Book of Hours, France Paris 1480 –90 -

 ある日、貴族(権威者)は蓋の空いた棺を見つける。その棺から三人の死者が現れ、私は教皇、枢機卿、法律家だったと言い、彼等はこう厳かに告げる。「君達も私達のようになる運命だ」とー・・・。
 この物語は「死の勝利」や「死の舞踏」と同様に、「メメント・モリ(死を思え)」の思想を表現した一つの主題です。人はどのような立場にいても命を落とす。死は必ず訪れるのだから、生前の行いをかえりみよう。という意味が込められています。東方に起源があるとされており、十字軍によってヨーロッパにもたらされ、13世紀頃にフランスを中心にして広まっていきました。
 では、三人の正者と三人の死者、もしくは三名の死者の絵画10点をご覧ください。
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「フランスのパリにある時祷書より  1480 –90年」
教皇、枢機卿、法律家の元へやってきた死者。同様の帽子を
被っていることから同じ職業であることが分かります。
「どんな権威者でも、蛆が這う死者になるのですよ・・・」
Book of Hours, France Paris 1480 –90

「彩色写本の挿絵より 13-4世紀」
城から出てきた三名の若者の元に現れる死者たち。
「忘れるな。君達はやがて俺達のようになる」と告げています。
骸骨が一周回って男前に見えてきたぞ…!←ぇ
The Three Living and the Three Dead YT 13, 14th

「ノルマンにおける詩より イングランド 1308-40年」
こちらは美しく着飾ったご婦人たちの元に現れる死者。
「どんなにお金を使って華美に飾ったとしても、
やがてはこうなるのですよ」と言っているかのよう。
一番右側の骸骨と目が合って、ちょっと可愛く見えてきますw
the Anglo-Norman poem   De Lisle Psalter, England1308–40

「写本の挿絵より」
生者に会おうと歩いている最中なのでしょうか。
スコップや鎌など死を思わせる道具を持って、街へと繰り出します。
The three living  meet the three dead

「カスティーリャのジョアンナ1世の時祷書より 1500年頃」
勢いあまって馬ごと生者を襲ってしまった死者達。
静かに死を告げるはずが、すぐにでも仲間に加えてしまえ
という意気込みを感じます。
the Hours of Joanna I of Castile, southern Netherlands 1500頃

「ドレスデンの祈りの本のマスター作  1460-1520年」
宇宙人グレイを思わせる死者たちが告げた言葉に対し、
若者たちがかなりショックを受けているようです。
美しい装飾の中にも骸骨が紛れ込んでおり、生の儚さが
ひしひしと感じられます。
Master of the Dresden Prayer Book 1460-1520

「ジーン・ル・ノワール作 14世紀頃」
「お前、まだ皮膚があるやないかーい!」って突っ込んでいる
ように見えてしまうのは私だけだろうか・・・w
三名の死者で朽ちていく段階を表現しております。
Jean Le Noir

「フランスの写本の挿絵より 15世紀」
包帯っぽい布を持って通せんぼをしている三名の死者。
この先は死者の領域なのでしょうか・・・。
France, Français 15th There are three works in this manuscript

「Antoine Vérard より出された写本挿絵より 1491-2年」
一人の隠遁者の元に現れた死者たち。キリスト像を見て、
うろたえているようです。人は死に抗えないけれど、神の子は
死を超える。最後の審判の際には全ての者が甦る。という
意味が込めれられているのでしょうか。
Antoine Vérard 1491-92

「ドイツの詩篇より  16世紀」
旧友に会う感じで「やあ!僕、死だよ!」って手を挙げて
いますねw しかし、手に持つ長矢で彼等の命は儚い花の
如く、刈り取られていくことでしょう・・・。
a Psalter, Germany 16th
 
 「3」という数字は、キリスト教においても他の宗教においても特別な数字です。
「3はすべての宗教の中心的な数である」とヴォルフガング・ヘルトさんという方が書籍にて述べています。三位一体や東方の三博士など、聖なる存在として用いられることが多いです。そんな3という数字ですが、ここではあまりプラスのイメージとして使われていないように感じます。

 ただ、運命を司る女神であるギリシア神話のモイライや、北欧神話のノルニルは「過去、現在、未来」を象徴しており、スフィンクスがオイディプスにした謎「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」の答えは「人間」であり、「赤ん坊、若者、老人」の三つの段階を表しています。時間は死と密接に結びついており、死のシンボルの一つに「砂時計」があります。3は神聖な数字であると同時に、人間の時間的流れを表した、メメント・モリ的な数字でもあるのではないでしょうか。

→ メメント・モリにまつわるモチーフの絵画を見たい方はこちら


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