Jupiter and Semele Gustave Moreau 1894-95 -

 セメレーはギリシャ神話に登場する、ゼウスに愛されヘラの陰謀で殺された女性です。
 テーバイの王カドモスとハルモニアとの間に生まれたセメレーは、ある日ゼウスに見初められ、子を身ごもってしまいます。それに嫉妬した妻ヘラは、セメレーの乳母に身を変えて彼女に近付き、こう吹き込みました。「その男は本当にゼウス様かしら。素性を証明するよう言ってみなさい」と。それを間に受けたセメレーは、ゼウスに「愛の証として聞いて欲しい」とお願いし、彼は叶えようと誓いを立ててしまいます。しかし、「天上での神々しいお姿を見せて」とセメレーが言うと、ゼウスは誓ったことを後悔しました。最高神の真の姿は、人間にとって直視できるものではなかったからです。

 ゼウスが仕方なく神本来の姿になった瞬間、セメレーはまばゆい閃光に焼け死んでしまいました。亡くなったセメレーから生後6か月の胎児を取り出し、ゼウスは自身の腿に入れて臨月まで育てました。こうして生まれたのが、豊穣と酩酊の神ディオニュソスだったのでした。
 では、ゼウスの真の姿を見て閃光に焼かれるセメレーの絵画12点をご覧ください。

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「ジャコポ・ティントレット作  1545年」
「あの男は本当にゼウス様なのかしら」と疑念を膨らませる
セメレーの元に、暗雲と雷を携えてビューンと飛来してくるゼウス。
ヘラの思惑通り、セメレーは神の力で焼け死んでしまうのでした・・・。
1545 possibly Jacopo Tintoretto

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1640年」
セメレーが破滅した原因は、ゼウスが「雷霆を持っていたから」
「天上での姿になったから」「黄金の兜を被ったから」など
バリエーションが幾つかあります。ルーベンスのゼウスは雷霆を
持って来てしまったようですね。
Peter Paul Rubens Death of Semele 1640

「ルカ・フェラーリ作  1605-54年」
こちらも雷霆を持ち、ドーン!とやって来たゼウス。
激しいタッチと陰影でまばゆい閃光を表現していますね。
Luca Ferrari - Jupiter and Semele 1605-54

「Gaetano Gandolfi 作  1734-1803年」
部屋中が赤黒い閃光に包まれ、焼け落ちる間際のセメレー。
左側には乳母に化けたヘラがおり、おっほっほと嘲笑っている
ようです。相変わらず理不尽な嫉妬ですね・・・。
Gaetano Gandolfi 1734-1803

ドッソ・ドッシ作  1489-1542年」
「ねぇ、貴方の真の姿を見せてちょうだい」「その答えはこれだ」
とゼウスが迷う間もなく、セメレーに雷霆を振り下ろそうとしています。
猟奇的なゼウスになっていますね^^;
Giovanni Luteri, called Dosso Dossi

「ジャックス・ブランチャード作 1600-38年」
「ねぇ貴方。真実を見せて」「これが真実じゃああぁぁー!」
と鷲を従え雷霆を持ち、セメレーに飛び掛かろうとするゼウス。
下心があるように感じる最高神。(いつもの事ですか・・・)
Jacques Blanchard

Étienne Jeaurat 作 1766年」
「私の真の姿はこれなのだ」といつになくシリアスなムード。
セメレーも燃えたぎるゼウスに怯えているようです。
Jeaurat, Étienne 1766

セバスティアーノ・リッチ作  1695年」
「私の天上での神々しい姿を見るがいい!」と現れるゼウス?
なんだか閃光で焼け死ぬような雰囲気ではないような・・・。
セクシーなシーンに仕立てあげられているような気がしますね。
Jove and Semele (1695) by Sebastiano Ricci

「Laurent Pécheux 作  1729–1821年」
セクシーなポーズを取りながら、神パワーで焼かれようとしている
セメレー。雷の閃光というより、室内70℃くらいの灼熱地獄そう・・・。
Laurent Pécheux  1729–1821

ピエトロ・デラ・ヴェッキア作  1603-78年」
ゼウス、セメレーさんを脅迫しちゃいけません!
至高神パワーどころか、人間レベルの凶悪犯に。
Jupiter and Semele by Pietro della Vecchia

「ギュスターヴ・モロー作   1894-95年」
モローは今までの様式を覆した、オリエンタルな風情溢れる
ゼウスとセメレー像を描いています。ゼウスが中央の玉座に座り、
その隣には儚く小さなセメレーが。
Jupiter and Semele Gustave Moreau 1894-95

「ギュスターヴ・モロー作  1826-98年」
もう一枚似たバージョンをモローは描いています。
容姿は上記の作品よりもゼウスらしい感じですが、まぶしい閃光
レベルで言ったら上記の方が上かしら・・・。
Jupiter And Semele by Gustave Moreau

 セメレーの作品を見ていたら、気になることを発見しました。それは「描き方や様式がダナエの絵画に似ているものがある」ということ。金の雨に化けたゼウスに近付かれ、英雄ペルセウスを宿してしまうダナエ。
 金の雨のゼウスに見初められるダナエのシーンと、天上の真の姿を見て焼け死んだセメレーのシーン。双方は異なる場面に思われますが、絵画によってはセメレーなのかダナエなのか、一見にして分からないものもありました。ダナエにしては勢いよくゼウスが飛び出てきていたり、セメレーにしては艶っぽい感じだったり・・・。
 当時はそこまで区別して考えられていなかったのか、もしくは画家や依頼主がわざとそういう雰囲気にしたのか、はたまた二つの神話に接点を感じていたのか。その真実は、歴史の闇の中に・・・。

→ ダナエについての絵画を見たい方はこちら
→ 英雄ペルセウスについての絵画を見たい方はこちら


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