のダナエ。なんかもうツッコミどころが色々と
ありますね。ベッドに金の雨が降っておりますが、横にゼウスが
ちゃっかりといます。それにしてもダナエの頭の団子はなんだろう。
Ovide moralisé en prose, Bruges 1470-80 Jupiter and Danaë

ヤン・ホッサールト作  1531年」
北方ルネサンスの美しい描写のダナエ。晴天にもかかわらず、
座り込む彼女の頭上から金色の雨が降り注いでいます。晴天と
雨という対比が神秘的な雰囲気を醸し出していますね。
Jan Gossaert, Danae, 1531

「Antonio Bellucci 作  1654-1726年」
史実には乳母の記述はありませんが、乳母を描く作品は数多く
あります。子供を授ける場面だから育てる乳母もいるみたいな
感じなのでしょうか。ダナエの座り方や乳母の布を持つ手など、
ティツィアーノの作品を彷彿とさせます。
Danae is by Antonio Bellucci

ダニエル・マイテンス(子)の追随者作  17世紀頃」
突然ばらばらと降り注いでくる金貨に驚くダナエ。黄金の雨を
金貨として表現する作品もあります。右側のキューピッドは二人で
何をやっているのかな?羽の毛づくろい?←ぇ
Danae by Attributed to Daniel Mijtens the Younger

「イタリアの工房作  17世紀」
眠るダナエの元に雨ではなく直接ドロンと来てしまったゼウス様。
全然黄金の雨じゃない・・・。
DANAE 17th italian school

ヘンドリック・ホルツィウス作  1558-1617年」
こちらはゼウスが鷲の姿として登場。しかも乳母だけではなく、
沢山のキューピッドやヘルメスまでもが来てしまっています。
セキュリティが甘すぎますよこの青銅の部屋!
Danae Being Prepared To Receive Jupiter Hendrick Goltzius

「レンブラント・ファン・レイン作  1636-43年」
他の賑やかな作品とは異なり、静かな雰囲気を称えたレンブラントの
作品。苦悶の表情を浮かべた黄金のキューピッドは何を意味して
いるのか様々な解釈があるそうです。それにしても乳母が怖い。
Rembrandt van Rijn  Danae 1636-43

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  17世紀」
こちらもゼウスがそのままの姿でドロンと現れています。
黄金の雨感はゼロですね。鷲はゼウスの化身ですが、こちらでは
アトリビュートとして用いられているようです。
Jupiter and Danae 17th Peter Paul Rubens

ガスパール・バセラ作  1560年」
こちらのゼウスはじゃらじゃらとした金貨の雲に乗って登場です。
どうしてダナエさんこんなにセクシーポーズなのだろう。そして
どうして乳母までもが服を着ていないのだろう・・・。
Gaspar Becerra 1560

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作  1696-770年」
こちらはかなり開放的な空間のダナエ。お父さん、娘を閉じ込めておく
気がありませんね!ゼウスも堂々と侵入してしまっています。
鷲の登場に、わんちゃんがびっくりしています。
Giambattista Tiepolo Danae and Jupiter 18th

ヨアヒム・ウテワール作  1566-1638年」
ドカーン!と雲の合間から現れたゼウスにかなり驚くダナエ。
乳母も全力で仰天しているようです。だから、何故乳母の服が・・・。
Joachim Anthonisz Wtewael

「ヴェネツィア派の工房作  17世紀」
背景を排し、ダナエを主眼に置いた作品。金貨付きの雲がダナエに
覆いかぶさり、キューピッドは「しーっ」と何も言わないよう私達に
語りかけています。
Artwork by Venetian School 17th  DANAE

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1741-1825年」
このせいでペルセウスを身籠ってしまったダナエ。二人は父によって
箱に入れられて海へと流されてしまいます。とんでもない事件で
授けられた命ですが、ダナエにとってはかけがえのない息子。
漁師によって助けられた彼女は息子を大事に育てたのでした。
Henry Fuseli - Danaë and Perseus on Seriphos 1741-1825

 1985年の6月15日のエルミタージュ美術館。そこで大事件が起きました。リトアニアの男性がレンブラント作の「ダナエ」に硫酸を浴びせ、刃物で二回切りつけたのです!
 この男性は美術館に入館した際、「どの作品が一番価値があるのか」と職員に問いかけ、その後犯行に及んだそうです。「ダナエに誘われたからやった」という不可解な言動をしており、男性は精神病院へと送られて6年間入院したそうです。被害を被ったダナエは12年間を掛けて修復作業が行われましたが、元通りにはなりませんでした。
 絵を描き、芸術を愛す身としてはこの事件はとても悲しいです。ただ、レンブラントのダナエはそれだけ価値があり、魅力的で美しい作品だということなのかなとも思いました。


→ ダナエの絵画をもう少し追加で見たい方はこちら<日本版Wiki>
→ 英雄ペルセウスについての絵画を見たい方はこちら
→ フュースリについての絵画を見たい方はこちら


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