Gerard de la Vallee Longinus piercing Christ’s side a spear -

 ロンギヌスの槍は、キリストの磔刑時において彼が息を引き取ったのかを確認する為に、脇腹を刺したとされている槍です。聖槍とも呼ばれています。
 伝説によると、槍の所有者であるロンギヌスはローマ兵であり白内障を患っていました。槍を脇腹に刺したところ、滴った血が目に当たって病気が治り、彼はキリスト教に改宗して聖人となりました。重要な聖遺物とされたロンギヌスの槍は、真偽のほどは定かではありませんが歴史上に度々登場します。

 イエスの処刑から約600~700年後には、槍は東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルにあるアヤソフィア大聖堂にあるとされていました。その600年後にフランス国王ルイ6世が先端部のみを買い取りましたが、フランス革命により行方不明。本体の部分は15世紀にオスマン帝国のスルタンが教皇インノケンティウス8世に送り、現在においてもサン・ピエトロ大聖堂に非公開で保管されているそうです。

 また、このローマの聖槍以外にも「アンティオキアの聖槍」、「神聖ローマ皇帝の聖槍」、「アルメニアの聖槍」など様々な槍が「ロンギヌスの槍」であると解釈され神聖視されてきました。アーサー王の聖杯伝説においてもロンギヌスの槍は登場し、様々な伝承や伝説が融合した結果、「所有する者に世界を制する力を与える」という魔力めいた能力まで有するようになります。北欧やケルトの神話や民話において、伝説の武器を使いこなす者は国を総べる。というエピソードが度々みられるので、その影響がみられるような気がします。
 では、伝説のロンギヌスの槍にまつわる絵画13点をご覧ください。

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「彩色写本より  作者年代不明」
磔刑の中、槍を掲げる二人の男性。あれ?と思うかもしれませんが、
ロンギヌスは左側で、右の人物はステファトン。彼は槍の尖端に
葡萄酒と酢を含ませたスポンジを付け、キリストの口元に掲げた
という逸話を持っています。
Crucifixion miniature, Rabula Gospels legend Loginos

「ドイツの金属と釉薬の作品  1200年頃」
こちらもロンギヌスとステファトンの二人が表されています。
本当はステファトンの飲み物をキリストがなめ、その後絶命し、
しばらくしてからロンギヌスが槍を刺したのですが、中世では
同時進行のように描かれています。
Longinus and Stephaton in a German enamel, ca. 1200

「フラ・アンジェリコ作  1395–1455年」
ルネサンスが芽吹くと、ステファトンは姿を消してロンギヌスオンリーに
なってしまいます。「キリストは肉体の命を終えた」という事が
感じられるような、殺風景で悲しみが表れている作品です。
Fra Angelico (1395–1455)

ジョヴァンニ・ディ・パオロ作  1447年」
ロンギヌスが槍を携えて馬で登場し、今まさに刺そうとしています。
頭には後光が描き込まれていますね。右側の男性はキリストの
処刑を嫌々ながら命じたピラトか、キリストの遺体を引き取りたいと
申し出たアリマタヤのヨセフという人物かな?
giovanni di paolo di grazia 1447

「マティアス・グリューネヴァルト作  1515年」
ドイツの画家グリューネヴァルトは生々しい磔刑像を描いています。
余りにもリアルな描写に失神者が出てしまったとか。右側の
槍を持った甲冑の男性がロンギヌス。刺す事は止めて、聖人と
して登場しております。
Mathias Grünewald 1515

「ドイツ出身の画家作  17世紀」
乗馬し、流れるような動きで脇腹に槍をさしているロンギヌス。
足元に聖母マリアやマグダラのマリアなど聖人達が縋っています。
キリストの死を劇的に描いていますね。
German School, 17th

「フランス出身の画家作  17世紀」
なんというか素朴とさえ思える静かな磔刑シーン。
木々が茂る中、ロンギヌスはこれから槍を掲げて脇腹を刺そうと
しています。ロンギヌスとマリアとヨハネは一か所に固まって
おり、なんだかシンプルな光景です。
St John the Evangelist St Longinus  French School, 17th

サイモン・デ・ボス作  1603–76年」
こちらは激しい磔刑シーン。赤いマントをたなびかせ、ロンギヌスは
槍を掲げています。縋る聖人達に混じって、右側で戦いが起こって
いるようです。ピンクの男性は相手の耳を掴んで切ろうとしている
ように見えるのですが・・・。ペトロさんだったりして?
Simon de Vos 1603–76 Christus am Kreuz

ジェラルド・デ・ラ・バリー作  1596-1667年」
真っすぐに脇腹に突き刺さる槍。聖書では「心臓」に刺さったと
記述があり、「ここに心臓は無いよなぁ・・・」なんて思っていたら、
当時の人は肝臓が人体の要であり、心臓に匹敵する部分だと
考えていたそうです。なるほど納得です。
Gerard de la Vallee Longinus piercing Christ’s side a spear

「作者不詳 イコン 18世紀」
槍と十字架を手にして微笑みを浮かべる聖ロンギヌス。
伝説によると、彼は改宗した後にカッパドキアで修道生活を
送りました。その時捕縛され、裁判官により舌と歯を抜かれたが
言葉を話し、神々の神像を砕いたそう。悪霊に憑かれた裁判官が
ロンギヌスの首を刎ねると正気に返り、殺したことを後悔したとか・・・。
Saint Longinus hand icon 18th

「ジュリオ・ロマーノ作  1499-1546年」
イエスの誕生を拝みに来た羊飼いと共に、使徒ヨハネとロンギヌスが
描かれています。誕生した時にはロンギヌスは勿論いませんが、
時空の超越はノープロブレムです。使徒ヨハネは毒杯を飲んでも
無事だったという逸話がある為、杯が持物となっています。
Adoration of the Shepherds Sts. Longinus  John Giulio Romano

「Jean Colombe 作 1474年」
アンティオキアの聖槍を描いた場面。第一回十字軍が苦戦中、
トゥールーズ伯のペトルスが聖人の御告げで発見した!という
聖槍。これにより士気が上がり十字軍は勝利しましたが、槍の真偽を
証明しようと彼は神明裁判を行い炎に焼かれて命を落としたそう。
Jean Colombe 1474 Holy Lance Antioch

アーサー・ヒューズ作  1870年」
アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人ガラハッド。
ランスロット卿と王の娘の間に生まれた彼は、アーサー王に認め
られて聖杯捜索の任務を与えられます。苦難の末、彼は聖杯と
聖槍を探し出すことに成功しました。
Galahad The Quest of the Holy Grail Arthur Hughes 1870

 言い方は悪いかもしれませんが、「ロンギヌスの槍」はローマ兵士が生死を確認する為に、キリストの脇腹を刺したとされる槍。根源はそれが全てです。
 神の子であるキリストの血を受けた槍だから、聖なる力が宿っているに違いないと考えた人々は、どんどんと想像を膨らませ、聖槍に様々な効能を付与して伝説を増やしていきます。アーサー王伝説のみならず、wikiによると「ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの野望は、ウィーンの王宮で聖槍の霊感を受けた時から始まった!」という恐ろしい俗説もあります。

 本来、ロンギヌスの槍はキリストの死を象徴する槍であり、深く考察すれば肉体的な死から霊的な魂の復活を意味し、ロンギヌスの目の治療もありますし、復活や治癒のようなイメージが込められているように感じます。しかし、歴史を経るにつれて幾つかの伝説が混じり合い、「聖槍を手に入れた者は国を制する」という、「独裁」「権力」「国家」というキリスト教からかけ離れた意味合いを有するようになってしまったのです。

 更には現代において某SFアニメも影響し、「ロンギヌスの槍」という存在に多くの意味合いが付与されてしまっています。どんどんと影響が進む事が悪いという訳ではありません。現代のゲームやアニメ、小説では様々な聖書や神話由来の用語で溢れています。私もそこから学んだ用語が沢山ありますし、響きが格好いいからとお借りした用語もあります。
 しかし、そこで終わらずに、その用語の根源を調べて本当の意味を学び、用語について勘違いしないようにするのも大事であるように私は思います。
(若い頃、オーディンはFFのようにガッチガチで斬鉄剣を使用するものとばかり思っていました^^;今では恥ずかしい記憶です・・・)

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