
薄明光線は雲の切れ目から太陽の光が漏れた時、地上へと光線の柱が放射状に降り注いで見える現象です。逆に雲の切れ目から上空に光が注ぐこともあります。
薄明光線は地域によって、光芒、天使の梯子、天使の階段、ゴッドレイ、ヤコブの梯子、レンブラント光線と、様々な呼び名があります。「レンブラント光線」という呼び名は、バロックの画家レンブラントが薄明光線を好んで描いたことに由来するそうです。この光線を使用することにより、光と闇のコントラストが明確になって非日常性や宗教的な神秘性の表現が可能になりました。この手法はレンブラントのみならず、何名かの画家によっても用いられています。
では、薄明光線にまつわる光と闇の絵画13点をご覧ください。
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「ジャコポ・ティントレット作 1518-94年」
「マノアの妻への告知」という題の作品。旧約聖書の英雄サムソンを
妊娠したというお告げを天使から受けている場面です。
二人の背後には見事なまでの薄明光線が描かれています。

「レンブラント・ファン・レイン作 1633年」
十字架降下の作品。画家が27歳くらいの時の作品であり、
彼がいかに初期から薄明光線を用いていたのかが分かりますね。
自然体というよりも象徴的な放射状の形で描かれています。

「レンブラント・ファン・レイン作 1640年」
「神殿でのイエスの奉献」。長子であるイエスをエルサレムの
神殿に捧げに行くという場面です。室内ですが、窓から薄明光線
のような淡い放射状の光が差し込んでいます。

「レンブラント・ファン・レイン作 1653年」
キリストの磔刑。天からまばゆい光が降り注ぎ、明確なコントラストを
成しています。薄明光線を用いることで神秘性が増すということが
認識できる作品です。スポットライトのようにも感じられますね。

「レンブラント・ファン・レイン作 1640年」
旧約聖書より、アブラハムがハガルとイシュマエルを追放する場面。
薄明光線とは異なりますが、中央のハガルにのみライトが当たり、
他は闇に紛れています。明暗により彼女の辛い心情を表現した、
まさに光と闇の魔術師という所以ですね。

「レンブラント・ファン・レイン作 1606-69年」
牢屋の中の使徒パウロの場面。布教中に捕縛されてローマで殉教
したとされています。窓から降り注ぐ光をいかにレンブラントが
大事にしていたかが感じられますね。

「レンブラント・ファン・レイン作 1636年」
キリストの昇天の場面。神を象徴する白鳩から光線が降り注ぎ、
キリストや天使を照らしています。ティツィアーノの「聖母被昇天」と
構図が似ており、参考にした可能性があります。

「レンブラント・ファン・レイン作 1642年」
旧約聖書より、ダヴィデとヨナタンの別れを描いた作品。
二人の親友の別れを薄明光線を用いることにより、劇的に描いて
います。運命の分かれ道という感じですね。

「レンブラント・ファン・レイン作 ガリラヤの海の嵐 1633年」
ガリラヤの海の嵐という作品で、キリストと使徒達の航海を
描いています。薄明光線で彼等の人生の行く末を効果的に
象徴しています。1990年にボストンのイザベラ・スチュアート・
ガードナー美術館より盗まれた作品。未だに行方不明です・・・。

「フェルディナント・ボル作 1616-80年」
旧約聖書より、ヤコブの夢。この物語から「ヤコブの梯子」という
呼び名が生まれました。レンブラントとほぼ同時代の画家であり、
雲間から差し込む光や明暗の表現など意識している感じがありますね。

「フランチェスコ・ソリメーナの工房作 18世紀」
こちらもヤコブの夢の作品。薄明光線は描かれていませんが、
天上から天使さん達が梯子を使って降りてきていますね。
この夢により、ヤコブは「ここの土地はお前と子孫のものだ」という
預言を神から受けるのでした。

「ピーテル・ラストマン作 1614年」
こちらはレンブラントよりも少し先輩の時代の作品。外は晴天にも
関わらず、樹の隙間から光が漏れ出し、薄明光線のような表現が
用いられています。アブラハムのカナンへの旅を描いた作品。

「ジョン・コンスタブル作 1831年」
牧草地からのソールズベリー大聖堂の作品。鮮やかな虹と薄明
光線が降り注ぐ、イギリスの美しい田園風景が描かれていますね。
景観的美しさと、中央に聖堂がある事により宗教的美しさの双方が
感じられる作品です。こんな絶景見てみたいなぁ・・・。

薄明光線は別名「レンブラント光線」という事を先ほど述べましたが、気になることがありました。薄明光線は英語で「crepuscular rays」というそうで、そこから絵画を探しました。そうしたら英語圏において「レンブラント光線(
Rembrandt rays)や、(Rembrandt crepuscular rays)」という単語が見つからないのです。英語版wikiにおいて、薄明光線の別名はこのように紹介されていました。(日本語訳はノリでやったので間違えているかもしれません)
・ Backstays of the sun (太陽の背控え)
・ Buddha rays (ブッダの光線)
・ Cloud breaks (雲を割るもの)
・ Devil's rays (悪魔の光線)
・ Directional lighting (方向性の光)
・ Fingers of God (神の指)
・ God rays (神の光線)
・ God's Eye (神の目)
・ Jacob's Ladder (ヤコブの梯子)
・ Jesus rays (イエスの光線)
・ Light shafts (光の軸)
・ Ropes of Maui (マウイのロープ)
・ Sun drawing water (水を描く太陽)
・ Sunbeams (太陽光線)
・ Sunburst (裂ける太陽)
・ Tyndall rays (ティンダルの光線)
・ Volumetric lighting (体積ある光)
・・・というような感じです。やはりキリスト教圏なので、聖書にまつわる呼び名が多いですね。神やキリストのみならず、悪魔にも形容されているのが興味深いです。また、「ブッダの光線」というように仏教の後光のような表現の呼び名が知られているのですね。「マウイのロープ」はおそらくポリネシア神話の半神マウイから来た名前で、光線がマウイがロープで地上に降りてきているように見えたのでしょう。
そして、気付いたことは「レンブラント光線」という名称がないこと。wikiのみならず、英語圏で「Rembrandt rays」という呼び名は見つかりませんでした。そこから推測すると、レンブラント光線は日本限定での呼び名の可能性がありますね。もちろん英語圏以外では分かりませんし、私の調べ方が未熟だったとも考えられます。薄明光線を巧みに用いたレンブラントの作品を鑑賞した日本の美術家の誰かが、「素晴らしい!この現象をレンブラント光線としよう!」と考えて書籍に載せ、それが普及していったのでしょうか。いずれにせよ、薄明光線は天才画家を魅了する神秘性に満ちた現象なのでした。
→ 英雄サムソンについての絵画を見たい方はこちら
→ 永遠に見られなくなってしまった絵画を見たい方はこちら
→ ダヴィデとヨナタンについての絵画を見たい方はこちら
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>> 美術を愛する人様へ
こんばんは、はじめまして^^
レンブラントのアブラハムによる追放、使徒パウロの作品は薄明光線とは異なりますよね。
そうとは思いつつも掲載してしまいました^^;
彼の晩年の作品は「対象に強い光源を当てる」という方が多いと私も感じました。
光と闇の強いコントラストを用い、劇的で神秘的な場面を作り出す為に、様々な角度や光源を模索していたのかもしれません。
薄明光線の表現はその研究の一部のようにも思えます。
英語圏では用いられていない事も考えると、やはりレンブラント光線は日本限定の思い込みの造語なのかもしれませんね。
「光と闇の魔術師」というあだ名も気になって調べてみたのですが、個人的に英語では用いられている様子が感じられませんでした。
これも日本限定のような気がします。