Man with a Falcon on his Wrist (possibly St. Bavo) 1661 -

 レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン(1606-69)は、バロック期のネーデルラント(現オランダ)出身の画家です。「光と影の魔術師」という異名を持ち、明暗を強調した画風で知られています。
 8番目の子として生まれたレンブラントは1613年にラテン語学校に入学し、7年後には飛び級でライデン大学へ進学。翌年に画家を志して大学を退学し、歴史画家ヤーコプ・ファン・スヴァーネンブルフに弟子入りして三年間絵画について学びます。更に18歳の時にピーテル・ラストマンに弟子入りし様々な技法を学びました。

 レンブラントは自宅にアトリエを構え、製作にかかりました。同様にラストマンに師事していたヤン・リーフェンスとも知り合い、切磋琢磨しながら技術を向上させ、1628年には弟子を指導するまでになりました。技法研究に熱心であった彼は版画も手掛けるようになり、名声が世に広まってきました。1630年にレンブラントは故郷からアムステルダムへ移り、画商&画家のヘンドリック・ファン・アイレンブルフの工房を借りて制作を続けます。その後、彼のいとこであるサスキアと結婚し、邸宅を購入して大規模な工房を作ります。

 富と名声を得たレンブラント。しかし不幸も舞い込んできました。生まれた三名の子供は立て続けに死去。末っ子のティトゥスを産んだ翌年には、妻が病気になり亡くなってしまいます。「夜警」を手掛けていた頃でした。妻の看病や息子のお守りの為に雇われた未亡人とレンブラントは愛人関係となり、かねてから行っていた様々な骨董品を買い漁る浪費癖、彼の美術表現と依頼者の希望の乖離により、段々と仕事がなくなり資金が底をついて来ました。

 更に家政婦ヘンドリッキエとも愛人関係となったレンブラントは、未亡人と法廷で争って泥沼状態になります。金が底をついた彼は借金を背負って邸宅を手離し、貧民街に移りました。ヘンドリッキエと成人になった息子ティトゥスがレンブラントを支え、画家として細々と暮らしました。浪費癖の治らないレンブラントは借金と返済を繰り返して生活していましたが、ヘンドリッキエが病死。更にティトゥスも急死。最晩年のレンブラントは彼女との子供コルネリアと質素な暮らしをしながら、ひっそりと息を引き取りました。享年63歳でした。

 なかなか波乱万丈な人生を送ったレンブラントですが、彼の名声は400年後の日本においても褪せることなく輝いています。では、ブログでまだご紹介しておらず、更に独断と偏見で決めたレンブラントの絵画13点をご覧ください。

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「眼鏡の行商人(視力)   1624年」
レンブラントが18歳の時の作品。まだラストマンに師事していた頃
ですね。彼特有の明暗はありませんが、バロックの表現は充分に
発揮されています。あと、眼鏡はこんな風に売られていたのですね。
服がめちゃくちゃ胡散臭く見えます・・・。詐欺もあったのかしら?
The Spectacles-pedlar (Sight) 1624

「エマオの晩餐  1629年」
キリストの弟子達はエマオで旅人に出会い、食事を共にします。
その旅人は磔刑されたはずのキリストであったという、救世主の
復活を示した場面。キリストが逆光になっていて実体感が希薄に
見え、現実の存在ではない事を伝えていますね。
The Supper at Emmaus 1629

「サウルに音楽を奏でるダヴィデ  1629-31年」
旧約聖書より。名声を得ていたダヴィデにサウル王は嫉妬し、
音楽を聴いている最中にキレて、槍を投げてしまうシーン。
槍が投擲される数秒前と言った感じでしょうか。
David playing the harp before Saul 1629-31

「サムソンとデリラ  1629-30年」
旧約聖書より。英雄サムソンは髪から怪力を得ている特殊な性質
を持っていました。美女デリラはサムソンの謎を聞き出し、敵に
教えたので、彼は髪を切られて敵に捕らえられてしまうのでした。
デリラがうつ伏せでぐっすりと眠るサムソンの髪を指さしていますね。
Samson and Delilah 1629-30

「ラザロの復活  1630-2年」
キリストはラザロの訃報を聞きます。駆けつけた時は既に埋葬後。
しかし、キリストが「出てきなさい」と言うと、何事もなかったように
ラザロが出て来たのです!主役ではなく、あえて左側の人々の
背後から光を当てていますね。レンブラントの創意が感じられます。
The Raising of Lazarus, Rembrandt 1630-2

「エウロパの略奪  1632年」
ギリシャ神話より。ゼウスは人間の美女エウロパを攫う為に、
白い牡牛に変身し、彼女が背中に乗った途端に海を渡って行って
しまったとか。牧歌的な風景の中、海を渡っておりますね。
Rembrandt Harmensz. van Rijn - The Abduction of Europa  1632

「シャボン玉を吹くキューピッド  1634年」
楽しそうに遊んでいるキューピッドですが、シャボン玉は「儚い」、
キューピッドは「愛」という象徴がある為、「愛は儚い」という意味が
あります。レンブラントが描くと重みがありますね・・・。
16世紀には既にシャボン玉遊びが西洋にあったそうです。
Cupid Blowing a Soap Bubble 1634

「トビトの家族の元を去る天使ラファエル  1637年」
旧約聖書より。トビトの息子トビアと天使ラファエルは旅をし、
悪魔が憑いていた娘サラを助け出します。盲目のトビトを治し、
ラファエルが「さらばだ!」と去っていく場面。ドラマだとエンドロールが
流れるシーンですが、なかなか絵画では珍しい場面です。
The Angel Raphael Leaving Tobit and his Family 1637

「二匹の孔雀と少女の静物画  1639年」
勿論のことですが、レンブラントは聖書や神話画のみならず、
肖像画や静物画、民衆画など様々なジャンルを手掛けています。
絞められてしまった孔雀と少女のツーショット。それにしても
孔雀って食べられちゃうんですね・・・。
Still life with two Peacocks and a Girl 1639

「ルクレチアの死  1640年頃」
ローマの王子に乱暴されてしまったルクレチアは、夫や友人らに
事情を話し、自死します。怒った彼等は王政ローマを滅ぼし、
共和政ローマを築き上げたのでした。夫と思われる男性は異国情緒
ある衣服を着ていますね。コレクションにあったのかしら・・・。
The Death of Lucretia Rembrandt van Rijn

「アハシュエロスとハマンとエステル   1660年」
旧約聖書より、王はユダヤ人のエステルを王妃としますが、
部下ハマンはユダヤ人を抹殺しようとします。それを知った
エステルは一計を案じ、ハマンを滅ぼす事に成功したのでした。
王、エステル、ハマンの酒席が静かな感じに描かれていますね。
Ahasuerus, Haman and Esther 1660

「手首に鷹を乗せた男性 (聖バフォ)   1661年」
鷹を従え、ニヒルな笑みを浮かべるダンディな男性。
ゲントの聖バフォ(聖バーフ)は鷹をアトリビュートとしている為、
聖人画ではないかともされています。
Man with a Falcon on his Wrist (possibly St. Bavo) 1661

「クラウディウス・キウィリスの陰謀  1662年」
1世紀頃、ガリアやゲルマンの者達がローマ帝国へもとで反乱を
企てたとされており、レンブラントの作品は首謀者キウィリスさんを
筆頭に「勝利を!」と剣を合わせて誓いを立てております。
テーブルから光が発せられているかのような構成ですね。
The Conspiracy of Claudius Civilis 1661-2

 レンブラントの作品は新約聖書や旧約聖書、神話や歴史の物語が忠実に描かれており、かなり造詣が深かった事が分かります。ラテン語学校で学んでいたこともあり、語学が堪能で、様々な蔵書を読み、デューラーの「人体均衡論」も読んでいたとか。弱冠14歳で大学に入学し、18歳で弟子の期間を終え、22歳で弟子を持つようになった。この事からもレンブラントが並々ならぬ頭脳と技能を持っていた事が分かりますね。

 独立してからも絵画の研究に余念がなく、技術向上の為ならばどんなコレクションを買う事もいとわない。私のかつての美術の教授が「自分のスキルの為なら多額のお金を払っても安いと思う」と言いました。私もそう思います。人生は一度だから、スキル向上の為に資金を使うのは良い事だと思います。

 現代ではネット社会で、必要な情報や鮮明な写真がすぐに出てきます。ですが、レンブラントの時代は写真すらなく、珍しいものを必要な時に見るには、スケッチをするか現物を手に入れるしかありませんでした。スケッチは物の子細を描き込む事は難しいので、現物を「欲しい!」と思う気持ちも分からなくはないです。ですが、それにも限度があります。スキルの為に多額のお金を投じて借金をしてしまっては、人生に支障をきたしてしまいます。その芸術に対する熱意こそが、レンブラントの人生を狂わせてしまったのかもしれませんね。
 彼の人生は、光と闇の強いコントラストを放つ彼自身の絵画に集約されるような気がしてなりません。


→ サウルに音楽を奏でるダヴィデについての絵画を見たい方はこちら
→ サムソンとデリラについての絵画を見たい方はこちら
→ トビトとトビア、天使についての絵画を見たい方はこちら
→ ルクレチアの死についての絵画を見たい方はこちら
→ エステルについての絵画を見たい方はこちら


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