
トロンプ・ルイユ(騙し絵)は、平面を本物の三次元世界に見せかけたり、物体の形体を物の寄せ集めで表現したり、鑑賞する角度によって絵が変化したりする、錯視を利用した技法のことを指します。「トリックアート」と呼ばれる事もあります。
騙し絵の起源は古代ローマとされ、庭園や部屋を飾る装飾画として用いられていたそうです。絵画では15世紀頃のフランドルにおいて静物画に使用され、壁面にあたかも紙や物が貼りつけられていたり、棚に物が入っていたり、リアルな木目を表現したりと、2次元の支持体において本物そっくりに3次元の生活用品が描かれました。また、宗教画において彫刻像もだまし絵として表現されることがありました。
17世紀頃のイタリアでは、天井画の装飾に騙し絵が用いられました。装飾を逐一彫り上げるのは費用や手間、管理も大変な為、より豪華絢爛に感じさせようと本物の装飾に見えるように絵画で描かれたのです。20世紀に入り、新しい手法のだまし絵が生まれます。代表的なのは3次元ではありえない建築物を描いたエッシャーや、白黒の形の視点を変えることにより、違う図柄が浮かび上がるルビンの壺があります。
この記事においては「平面に本物であるかのような物体を描く」作品ばかりを掲載しました。ご了承ください。では、古典的なトロンプ・ルイユの絵画13点をご覧ください。
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「ヤン・ファン・エイク作 1433–5年」
祭壇画の両翼に描かれた二人の天使。平面体にもかかわらず、
色彩や奥行や枠取りなど、あたかも彫刻作品であるように
描かれています。彫刻に見せかける手法は、この時代に
しばしば使われています。

「サミュエル・ファン・ホーホストラーテン作 1666-8年」
フランドルの静物画のだまし絵で代表的なパターン。
木材に張り付けられた革(?)製の留め具に様々なものが
引っかかっています。物から背景まで全てが絵画で描かれたものです。

「ジェラルド・ホックゲースト作 1654年」
白い建物の中で人々が何気ない動きを見せています。
しかし絵画の近景には窓のような木枠と緑のカーテン。
ある一部屋から見た景色にしては不思議なので、だまし絵として
わざと合わせて描いた作品のように感じます。

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作 1750年」
夢魔で有名な画家フュースリも騙し絵を描いています。
自ら描いたスケッチ画をだまし絵として用いたのでしょうか。
リアルな木目の壁に掛かった紙そのものですね。

「作者不詳 18世紀」
ダフィッド・テニールス(子)の絵画「陽気な酒飲み人」が描かれた紙
とコインが壁に貼り付けられています。紙の破れ方や木目がリアル
ですね。絵の中に絵が描かれているというのも一種のだまし絵
なのでしょうね。

「フランス出身の画家作 19世紀」
奥行がある棚の中に、本とぎっしりとしたお金が置かれています。
ただし、小銭は割れた瓶に入れられ、サイコロが共にあります。
リアルなだまし絵であると同時に、「お金はすぐに飛んでいく」という
悲しいメッセージも込められています。

「フランス出身の画家作 19世紀」
バッキバキに壊れた棚の中に本や蝋燭、皿やハサミなどの品物が
入っています。画家はだまし絵を追求するあまり、棚から物を
飛び出させたり、傷をつけたりとこだわっていますね。

「Antonio Pérez de Aguilar 作 1769年」
こちらは棚の中に丁寧に品物が収められています。上段は芸術係、
中段と下段はお食事系でしょうか。当時はそのままパンを棚に
置いていたのかな・・・と気になってしまいます^^;

「ウィリアム・ハーネット作 1888年」
壁にバイオリンやリコーダー(?)、蹄鉄などがぶら下がっています。
楽譜や鉄の錆び具合などのリアル感が半端ないですね。

「コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ作 1670年」
作品の表側に裏側を描いてしまったという凄い作品。
「あれ、絵画が裏で飾ってあるぞ!」という人々の動揺を誘おうと
していたのですかね(笑)

「ジョン・F・ペト作 1898年」
こちらはキャンバス地の裏側と、更にリンカーンの肖像を描いた作品。
アメリカ出身の画家で、他にリンカーンを描いた作品があるので
敬愛していたのかな?と思われます。

「作者不詳 18世紀」
おばあさんが軟膏的なものを手に持ち、笑顔でこちらを見ています。
木の板からにょこっと身体を出しているのがだまし絵的ですね。
それにしてもこの姿、何かデジャヴを感じるような気がする・・・?

「ペレ・ボレル・デル・カソ作 1874年」
「非難からの逃走」という作品。少年が額縁に手と足をかけ、
よいしょっと絵画の世界から逃走を図っています。画家は余程
評論から逃げたかったのかしら・・・。間近で見てみたい作品ですね^^

15-18世紀の西洋では、騙し絵は主に「部屋を美しく見せるための手段」「画家の技術の追求」「立体作品の代用」などに用いられていました。しかし、アルチンボルドに代表されるように、騙し絵は視覚的に楽しむ娯楽ともされ、時代を経るにつれて錯視の世界は進化していき、様々なアイデアが生まれました。絵画の表に裏を描いてしまったヘイスブレヒツさん、絵画の中から脱走を図ろうとしたカソさんの作品は、当時では驚くべき発想だったことでしょう。現代におけるトリックアートは家族や友人で楽しんで体験できる「体験型」が主流になってきているように感じます。私達が騙し絵を鑑賞するのではなく、私達が騙し絵の中に飛び込んでしまうのです。
これから未来、トリックアートはどのように進化していくのでしょうね。VRの世界で体験できる騙し絵があれば、もっともっと興味深い世界になりそうな気がします^^
→ アルチンボルドについての絵画を見たい方はこちら
→ トリックアートファンサイトの公式HPはこちら<外部サイト>
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>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
そう、あのおばあさん何かの広告にいた気がするのですが、思い出せなくて…!
ステラおばさんじゃなくてなんだっけ…?←ぇ
昔はシリアスな内容の物語が好きでしたが、最近はユーモアのある方が良くなってきました。
絵画も「ザ・真面目!」というのもいいですが、どこか遊び心があった方が鑑賞していて楽しいように感じます。
悪意のないストレートな悪戯心は、ほっこりして素敵ですよね^^
確かに、電球とか蛍光灯がなかった時代ですから、ランプや蝋燭の光源の元で騙し絵の作品を鑑賞したら、騙され率がアップしそうです!
また、絵画を野外で鑑賞してみても、違った見方ができそうです。
そういう展覧会があっても面白いですよね^^
(流石に有名作品を野外に出すのは無理だと思いますが…;)