Arthur Rackham -Peer before the King of Trolls -

 ペール・ギュントは1867年にヘンリック・イプセンが手掛けた戯曲です。大ほら吹きで喧嘩っ早く、野心家な性格のペールが旅に出て、乙女と出会い、晩年に死のありようを考えて故郷へと帰る物語です。
 ペールは没落した豪農の息子で、母と暮らしていました。しかし元恋人のイングリッドの結婚式の際、彼女をさらって逃げてしまいます。なのにペールはイングリッドを早々に捨て去り、「魔王の国の王女です」と告げた緑の服を着た少女に結婚を申し込みました。「王になれる!」と喜んでいたペールでしたが、彼女はトロルの王女であり、ペールが連れられたのは不気味で恐ろしい世界でした。ペールはなんとか助かり、小屋を作って一人暮らすことにしました。そこに訪ねて来たのは、純情な乙女ソルヴェイグ。二人は結婚式の時に顔を合わせており、彼女はペールを追って来たのでした。しかし、ペールはソルヴェイグにふさわしい男に成長する為に、彼女を残して旅に出ることにしたのです。

 村で母の死を看取ってから、ペールはモロッコで全財産を奪われたり、盗賊の宝石を得たものの、美女の踊り子アニトラに誘惑されて全財産を奪われたり、エジプトの精神病院で皇帝として崇められたりしました。すっかり老人になり、金品を得ることができたペールはノルウェー行きの船に乗っていましたが、難破して全財産が海に沈んでしまいます。無一文で故郷に着いたペールは山小屋に行く勇気がなく、その場から逃げ出してしまいました。

 そこに、ボタン職人であり死の使いである男が現れ「お前は中途半端で天国へも地獄へも行けない。そんな奴はボタンに溶かし込む」と言ってきました。ペールは答えを見つけるまでは待ってくれと嘆願し、疲れ果てて小屋へと足を進めました。そこには、年老いて盲目になったソルヴェイグがいました。人生をかけて自分を待ってくれていた彼女の膝へペールは横になり、子守歌を聞きながら静かに息を引き取ったのでした。
 大物になるという夢を空回りさせながら、必死に生きたペール・ギュントの挿絵12点をご覧ください。

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「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
誇大妄想癖を持つ乱暴者のペールは、招待されていない結婚式
に現れ、その最中に花嫁イングリッドをさらってしまいます。
しかも直ぐに飽きて捨ててしまう。なんという外道でしょう!
Arthur Rackham- Peer Gynt2

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
今度は、緑の服を着た魔王の国の少女の方へなびきます。
「俺は王になれるぜ!」と有頂天の表情です。「うふふ~国をどうぞ。
こっちへいらっしゃーい♪」と少女は言います。
Arthur Rackham- Peer Gynt

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
しかし、待っていたのは恐ろしい容貌のトロルでした。
ぺールを喰ってやろうという魂胆で、手にはお玉や包丁を持って
いるトロル魔女がいますね。流石のペールも命からがら逃げだします。
Arthur Rackham- Peer Gynt -Peer before the King of Trolls

テオドール・キッテルセン作  1913年」
こちらは何とも可愛らしいトロルの一団。ペールはポケットに手を
突っ込んでおり、やる気なさそうな感じ。

Theodor Kittelsen Per Gynt Hall of the Mountain King 1913

テオドール・キッテルセン作  1857-1914年」
トロルのお腹をぐさっと刺しているシーン。私はペール・ギュント
未読なのですが、色々調べてもこのシーンは出てきませんでした。
(追記) ペールがトロル「くねくね入道」と対決しているシーンだと
読者様が教えてくださいました!
Theodor Kittelsen

テオドール・キッテルセン作   1890年」
逃げ出したペールは一人で小屋を作ります。そこでソルヴェイグと
再会し、共に暮らすことにしたものの、トロルの王女と子供が
現れます。なんとその子供はペールとの間にできたというのです!
Peer Gynt  1890  Theodor Severin Kittelsen

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
魔女のような姿になり果てた王女と、正に悪ガキといった感じの
子供。ペールは英雄っぽく美形に描かれていますね^^;
「俺はソルヴェイグを愛す資格がない!」と思ったペールは、
彼女を小屋に残し、単身旅に出ることにしました。
Arthur Rackham, Peer Gynt

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
村にこっそりと戻ったペール。しかし、愛する母は死の淵にいました。
母親の臨終を看取り、ペールはモロッコへと旅立ちます。
Arthur Rackham- Peer Gynt -The death of Aase


「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
モロッコで早速全財産を失ったペール。その先で財宝を手に入れる
ものの、踊り子アニトラの美貌にやられ、全財産を巻き上げられて
しまいます。更にエジプトの精神病院で皇帝とあがめられ、
時が過ぎて行ってしまいました。
Arthur Rackham- Peer Gynt -Anitra's dance

「Sawwa Brodsky 作  1923-82年」画像提供元
老人になって一財産を築いたペールに追い打ちをかける悲劇が。
故郷へと帰る途中、船が難破して全財産を失います。ペールは
無一文で故郷ノルウェーへと足を踏み入れたのでした。 Sawwa Brodsky 2

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
「俺の人生って・・・」と悩んでいるペールの元へ、死の使いでボタン
職人である男に「お前を溶かし込んでやる」と言われ、彼は自分の
人生理由を求めてそこら中を巡るものの、人もトロルも罪の男も
誰も証明してくれませんでした。
Arthur Rackham- Peer Gynt 3

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
ペールが最期に辿り着いたのが、ソルヴェイグの待つあの小屋でした。
悲しみと疲労でいっぱいのペールをソルヴェイグはただ優しく迎え
入れ、ペールは心安らぐ子守歌を聞きながら、息を引き取ったのでした。
Arthur Rackham- Peer Gynt -Peer and Solvieg

 ペール・ギュントの挿絵が思ったよりも少なく、色々と探した結果、ほぼアーサー・ラッカムの独壇場になってしまいました^^; 北欧の神話や民話、戯曲の挿絵といえば、ラッカムさんと言っても過言ではなく、ほぼ席巻している状態のような気がします。ペールとソルヴェイグのラストシーンの挿絵があるだろうと思って探したのですが、私の技術が未熟なのか、見つかりませんでした・・・。なので、ラストはあえて二人の出会いの場面にしてみました。

 「ペール・ギュント」はグリーグの劇音楽を聞いたことがあり、知っている内容が「主人公が旅をして、トロルが出てきて、ソルヴェイグが待っているという」くらいで、深くは知りませんでした。物語を調べ、「こんなにペールがとんでもない奴だったとは!」と驚きました。花嫁を拉致して捨て、野心の為にトロルの王女と結婚しようとし、ソルヴェイグを置きざりにし、うっかりと誘惑で二回も無一文になってしまう。ラストの難破は自らの過失ではありませんが、難破の際にコックを蹴落としたらしく、じいさんになっても物凄く小悪党的な事をしています。

 そんなペールの為に、人生をかけてぼろぼろの小屋で待っていたソルヴェイグさん。本当に凄いです。日本でも戦死した夫を幽霊になってまで待ち続ける妻の物語があったような気がしますが、それは戦争という理不尽な理由があり、夫の身勝手ではないので納得できます。本当に愛する人なら待ち続けたいです。
 ですが、ペールの場合は「俺は見合う男になる!」という理由なので、個人的には「そんなんで置いて行くの!?」と思ってしまいます。(トロル王女の邪魔が入りますが・・・)「困難があっても二人で暮らせられたら幸せ」という感覚が、ペールには理解し難かったのでしょうかね。
 ソルヴェイグさん。私には、無理です・・・orz



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