
サイクロプス(キュプロクス)はギリシャ神話に登場する、一つ目の巨人の種族です。
天空神ウラノスと地母神ガイアの間よりサイクロプス族は生まれましたが、父の手で奈落タルタロスに落とされてしまいます。神々の大戦ティタノマキアの際にゼウス達によって解放され、その返礼として神々に三つの神器を造りました。戦争後は鍛冶の神ヘパイストスの所で鍛冶業を行ったとされています。
一方、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」に登場するサイクロプス族は、好意的な巨人ではなく、人を喰う凶暴な怪物として登場しています。サイクロプス族の島に漂着してしまった英雄オデュッセウスとその部下は、ポリュペーモス達によって捕らえられてしまいました。食べられていく部下。オデュッセウスは手持ちのワインでポリュペーモスの機嫌を取り、「私の名前はウーティス(誰でもない)」と告げました。巨人が酔いつぶれた頃、オデュッセウス達はその巨大な目を潰しました。痛がるポリュペーモスが「ウーティスにやられた!」と叫んでも、駆けつけた仲間達は「そっか、誰でもないのか」と帰ってしまいます。洞窟から無事に抜け出し、船に乗ったオデュッセウスは調子づいて自らの名を言ってしまった為、ポリューペモスは父であるポセイドンに祈り、彼は今後難破に苦しむ事になったのでした。
そんな少し哀れなポリュペーモス。狂暴だけかと思いきや、ニュムペーであるガラテイアに恋したという逸話も残っています。ガラテイアに恋していたポリュペーモスは、彼女が青年アーキスといちゃついているのを発見。嫉妬のあまり石を投げつけてアーキスを殺してしまいます。異なる文献によると、ポリュペーモスとガラテイアは無事にゴールインし、三人の子供まで設けたとされています。
では、ポリュペーモスを筆頭に、サイクロプスについての絵画12点をご覧ください。
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「ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン作 1802年」
どーん!とサイクロプスの顔がドアップです。
「一つ目」と言うと、両目部分に一つだけ目というイメージがありますが、
両目部分は潰れ、おでこの第三の目がぱっちりです。
容姿は殆どの画家がひげもじゃのおじさんを採用しています。

「ローマ時代のモザイク壁画より 4世紀頃」
ポリュペーモスらが住まうサイクロプスの島に漂着してしまった
オデュッセウス一行。一日に二人ずつ部下がご飯にされてしまい
ます。彼は巨人を上手く騙し、ワインで酔わせて眠らせました。

「ペッレグリーノ・ティバルディ作 1527-96年」
熟睡したのを見計らい、オデュッセウスは熱した木の杭で巨人の
目をぐさっとします。痛そう!それにしてもポリュペーモスの
ポーズが肉体美を狙いすぎている気がする!

「クリストファー・ヴィルヘルム・エッカースベルグ作 1812年」
羊飼いを生業としていたキュクロプス達。失明したポリュペーモスは
オデュッセウス達を逃がさないよう、羊を触って確認します。
しかし、彼等は羊の下にぶら下がり、その危機を脱したのでした。
絵画では丸見えの状態ですが気付いていないようです^^;

「ペッレグリーノ・ティバルディ作 1550-1年」
「俺の目を潰した奴は何処じゃぁぐるぁあぁー!!」と怒り心頭の
ポリュペーモス。足元では羊にぶら下がるどころか皮を被り、
オデュッセウス達が逃走中です。若干夢にうなされそうな顔!

「グイド・レーニ作 1639-40年」
「俺の本当の名はオデュッセウスだー!はっはっはー!」と
捨て台詞を吐く英雄に、悔しそうな表情を浮かべるポリュペーモス。
レーニは「聖セバスティアヌス」の作品の印象が強いので、
ムキムキなおじさんを描いているとは思わなかった・・・。

「ジュリオ・ロマーノ作 1526-8年」
楽器と棍棒を手に持ち、岩に貫禄ある姿で座っていますね。
足元にはアーキスとガラテイアらしき男女の姿が。
早く逃げないとぷちっと潰されちゃうよアーキス君!

「アンニーバレ・カラッチ作 1560–1609年」
アーキスに狙いを定め、今にも岩を飛ばそうとしている
ポリュペーモス。この伝説によると、巨人はガラテイアへの
愛のあまり、故郷を捨て、粗暴さを正し、身なりを整え、
アピールしていたそう。それでも愛は届かず狂気へと変わる。

「ポンペイのフレスコ壁画より 1世紀頃」
オデュッセウスには目を潰され、恋は実らず粗暴に戻る。
そんな不遇な彼ですが、アッピアノスの「イリュリア戦争」
によると、ガラテイアとポリュペーモスは結ばれています。
ガラテイアからのラヴレターを受け取る巨人の壁画。幸せそうですね^^

「ローマのフレスコ壁画より 45–79年頃」
ガラテイアの到着を耳にしたポリュペーモスという作品。
「何を話そうかなぁ、どきどき」と照れておりますね。それにしても
一つ目ではなく普通の人間のように描かれていますが・・・。
ほ、本当にポリュペーモスを描いた作品なのかな?←ぇ

「オディロン・ルドン作 1914年」
有名な作品ですね。ガラテイアをじっと見つめる一つ目の巨人。
嫉妬のあまり石をぶん投げるような神話の物語とは異なり、
見守っているかのようなじっと見つめる目が印象的です。

「ギュスターヴ・モロー作 1880年」
画面一杯に描かれた白く輝く肌を持ったガラテイア。
その奥にいる!顎に手を添え、「美しいぞ・・・」とのぞき込んでいます。
そんなお顔がイケメンですね^^;

凶暴で野蛮、愚鈍な印象を持つサイクロプス。
ローマ時代では髭もじゃの中年のおじさんの姿で描かれている作品ばかりで、ルネサンス~バロック期の作品もそのイメージを継承している作品が殆どです。そんな中で、ペッレグリーノ・ティバルディやギュスターヴ・モローの作品のポリュペーモスはイケメン風の全然違う容姿をしています。(ルドンは違った意味で浮いていますが)
美術は様式や手法、概念が乱立し、何を「美術」とするのかは人によりけりという部分があります。二人の画家は「サイクロプスは粗暴なおじさん」というイメージを覆し、「美術は美しさを追究するもの」というこだわりが感じられるように思います。
現代のゲームなどに登場するサイクロプスは、もう髭もじゃのおじさんではなく、一つ目で体色が青か赤か緑という人間離れした色で、スキンヘッドで角が一つか二つ。牙が生えており、野蛮人のような服装をしており、手には棍棒を持っています。その姿は「鬼」を想像させますね。
そのような姿に変わっていった経緯は判然としませんが、私には日本のゲームの影響があるような気がしてなりません。
→ オデュッセウスの冒険についての絵画を見たい方はこちら
→ オディロン・ルドンについての絵画を見たい方はこちら
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>> 粘土で作る私のルドンシリーズ最新作は『サボテン人間』だ( ̄▽ ̄)様へ
こんばんは^^
コメントがほぼルドンの話題となるのは私も想定外でした(笑)
ルドン有名だと思うんですけどね…。一般的ではないのかしら。
ここのブログ自体がコアな感じだからですかねw
オアンネス君はまだですね。
調べてみたら、オアンネス君の作品はルドンと古代の線画の2~3枚しか見つからなかったので、別名であるダゴンや半魚人など枠を広げてなら紹介できそうです。
こちらもティアナのアポロニウス特集+ラミアと言った感じなら紹介できると思います!
ごゆるりとお待ちくださいませ^^