Flora, por Tiziano 1515-17 -

 フローラはローマ神話に登場する花と豊穣、春の女神です。ギリシャ神話のニュムペーであるフロリスと同一視されています。
 詩人オウィディウスによると、西風の神ゼピュロスは彼女を見初めてイタリアへとさらい、二人は結婚しました。フローラは花園で暮らし、花の女神となりました。彼女は人間に様々な種類の花の種や蜂蜜を与えたとされています。また、伝説によると神々の女王ユノ(ヘラ)に「触れると自然に身ごもる魔法の花」を渡し、ユノはそれによりマルスを出産したとされています。(マルスはローマ建国時にまで遡る古き農耕神であり、この物語ができた頃合にギリシャ神話と混合し、軍神となったと思われます)

 神話では登場場面が多くないフローラですが、古くから崇拝されている女神であり、「フローラリア」という豊穣祭が開かれていたようです。愛と豊穣の女神ウェヌス(ヴィーナス)や、酒の神バッカス(ディオニソス)の祭りと共通した部分もあったと思われます。
 ルネサンス以降の画家たちはフローラを「美を表現する芸術」や「技法の追求」や「モデルの美しさを高める」手段と考え、美女に花を持たせたり、囲ませたりすることで女神フローラとして描き上げました。ヴィーナスと同様に、フローラは「美」の媒体として用いられたのです。
 では、フローラにまつわる絵画13点をご覧ください。

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「ティツィアーノ作  1515-17年」
最も有名なフローラの作品。波打つ長髪、輝く白い肌、
ふっくらとした頬に微笑む唇。その手には花が握られており、
豊穣の性質と、輝くばかりの美しさをたたえています。
Flora, por Tiziano 1515-17

「フランチェスコ・メルツィ作  1520年」
「モナ・リザ」を思わせる微笑みを浮かべたフローラ。
胸がはだけているのは、上記の作品の影響なのでしょうか。
女神を描いた、というよりも「いかに女性美が表現できるか」
という雰囲気が感じられますね。
Francesco Melzi 1520

「フランチェスコ・メルツィ作  1491-1568年」
こちらもモナリザの笑顔ばりばりのフローラさん。
鼻や口、顎の影や衣服などはスフマートの影響がみられる
ものの、少しぎこちなさを感じます。
Francesco Melzi - Flora 1491-568

「ジュゼッペ・アルチンボルド作  1526-93年」
花だけで構成されただまし絵のフローラさん。題名で
「美の表現の媒体」と描きましたが、技術勝負の画家もいます。
女神様の素材が花だとしたら、水やりや手入れが大変そう。←ぇ
Giuseppe Arcimboldo

「Simone Pignoni 作 1650年」
何かに気付き「はっ」とした感じのフローラさん。
ゼピュロスに見つかった瞬間なのかも? 落ち着き払った
雰囲気のフローラが多い中、初々しさを感じますね。
Simone Pignoni 1650

「イタリア工房作  18世紀頃」
物凄くたくましいガタイをしたフローラさん。
私的には「ギリシャ彫刻か男性をモデルにしたのでは」
と思ってしまいます。しなやかな女性美については興味がないのか、
はたまたこういう女性が好みなのか…。
Italian School, 18th

「レンブラント・ファン・レイン作  1634年」
着物風の衣服に身を包み花をまとう女性。
彼女はフローラに扮した、画家の妻のサスキアさんです。
フローラの仮装を行い、モデルの美しさを引き立てるという
絵画もしばしば存在します。
Saskia van Uylenburgh 1634 as Flora, by Rembrandt

「イタリアの工房作  18世紀」
フローラへのオマージュという題の作品。像やクピド、
背景には神殿やスフィンクス(?)が描かれ、画家はギリシャ
ローマの賛美をフローラへと凝縮して表現したのかもしれません。
Italian School, 18th Homage to Flora

「エリザベス・イェリカウ・ボウマン作  1819-81年」
輝く黒髪とはっきりとした目鼻立ちのフローラさん。
作者はポーランドに生まれたデンマークの女流画家。
彼女はオリエンタリズムに傾倒した作品を幾つか手掛けて
おり、その影響があるのかもしれません。
Elisabeth Jerichau Baumann


「フランチェスコ・マンチーニの追随者作  19世紀」
フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を思わせる、
肩越しに振り返る美女。肩のはだけと肌の白さは
ティツィアーノを連想しますね。
女性美を詰め合わせて表現してます。
After Francesco Mancini

「ユルゲン・オーヴェンス作  1660年」
フローラを模した若い女性の肖像画。
モデルの名は分かりませんが、推測する限り権力者の依頼
なのかなと思います。普通に肖像を頼まず「フローラに模して
美しく描いて!」という感じなのかな。
Portrait of a Young Woman as Flora OVENS, J・gen 1660

「エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン作 1799年」
モデルは女流画家の娘であるジュリー・ル・ブラン。
母は娘を溺愛しており、多くの肖像画を残しています。
10代半ば~後半くらいの若々しい姿ですね。
Elisabeth Vigée-lebrun Julie as Flora 1799

「ギュスターヴ・ジャケ作  1846-1909年」
花を髪に飾り、こちらを見つめるうら若き女性。
「花を身に着けた少女」と端的に言えばそうかもしれませんが、
女神フローラという性質を纏わせることで神秘性が増し、
美しさが際立つというのもあるのでしょうかね。
Flora by Gustave Jacquet 1846-1909

 ウェヌスに比べると穏やかでたおやかな印象のあるフローラ。
 ですが、こんな伝説もあるそうです。ある日、ゼピュロスはフローラの従者アネモネに手を出し浮気をしてしまいます。これに怒ったフローラはアネモネを追放します。寂しく放浪し続け泣くしかないアネモネをゼピュロスはアネモネの花に変えてしまったそうです。
 もしかしたらゼウスとヘラの夫婦喧嘩やヴィーナスの神話が混ざり生まれた物語のような気もしますが、フローラも優しい豊穣の女神ではなく、荒々しい一面もあるのです。なんというか、美しい花には棘がありますね…^^;
(諸説ありますが、ギリシャ神話ではヴィーナスの恋人アドニスが死に、アネモネの花に変化しています)

→ 化粧するヴィーナスについての絵画はこちら
→ アドニスの死についての絵画はこちら


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