
トゥヌクダルスの幻視(トゥンダルの幻視)は、12世紀頃にアイルランド人の修道士マルクスが執筆したとされる物語です。不道徳な貴族騎士の青年トゥヌクダルスが意識を失い、天使に導かれて地獄と天国を目の当たりにし、悔い改めて目覚めるといった内容となっています。
ある日、トゥヌクダルスは食事中に発作で倒れてしまいます。魂のみとなった彼が悪霊に罵倒されているのを天使が助け、「貴方は罪を償わなければならない」と彼を煉獄と地獄へと連れていきます。身の毛もよだつような懲罰を目の当たりにしてトゥヌクダルスは怯え、天使に許しを乞いますが、天使は「天へ昇る為には貴方は懲罰を受けなければならない」と、彼は生前犯した罪に関連するいくつかの拷問を受けました。すっかり改心したトゥヌクダルスを天使は地獄へと連れていき、「更に罪深き者は永遠の苦しみに苛まれる」と彼が受けた懲罰よりももっと凄まじい地獄の拷問を見せて脅しました。
その後、トゥヌクダルスと天使は「完全ならぬ善人の憩いの場」を抜け、善行をした者の幸せな園の中を通り、聖人達が住まう天界へと足を踏み入れます。美しい世界で敬虔な者達が住まう様子を見て、トゥヌクダルスは感動し留まりたく思いますが、天使は「肉体に帰り、悪事を遠ざけよ」と助言を与え、彼を地上へと戻したのでした。地上へと帰ったトゥヌクダルスは、早速聖職者たちに感謝の意を示して財産を貧者に分け与え、着衣に十字の印を刻んだのでした。
では、トゥヌクダルスの幻視についての絵画13点をご覧ください。
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「中世のドイツの写本挿絵より 1514年頃」
イケメンの青年騎士トゥヌクダルス。彼は享楽にうつつを抜かし、
神への信仰を怠っていました。ある時、食事中に突然倒れ、
彼の魂は天使によって死後の世界へと導かれます。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
未判決者の魂の場へ連れられるトゥヌクダルス。ここは完全な悪
ではなく、罪滅ぼしをしたら天へと昇れる人々が行く場所。
親族を殺めた者は燃えさかる炭と鉄の蓋で溶かされる拷問を受けます。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
山々では悪魔に三又の槍で刺される拷問を受けている人々を目撃。
彼等は策略と不実の罪を贖おうとしているのでした。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
硫黄の川が流れる深い谷に渡る細い橋。傲慢と裏切りを罰し、
罪なき巡礼の祭司のみが無傷で橋を渡り切る事ができたのでした。
トゥヌクダルスは天使に連れられて恐る恐る渡ります。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
強欲な者を喰らいつくす巨大な獣アケロン。天使は「貴方は強欲の
罪があるから獣に喰われる必要がある」と断言し、彼を放置します。
トゥヌクダルスはアケロンに喰われ拷問を受け、贖罪が終わった時に
天使が迎えに来たのでした。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
罪人は鳥のような怪物に喰われて出され、蛇を妊娠して蛇に
腹を食い破られるという拷問を受けていました。彼らは禁を犯した
聖職者と肉欲に溺れた者でした。天使は「貴方は快楽に溺れた
のでこれをやってね」とトゥヌクダルスを拷問場へ残します。酷い。

「シモン・マルミオン作 トゥヌクダルスの幻視の写本挿絵 1475年」
凄まじい拷問場を次々と進み、彼等は地獄の深淵を覗きます。
そこには数々の悪魔と罪人、ルキフェル(ルシファー)がいました。
ルキフェルは自ら拷問を受けながら罪人に拷問を与えるという
事をしており、恐ろしい情景が繰り広げられていたのです。

「ヒエロニムス・ボスの工房作 1484年頃」
2017年に東京にもやって来た、有名なトゥヌクダルスの幻視の作品。
左下で意識を失っている彼が見た、奇想天外な地獄の情景です。
罪人を苦しめているというより、テーマパークのような楽しげな
雰囲気すらありますね。こんな地獄なら行ってもいいかも。←ぇ

「ヒエロニムス・ボスの追随者作 1485年」
天使に連れられてびゅーんとやって来たトゥヌクダルス。中央の
耳やら右側の怪物やらボスの影響がびしびしと感じられます。
地獄の残酷なシーンが描写されているこの物語は、ボス風の
怪物画を描くうえで格好の対象であったのでしょう。

「ヒエロニムス・ボスの追随者作 1530-40年」
風景画に点々といる静かな狂気。巨大なおじさんの顔や岩の
上の悪魔にトゥヌクダルスは「ひえっ!」と天使に助けを求めて
いるようです。

「ジャン・ウェレンス・デ・コックの追随者作 1530年」
全速力で逃げ出そうとしているトゥヌクダルス。天使は「罪滅ぼし
だから駄目です」とスパルタ対応です。右側で大口を開ける怪物は
アケロンなのかな?憎めない顔をしていますが、その中には
入りたくないですね^^;

「ヒエロニムス・ボスの追随者作 16世紀頃?」
構図的には工房作のトゥヌクダルスの幻視によく似ていますが、
細部に違いがありますね。眠る彼の側の天使の翼が物凄い事に
なっています・・・。

「ヒエロニムス・ボスの追随者作 15-6世紀」
まんま快楽の園のパクリやん!と突っ込みたくなる作品w
木男と賭博の罪辺りがチョイスされ、天使が「これが地獄なのだ」と
トゥヌクダルスに示しています。ボスの影響力の強さが分かる
作品ですね。

前にヒエロニムス・ボスに関する書籍を読んでいたら、「ボスの描写や怪物の姿に「トゥヌクダルスの幻視」の影響が見て取れる。この主題も描いているので、彼がその書籍を読んだ可能性が高い」と書かれていた為、「ボス師匠と同じ本が読みたい!」と早速トゥヌクダルスの幻視を読むことにしました。
日本語訳版の「トゥヌクダルスの幻視」はほぼ出回っておらず、探した結果以下の「西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄」の中にしか入っていないことが分かりました。電子書籍版にて購入し読みました。
文章の言い回し方は難解な部分もありますが、ページは少なく、内容的には複雑ではない為、ダンテの「神曲」よりも読みやすかったです(笑) 想像よりも導く天使が淡泊すぎて笑いました^^; 「貴方は罪があるから刑罰を受けねばならぬ」と問答無用に悪魔の拷問の中に放り込む守護天使様・・・。
現代の私達から見たら「ぐっちゃぐちゃにされてトゥヌクダルス可哀想!」と感じるものがありますが、当時では「罪があるなら拷問されて当たり前。それで贖罪されるならOK」という風に捉えられていたのでしょう。「地獄の恐怖があるから信仰が深くなる」と天使は断言していましたからね・・・。地獄の後は美しい天国へと下見に行き、「ここに留まりたい」とぐずるトゥヌクダルスを「なら善行をしなさい」と天使は現世へと放り戻します。彼は天国へ行こうと、富を捨ててキリスト教を深く信仰するのでした・・・。
この書籍を読んだら、また新たな視点でボスや彼の追随者たちの怪物に彩られた作品を鑑賞する事ができることと思います^^
→ ヒエロニムス・ボスについての絵画を見たい方はこちら
→ ヒエロニムス・ボスの追随者についての絵画を見たい方はこちら
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>> オバタケイコ様へ
こんばんは^^
地獄は恐ろしい場所!と訴えるなら恐い悪魔を描く方が良いのに、キモカワイイ怪物を描くなんて不思議ですよね。
「悪魔や怪物はリアルに表現するとおぞましすぎて神への冒涜になりかねないので、あえてデフォルメしている」「悪魔をわざと滑稽に見せている」っていう感じなのかしら?
トゥヌクダルスや罪人達は、魂だけの存在なので酷い拷問を受けても死ねないようです。
ずっと続く苦しみはむしろ恐ろしいですね(> <)
いつも変なところをツッコんじゃってます(笑)
派手な天使さんの絵画、現存していないのかネット上にないのか、どうしてもカラーの画像が見つからず残念でした。
フルカラーなら小林幸子さんを凌げたかもしれないのにっ…!←ぇw