Sleeping Angel Leon Basile Perrault -

 すやすやと気持ちよさそうに眠る幼い子供。多くの人はその子を愛らしく感じ、世間の垢にまみれていないピュアな存在であるように思うのではないでしょうか。幼い子供は現代でも純粋無垢の象徴とされていますね。
 それは過去の西洋でも同様で、子供は純粋の象徴として、神の使いである天使や、愛を司るギリシャ神話の神クピド、人類の罪をあがなったイエス・キリストの化身として描かれることがあります。そして、無防備な「眠り」も無垢に結び付けられ、眠る子供というテーマが何名の画家によって描かれました。

 また、子供は誕生したばかりの存在として「生」の象徴とされる反面、出生して直ぐに命を落としてしまう可能性がある、もしくは生の表裏によって「死」のテーマにも登場します。眠る子供は死と結びつけられ、頭蓋骨や砂時計、花などと共に描かれました。
 では、様々な象徴となって眠る子供の絵画13点をご覧ください。

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「アントニオ・ズッキ作  1726–96年」
こちらは象徴性がない純粋なる子供さんの絵。
お仕事に疲れて眠ってしまった子に対し、お鼻をこちょこちょして
イタズラをしようとしているようです。可愛いですね^^
A Putto Being Woken from Sleep  Antonio Zucchi 1726–96

「ローマの工房作   18世紀」
背中には翼が生えているクピドか天使の子供が、手に蟹を持って
私達に「しーっ」としています。その蟹はすやすやと眠る同年の子に
向けられており・・・。過激なイタズラですね^^;
Roman School 18th putto holding crab beside sleeping putto

「カラヴァッジョ作  1608年」
この眠りはまるで息を引き取ったかのように見えますね・・・。
背には翼が生え、手には矢を持っているのでクピドでしょうか。
弦は緩み、愛を与えるのに絶望してしまったかのようです。
Sleeping Cupid-Caravaggio 1608

フランチェスコ・アルバーニの工房作   1578-1660年」
三人のクピドが団子になって眠っています。遊び疲れたのかな?
クピドの遊びは矢を乱射することだったら、周囲は喜劇や悲劇の
恋愛のオンパレードと化したのかしら・・・。
Workshop of Francesco Albani  1578-1660

フランチェスコ・アルバーニ作  1578-1660年」
すやすやと穏やかに眠る子供の下には分厚い十字架が。
キリストの純粋性、子供のように清らかな魂の存在が磔刑に処されて
しまうという悲劇性が表されています。
The Child Jesus sleeping on a cross - F. Albani

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作  1617-82年」
こちらも眠る幼子キリスト。
寝ている子供であっても威厳を感じさせられますね。

BARTOLOMÉ ESTEBAN MURILLO THE SLEEPING CHRIST CHILD

「フィレンツェの工房作   17世紀」
他の作品よりもちょっと育ってしまいました。すやすやと眠る、
美少年の天使。子供や天使の純粋性、神秘性よりもセクシー路線に
走ってしまったかのようですね・・・。
Sleeping Angel  by Florentine School 17th

「イギリスの工房作  19世紀」
気持ちよさそうに眠る女の子の様子を見に来た二人の天使。
守護天使さんかな?もしくは夢の中で一緒に遊ぶのかな?
A child sleeping watched by angels British School, 19th

レオン=バジール・ペロー作  1832-1908年」
可愛らしい天使さんですね。画家の「天使として子供を描く」のでは
なく、「子供を天使として描く」という意思が感じられます。
ふわふわの雲の上で気持ちよさそうです・・・。
Sleeping Angel by Bazile Perrault

レオン=バジール・ペロー作  1832-1908年」
レオンさん二枚目。純白の翼に輝く後光。愛らしい寝顔。
この絵画からマイナスイオンが出ているような気がしてきました・・・。

Sleeping Angel Leon Basile Perrault

「ボローニャの工房作  17世紀」
 一転変わって暗い作品。眠る絵画は愛らしいだけではありません・・・。
子供は生の象徴ですが、そんな存在でも死は免れないといった風に、
メメント・モリやヴァニタス(空虚)のテーマともなりえるのです。
Bolognese School, 17th Sleeping putto

「フランスの工房作  17世紀」
頭蓋骨の上にじっとうつぶせになっている赤子。
当時だと乳児死亡率が高く、出産してすぐに亡くなる子供も多くいた
ことでしょう。希望に満ちた存在である子供に潜む死の恐怖。
無常にも時を刻む砂時計。ぐっと胸に来る作品です。
Sleeping Putto

Luigi Miradori 作  1605-56年」
口を大きく開けた頭蓋骨を抱き、すやすやと眠る美しい子供。
レオンさんの天使のような愛らしい子供も素敵ですが、この作品も
魅力的です・・・。

Luigi Miradori detto il Genovesino, Cupido dormiente

 この記事を書いて、西洋の平均寿命や乳児死亡率について気になったので少し調べてみました。参考させていただいたのは「近世ヨーロッパの人口動態」という論説です。
 「17世紀頃の平均寿命はフランスでは25歳以下、イギリスでは32歳、ドイツのブレスラウでは27.5歳ほどであった。60歳を超えている者はまれであった」
 想像より低いと思いましたね。私は当時の時代の画家の年齢の方を知っており、50~60歳の画家が多くいたので、個人的には寿命が40~50歳の間だと思っていました。身分や立場の違いもあると思いますが、30歳前後までとは驚きました。

 「世界の美術館」様の「美術の皮膚」というコラムでは、画家の平均寿命を計算してくださっており、15~17世紀の寿命が59~64歳となっていました。私の想像より斜め上をいっていました。画家ってかなり長命なんですね・・・。ミケランジェロ(89歳)、ティツィアーノ(88歳)、ルーカス・クラナッハ(81歳)なんて、周囲の人々から見たらバケモノレベルに思われていたのでしょう。

 乳児死亡率は、「17世紀のジュネーブでは、1000人の乳児のうち、満1歳の誕生日を迎えることができた者は、上層では792人、中層では697人、下層では642人だった。さらに10歳になる前に100~200人ほどが命を落とした」そうです。実に20~35%くらいの乳児が1歳未満に亡くなってしまったのですね。更に10歳を超える頃には50%近くの子が亡くなってしまっているなんて・・・。多すぎる。
 それを知りつつ眠る子供の作品を鑑賞すると、当時の人々の祈りや願い、虚無が伝わってくるようですね・・・。

→ 「近世ヨーロッパの人口動態」はこちら<PDF>
→ 世界の美術館様の「美術の皮膚」のコラムはこちら

→ ヴァニタスについての絵画を見たい方はこちら



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