Jan Lievens St Paul 1627-29 -

 聖パウロは1世紀頃に生きたキリスト教の迫害者でしたが、幻視の奇跡により改心した聖人です。ユダヤ名はサウロで、新約聖書の著者の一人とされています。
 新約聖書の「使徒行伝」によると、サウロ(パウロ)はエルサレムのラビ(宗教指導者)の元で学び、熱心なユダヤ教信仰者でした。その為、キリスト教に反対しており、ステファノを石打ちの刑にする事にも賛成していました。しかし、サウロがダマスコへ向かう途中、天から光が降り注ぎイエス・キリストの声が響きました。「サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか」と。そしてサウロの目が突然見えなくなってしまったのです。アナニアというキリスト教徒が彼の為に祈ると、なんと目が再び見えるようになりました。この奇跡を体験してサウロは改宗することにし、名前もパウロと改めたのでした。

 かつて信仰したユダヤ教の信徒から激しい迫害を受けながらも、パウロはアンティオキアを拠点にして弟子達と共に布教に励みました。三回の布教旅行を行った後、エルサレムで捕縛されて裁判の為にローマへと送られ、二年間軟禁生活となってしまいました。伝説によると、ネロ帝の時代にローマで斬首刑となり殉教したと考えられています。
 では、聖パウロの絵画13点をご覧ください。

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「Bertholet Flemalle 作  1614-75年」
馬に乗ってダマスコ(シリアの首都ダマスカス)へ向かう途中、
突然天から光が降り注ぎ、「サウロ、何故私を迫害するのか」という
声が響きます。絵画では救世主自らも登場し、そのあまりの
迫力にサウロは驚いて落馬してしまっています。
Bertholet Flemalle Conversion of Saint Paul Road to Damascus

「イタリアの工房作  17世紀」
この「サウロの回心」シーンは知名度があったようで、何名かの
画家によって描かれています。その殆どは落馬して驚きを表現
しています。天使率いるキリストがにょきっと現れ、サウロのみ
ならず他の人々も大騒ぎです。
Italian School, 17th The Conversion of St. Paul

ニコラ・ベルナール・レピシエ作  1735-84年」
この作品は聖書に忠実で、キリストの姿は描かずに薄明光線の
神秘的な効果によって奇跡を表現しています。盲目になった
サウロの表情は、敬虔な雰囲気をたたえていますね。
The Conversion Of St Paul  Nicolas Bernard Lepicie

「カラヴァッジョ作  1600-1年」
夜闇の中から天使に支えられたイエス様がにょきっと現れ、
何故か服を着ていないサウロが「目が~目が~!」と苦しんでいます。
メインよりも左のおじさんが気になったり、馬の奥行がどうなってる?
と思わせる色々とミステリーな作品です。
Caravaggio The Conversion of St. Paul, 1600-1

「ロレンツォ・リッピ作  1606-64年」
サウロの盲目は、キリスト教徒であるアナニアの祈りによって
すっかり治ってしまいます。その奇跡に彼は改心し、名もパウロと
改めてキリスト教徒になったのでした。
The Baptism Of Saint Paul  Lorenzo Lippi

ジャン・レストゥー作  1692-1768年」
天上からは聖霊の象徴である白鳩が様子を見に来ていますね。
「何故迫害するのか!」と訴えたり、盲目にしたりと、イエス様に
しては強引とも思えてしまう勧誘です。

Ananias Restoring the Sight of St Paul Jean Restout

カレル・デュジャルダン作  1663年」
敬虔な教徒となったパウロは各地で奇跡も起こしています。
絵画では足に障害を負ってしまった青年を治そうとしていますね。
伝説によると、三階から転落死してしまった青年を復活させた
という奇跡も起こしたそうです。
St Paul Healing the Cripple at Lystra. 1663 Karel Dujardin

ヤン・リーフェンス作  1627-29年」
パウロのアトリビュート(持物)は、新約聖書を構成する書簡を残した
ことから聖書か巻物。そして、斬首刑で殉教したとされている
ので長剣。書き物と長剣が傍らに置かれた老人だったら高確率で
パウロでしょう。
Jan Lievens St Paul 1627-29

クロード・ヴィニョン作  1622-24年」
カメラ目線でちょっと態度が大きく見えてしまうパウロ。
剣に寄りかかっている感じが文化人と言うより、歴戦の勇姿に
見えてしまうような。
Claude Vignon 1622-24

ドメニコ・ベッカフーミ作  1515年」
彼の人生を一枚の絵画として集約しました。
左側にはサウロの回心、中央でキリスト教徒として生き、
そして斬首されてしまう・・・。
Domenico Beccafumi - St Paul 1515

エンリケ・シモネ作  1887年」
腕を縛られ、無惨に斬首されてしまうパウロ。
しかし、転がる首からは眩いばかりの光が溢れています。
その後に起こった奇跡は文末コラムにて紹介します。
Enrique Simonet Lombardo  The Beheading of Saint Paul 1887

「ドメニキーノ作  1581-1641年」
「パウロの法悦」という作品。殉教したパウロは聖人として天へと
召されてゆきます。三名の天使に連れられ、飛翔中です。
Ecstasy of St Paul – Domenichino

「二コラ・プッサン作  1643年」
こちらも上空を飛んでいるパウロ。天へと昇る作品はキリストや
聖母マリアに見られますが、聖人は珍しいような気がします。
それだけ人気があり、信仰された聖人であるのかもしれません。
Nicolas Poussin Ecstasy of Saint Paul 1643

 捕らえられたパウロは斬首刑となり、首は無惨に切り落とされてしまいます。しかし、二世紀頃に書かれた「パウロ行伝」によると、傷口から吹き出したのは血ではなく、乳でした。乳を服に浴びた兵士、それを目撃した人々は驚き、パウロの奇跡に感服したとされています。
 また、斬首されたパウロの首は三つの地点へと転がり、その場所からこんこんと泉がわき出したそうです。斬首された自らの首を持って各地を旅する聖人は何名かいますが、首が勝手に転がっていって、三つの地点を旅するのはパウロだけであると思います。凄い奇跡なのでしょうが、そのシチュエーションを想像してしまうと、限りなくシュールに感じてしまいますね。首がころころ・・・^^;

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→ 自らの首を持って歩く四名の聖人の絵画を見たい方はこちら


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