Franz von Stuck - 1889 -

 ワイルドハントは、狩猟犬を連れ馬にまたがった狩猟者の集団が大挙して大空を駆けてくるという、西洋に伝わる伝承です。
 ワイルドハントは秋から春にかけて嵐を引き連れて出現し、疫病や戦争を前兆しているとされていました。その姿を間近に見た者は死に、更に進行を妨害した者は冥府へと連れていかれたそうです。助かるには地面に身を伏せてひたすらやり過ごすか、勇気ある者はワイルドハントに敬意を払い、度胸試しをすることで逆に富を与えられるそうです。

 伝承はとりわけ北方と西方に広まっています。ワイルドハントを率いる首領は地域や時代によっても様々で、オーディンであることもあれば、亡霊であったり、各国の王だったり、アーサー王であったり、悪魔だったりしました。ワイルドハントは嵐や災害の具現化とされていますが、北欧神話の主神オーディンが嵐を司る神であり、オーディン信仰が起源であると思われます。ワイルドハントの伝承を持つオーディンがキリスト教が普及するにつれて悪魔的な様相を示すようになり、ワイルドハント自体が様々な伝承と結びつき合い、禍々しい印象と数多くの姿形を持つようになったのだと思います。
 では、ワイルドハントについての絵画や挿絵、11点をご覧ください。

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「作者不詳  アンティークの書籍の挿絵  19-20世紀頃」
八本足の愛馬スレイプニルにまたがり、槍グングニルを掲げて
鬨の声を上げるオーディン神。彼はラグナロク(最終戦争)に
備える為に戦死した兵士をヴァルハラへ連れていくとされて
いました。その為に各地で戦争を起こしたのです。
wildhuntsman
ルドルフ・フリードリッヒ・オーガスト・ヘンネベルク作  1856年」
不動の姿勢で颯爽と現れるオーディン神。冬至の夜中に子供達が
スレイプニルの為に干草や砂糖を置いておくと、オーディンが
見返りとしてキャンディをくれるそうです。それがサンタクロースの
起源になったと言われています。オーディン優しい。
The Wild Hunter  Rudolf Friedrich August Henneberg, 1856

ルドルフ・フリードリッヒ・オーガスト・ヘンネベルク作  1856年」
数多くの狩猟団を連れて空を闊歩するワイルドハント。
その姿を見た者は恐怖により命を落とすそうで、足元は既に
犠牲者がいるようですね。
The Wild Hunter by Rudolf Friedrich August Henneberg, 1856

「Hermann Plüddemann 作  1852年」
こちらは地上にまでやってきちゃったワイルドハント。
キリスト教が普及するにつれ、ワイルドハント=魔物という印象が
強くなり、聖と闇という図式が出来上がっています。十字架×3つで
撃退できるともされていました。
The Wild Hunter by Hermann Plüddemann, 1852

ヨハン・ウィルヘルム・コーデス作  1856-7年」
天候荒れる中、びゅんびゅん飛び廻るワイルドハント。
神々や英雄、悪魔やドラゴンだけではなく、フランスでは死んだ子供の
集団を引き連れた魔女のホレおばさんが現れるという伝承も。
ある意味一番怖いかもっ!
The Wild Hunt by Johann Wilhelm Cordes, 1856-7

ウィリアム・T・モード作  1890年」
ワイルドハントはオーディンの配下である戦乙女ヴァルキリーの
集団である場合もあります。オーディン直々に戦場に現れるのは
まれで、ヴァルハラ行きの英雄(エインヘリアル)を迎えるのは
彼女達の役目なのです。

The Ride of the Valkyries (1890), William T. Maud

ペーテル・ニコライ・アルボ作  1868年」
満月の夜にすっきりとした格好で現れたワイルドハントの軍団。

The Wild Hunt of Odin  Peter Nicolai Arbo 1868

ペーテル・ニコライ・アルボ作  1872年」
オーディンやトール、ヴァルキリーらが大挙して押し寄せています。
作者はノルウェー出身であり、キリスト教によって魔物と貶められた
彼等に神としての尊厳を感じ、回帰が見受けられますね。

Peter Nicolai Arbo 1872

フランツ・フォン・シュトゥック作  1889年」
その反面、ドイツの象徴主義のシュトゥックは「ザ・魔物!」という
感じのワイルドハントを描いていますね。赤い衣を身にまとった
首領は黒い犬や亡霊たちを率い、こちらに突進しようとしています。
これに出くわしたらショック死するのも頷けます。
Franz von Stuck - 1889

フランツ・フォン・シュトゥック作  1899年」
シュトゥック二枚目。10年後の作品は禍々しさがアップしていますね。
赤い衣の老人(オーディン?)は奇怪な怪物達を率いています。
足元にはメデューサらしき怪物が。グローバルなワイルドハントだ!
Wild Hunt by Franz von Stuck, 1899

「ギュスターヴ・ドレ作  1868年」
「The Vision of Death 死の幻視」という作品。厳密にはワイルドハント
でないのですが、構図が酷似していますね。死をもたらす死神も
ワイルドハントと同様に上空から大挙して押し寄せてくるという
イメージを持っていたことが伺えます。
The Vision of Death Gustave Dore 1868

 文頭に「勇気ある者はワイルドハントに敬意を払い、度胸試しをすることで富を与えられる」と書きましたが、それは一部の地域のことで、ドイツの伝承ではこうなるそうです。「彼らの手助けをすれば、黄金、かなり高い確率で、死者や死んだ動物の脚が与えられる。この人間や動物たちは、呪われて逃れられなかった者たちである」
 日本の妖怪たちが道を闊歩する「百鬼夜行」も、見たら死ぬと言われていますし、関わらない方が身の為ですね^^;

 また、ドイツの伝承には「ブラックサンタクロース」なる者が存在し、クリスマスに悪い子供を袋に入れてさらっていってしまったり、部屋中にモツをぶちまけたりするそうです。オーディンがサンタクロースの起源となるなら、善人のサンタと悪人のブラックサンタが分裂してしまうのも納得できるような気がします。ワイルドハントも、その伝承に関連する一派だと思うと面白いですよね。

  もしかしたら、サンタクロースがワイルドハントの軍勢を引き連れていく光景を見るのも、不思議ではないのかもしれません・・・。←ぇ

→ オーディンについての絵画を見たい方はこちら
→ ラグナロクについての絵画を見たい方はこちら
→ アーサー王についての絵画を見たい方はこちら


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