Heinrich Vogtherr 1516 -

 聖エラスムスは3~4世紀頃に生きたとされる、カトリックの聖人です。アンティオキアのエラスムスとも呼ばれ、生きながらに腸を巻き取られて殉教したとされています。
 聖エラスムスはシリアのアンティオキアの司祭でした。彼はキリスト教を迫害しているローマ皇帝ディオクレティアヌス帝に捕らえられ、激しい拷問を受ける事になります。その内容は凄まじく、暴行、汚物をかける、斧で打ち、蛇やミミズのいる穴に投げ込む、煮えたぎる油&硫黄に放り込む等を行いました。しかし、聖エラスムスは何事もなく無傷でおり、彼が神に祈ると拷問史達に落雷が起きたそうです。

 この時は聖エラスムスは生き延び、マクシミアヌス帝の時代になりました。今度も彼は拷問を受ける事になり、鋭い針が突き出した樽に入れて転がす、やっとこで歯を抜く、指に鉄の爪を打ちつける、松脂や硫黄、鉛等を熱して口に流し込みましたが効果はなく、聖エラスムスは生きていました。
 しかし、無敵の聖エラスムスにも臨終の時が訪れます。303年、イリュリアの場でまたもや捕らえられた聖エラスムスは、片腹を裂かれて腸を引っぱり出され、巻き上げ機に腸を結ばれて巻き上げていかれたのです!こうして殉教してしまった聖エラスムスですが、この逸話は印象に残ったのか、何名かの画家によって生々しい作品が残されています。
 では、腸をぐるぐると巻き取られてしまった聖エラスムスについての絵画14点をご覧ください。閲覧注意になりますので、ご了承ください。

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「彩飾写本 時祷書より 年代不明」
中世らしい平面の絵で、聖エラスムスは穏やかな顔をしており
ますが、やっている事は滅茶苦茶恐ろしいです。
お腹の白い腸がぐるぐると巻き取り機に巻かれていく・・・。
a Book of Hours, ILLUMINATED MANUSCRIPT ON VELLUM

「オランダの王立図書館にある彩飾写本の挿絵より」
こちらは上の作品よりも平和に見える殉教。
お腹にちょっと切れ込みが入り、ソーセージのようにぐるぐると。
National Library of the Netherlands

「祈祷書の挿絵より  1510-20年」
表現的には上記の作品と変わらないのに、こっちの方が痛そう!
Prayer Book, St. Erasmus Walters Manuscript  1510-20

「ネーデルラント出身の画家作  1474年頃」
エラスムスさん、出されすぎて顔色が灰色になっちゃった!
と思ったら、全員顔色が塗られていないようです。当時、灰色の
上に色彩を乗せるグリザイユという手法だったので、恐らく肌色を
塗る前に画家の身に何かが起こってしまったのかな・・・と思います。
Saint Elmo, an unknown painter  the Netherlands, 1474

「ディルク・ボウツ作 三連祭壇画の中央パネル 1458年」
色彩の魔術師とも呼ばれたボウツさんの作品。構成は祈祷書の
挿絵によく似ていますね。聖エラスムスへの配慮や信仰があった
からなのか、腸が生々しくなく、象徴程度に描かれています。
Martyrdom Of St Erasmus Central Panel Dirk Bouts

「Heinrich Vogtherr 作  1516年」
ぱっと見、クラナッハ工房作かと思ったら違いました。
ドイツの同時期の画家のようです。沢山のギャラリーの中、
太めの腸が巻き巻きされています。
Heinrich Vogtherr 1516

アルブレヒト・アルトドルファー作  1480-1538年」
聖エラスムスを横たわらせる台もなく、開放的な場所で巻き取り機
オンリーで事を進めています。手を突っ込んでいるところが痛そう・・・。
Albrecht Altdorfer

「Orazio Borgianni 作  1613-4年」
リアルに描きすぎですって!
天使やギャラリー達よりも、お腹と巻き取り機の腸の生々しさに
目を奪われてしまいます。聖エラスムスの肌色の具合もリアル
ですし、もしかしたら本物を見て描いたのかしら・・・(怖)
Orazio Borgianni, The Martyrdom of Saint Erasmus, c. 1613-4

「二コラ・プッサン作  1628-29年」
こちらは青空の下、平穏(?)に殉教が行われようとしています。
お爺さんはヘラクレス風の銅像を指さし、「あれを崇拝しろ!」と
脅迫しているようですね。人びとのポーズは劇的な感じで、
残虐さや生々しさはあまり想起させられません。
Nicolas Poussin, Martyrdom of St Erasmus 1628-29

「二コラ・プッサンの追随者作  17世紀」
プッサンの作品を見て「凄いっ!」と思った画家の方が、それを
真似て描いた作品もあります。構成の問題なのか、臨場感が
あまりないような・・・。ワンちゃんが心配そうに見ています。
After Nicholas Poussin

「イタリアの司教区博物館にある作者不詳の作品 1657年」
ポーズはプッサンのものをお借りしているようですが、こちらは
巻き取り機が描かれておらず、お腹を切り開いているだけの
表現であるようです。天使や聖母子がお出迎えしておりますね。
Martyrdom of St Erasmus (1657) José Luiz -

ヨハン・カール・ロス作  1677年」
この作品も腸を抜かれる場面で、巻き取り機がありません。
「くるくる巻かれているのは神聖に見えない!」と思った故の
配慮なのでしょうか。敵と思われる者達も神妙そうに見守っています。
Johann Carl Loth 1677

「セバスティアーノ・リッチ作  1694-97年」
こちらの作品は黒光りする巻き取り機を真横に配置し、拷問史の
姿で腸のくるくるを隠しているようです。
周囲の闇が禍々しく、拷問具が恐ろしい・・・!
Sebastiano Ricci 1694-97

「メスキルヒのマスター作   1530年」
聖エラスムスのアトリビュートは、勿論腸の付いた巻き取り棒。
いや、こうも真面目な顔で棒を握っていると何とも言えませんね・・・^^;
St. Erasmus by the Master of Meßkirch, c. 1530

 今しがたの紹介のせいで、腸=聖エラスムスという状態になってしまったかと思われますが、彼は船乗りの守護聖人としても崇拝されています。
 嵐の夜に航海をしていると、マストの先に青白い炎が灯ることがあります。それは大気の電圧差で起こる放電現象なのですが、船乗りの人達はこの現象を「セントエルモの火」と呼び、「聖エラスムス(英語では聖エルモ)がお守りしてくださる!」と嵐の時に勇気をもらっていました。(ギリシャローマでは、この現象はふたご座の元となった双子カストルとポルックスと呼ばれていました)

 さて、聖エラスムスが何故船乗りの守護聖人になったということですが、それは「巻き取り棒」が船の錨(イカリ)を巻き上げて海上から揚げるのによく用いられていたからだそうです。
 やっぱり腸の巻き取り棒から離れられなかったのね、聖エラスムスさん!^^;

→ グリザイユについての絵画を見たい方はこちら
→ アトリビュートについての絵画を見たい方はこちら



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