Oannes, 1910 by Odilon Redon -

 オアンネスは紀元前300年頃のベロッソス著の歴史書「バビロニア誌」に言及された、半人半魚の神です。
 オアンネスの起源はメソポタミア神話にあります。アッシュールなどから出土された紀元前14世紀頃の銘板の欠片に、七賢人(アプカルル)の神話が彫られていました。七賢人が人類に文明をもたらしたとされ、その長が半神のアダパでした。アダパのバビロニア名ウアンナがギリシア語に変えられ、オアンネスになったとされています。

 オアンネスは「知性を持ち、人間の言葉を話した。全身は魚で魚の頭の下にもう一つ頭があり、魚の尾ひれ部分に人間の足がある。昼間は陸で過ごし、太陽が沈むと海に戻るという水陸両生」という特徴を持っていたそうです。オアンネス率いる七賢人は人間にあらゆる文明を教え、そのおかげで人間は野蛮な風習から脱却し、人間らしい生活を得たと考えられています。
 オアンネスの神話は各地に伝わり、後に七賢人の総称であるアプカルルと同一視されるようになり、古代メソポタミアとカナンで信仰された豊穣神ダゴンとも結びつき、混合されるようになりました。
 では、オアンネスやアプカルル、ダゴンにまつわる絵画12点をご覧ください。

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「シュメール時代?の銘板より」
七賢人アプカルルは賢神エアの使者として人類の元へやって
きました。左がエアさん。長アダパ(オアンネス)ともう一人は
お魚さんの着ぐるみを被ったような姿をしていますね。
apkallu-with-ea

「古代の写し  年代不明」
横たわる人の両サイドに立つアプカルル。
手に持っているのは・・・鞄?テクノロジーアイテムが
入っているのかしら?ちょっと可愛らしいですね^^Apkallu

「イラクのニムルドのニヌルタのレリーフより 1853年発見」
おしゃれなお洋服や装飾を施した格好のアプカルル(オアンネス)。
お魚は着ぐるみではなく被り物のような感じですね。
英知が込められたお顔をしております。
Palace of Sennacherib bronzes from ruins  Nimroud  London 1853

「イラクのニヌルドの壁画より」
鳥の姿をしていますが、こちらもなんとアプカルル。
魚と鳥の両方の姿で考えられていたようです。
天空と深海、双方とも神秘性が感じられる故でしょうか。
Apkallu from the Temple of Ninurta

「ドゥル・シャルキンのレリーフ」
オアンネスをベースにしたダゴン神とされています。
ダゴンは旧約聖書でも度々名前が登場し、元は豊穣神でしたが、
聖ヒエロニムスが誤って魚と結びつけた為、半魚の姿と
考えられるようになりました。
Semitic Dagon based Oannes relief Khorsabad

「シリアのドゥラ・エウロポスのシナゴーグの壁画  2世紀頃」
イスラエルVSペリシテの戦争。シロの神殿でペリシテ側は
略奪を行い、十戒の石板が入っているとされる契約の箱を
奪っていってしまいました。契約の箱はダゴン神の神殿に
奉納されます。しかし・・・。
DuraEuropas, Syrian Synagogue 2th

「年代不詳の挿絵」
契約の箱が置かれた後二日間、ダゴン神像が倒れていたのです!
しかも像の頭と腕は壊れてしまっていました。
それから契約の箱は様々な災いを呼び起こしました。
Ark Of The Covenant Nstatue Of Dagon

「フィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ作 1793年」
ダゴン神殿の破壊を描いた作品。おそらく書籍の挿絵でしょう。
西洋目線では異教の神なので、破壊を描く作品が目立ちますね。
この像は魚っぽくありませんが三又の槍を持っているので、
海と関連付けられているのが分かります。
Depiction  destruction Dagon Philip James de Loutherbourg 1793

「19世紀の挿絵」
ダゴン神殿を想像で描いたと思われる作品。
異国情緒的な建物と、左側には訳の分からない像。
西洋人が歩いている事から、もしかしたら「なんちゃって
ダゴン神殿」的な娯楽施設を作ったのかも…?
Dagon pagoda XIX.century

「オディロン・ルドン作  1840-1916年」
バビロニアで崇拝されたオアンネス神。後年になってダゴンと
同一視され、ユダヤ教とキリスト教により悪魔とみなされて
しまいました。しかし、ロマン主義の画家ルドンはオアンネスを
人類に英知をもたらした神として神秘的に描いたのです。
Oannes by Odilon Redon

「オディロン・ルドン作  1910年」
ルドンはオアンネスの作品を何枚か描いています。
何かを被って目をつむる、クラゲやタコにも通じる姿を
したオアンネス。海に漂う知恵者といった風情ですね。
Oannes, 1910 by Odilon Redon

「オディロン・ルドン作  1910年」
オアンネスとスフィンクスという作品。
超と蛇が合体したかのようなオアンネスに、地にたたずむ
スフィンクス。ルドンはオアンネスを海と天空の両方の
側面を持っていることを知っていたのでしょうかね。
Odilon Redon (French, 1840-1916), Oannes et le Sphinx, 1910

 オアンネスの絵画紹介をしようとしたものの、作品数が少なく色々飛び火してしまいました。異教の神であるとはいえ、西洋ではほぼ描かれていないのですね…。やはりキリスト教の影響は色濃いです。
 そして悪魔とみなされてしまったダゴン神は、20世紀のアメリカ小説家H.P.ラヴクラフトによって発祥したクトゥルフ神話において、更に邪悪な存在として考えられるようになります。ダゴンは旧支配者であるクトゥルフに使え、恐れられる人間と魚の異形の怪物となるのです。
 最高神の使命により地球へ到達し、人類に文明を伝えたアプカルル。その長であるオアンネス。その神話が宗教争いや創作により歪められていき、醜い怪物に変貌していくのはなんとも恐ろしいですよね。この中で、宗教のバイアスにかかっていないルドンの神聖な作品がひときわ輝いて見えます・・・。

<おまけ>
 またもやスウェーデンのシンフォニックメタルバンド「Therion」ですが、2004年に「Call of Dagon」という曲を手掛けています。美しい曲でとても素敵で、個人的に大好きです。興味が沸いた方はぜひ聞いてみてください!^^






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