Paulus Moreelse 1630頃 -

 古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」より。ポモナは果樹園を栽培しているニンフであり、彼女は恋愛に全く興味がなく果樹を手入れすることを楽しんでいました。
 そんな彼女に恋をしてしまった季節の神ウェルトゥムヌス。彼は剪定師に化けたり羊飼いに化けたりしてポモナに近付いていたものの、声をかけられずにいました。ついにウェルトゥムヌスは愛を伝えたくて、老婆に変身して「立派なできばえですねぇ、お嬢さん」と言った途端、老婆はポモナに接吻をしてしまいます!

 彼女はびっくりしたものの、老婆なのでそれを見過ごしました。老婆は周囲を見渡し、言葉を発します。「木々は互いにからみ、支えあっています。貴女も独り身でいるよりは、相手を探してはいかが?たとえば、私が仕えている季節の神ウェルトゥムヌス様とか・・・。彼は一途であり、果樹栽培も得意、そしてお嬢さんの事を愛しております。どうですか?女神アフロディテ様も冷たい心は憎んでおりますよ」と、めちゃめちゃ自己PRします。

 それから老婆はイピスとアナクサレテの逸話を話し、更にポモナに愛の重大さを伝えました。「お嬢さん、深く考えて恋人の願いを聞き入れてくださいませ」と言い、老婆はウェルトゥムヌスの姿に戻りました。ポモナは彼の説得と美しい容姿に恋をし、相思相愛となったのです。
 では、ウェルトゥムヌスとポモナの絵画13点をご覧ください。

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「ダフィット・テルーニス (父)作 1582-1649作」
美しい庭園の中、語らう老婆と女性。ぱっと見ただけでは
歳の違う二人が楽しそうに話すシーンなのですが、その内容は
「ウェルトゥムヌス一途でイケメンだよ!お勧めだよ!」という
セールスマンばりの自己PRですw
David Teniers the Elder - Vertumnus and Pomona

「フランチェスコ・メルツィ作  1518–22年」
ダ・ヴィンチの影響をひしひしと感じられる作品ですね。
こちらのポモナはまだ恋より果物を育てる方に興味が
傾いていそうですね。これから老婆の長話がはじまる・・・。
Francesco Melzi 1518–22

「Jan Tengnagel 作 1617年」
老婆が熱弁する「愛とイケメンの話」を聞くポモナ。
スコップやじょうろなど、農具が置かれていますね。
Jan Tengnagel 1617

「パウルス・モレールス作  1630頃年」
こんな素朴で優しそうなおばあちゃんなら、騙されるのも
頷けますね。ん、おばあちゃんご結婚されていますね。
(ヨーロッパの各地では右手に指輪を付けるようです)
これもウェルトゥムヌスの作戦かっ!?←ぇ
Paulus Moreelse 1630頃

「オランダのハールレム出身の画家作 17世紀」
人差し指を上に向けているのは、木は互いに支えあい絡み合って
生きているという事を伝えるため。左の鳩もラヴラヴですね。
「そういうことで、あんたも愛を覚えなさんな」
Vertumnus And Pomona 17th

「Caesar Van Everdingen 作 1616-78年」
こちらは体格のよい厳しめのおばあちゃん。栽培や収穫を司る
ニンフだから小型の鎌を持っているという事は分かるのですが、
人と話しながら鎌を持っているのは恐い・・・w
 Vertumnus PomonaCaesar Van Everdingen Caesar Van Everdingen

「Cesar van Everdingen 作 1616-78年」
顔にショールを付けたミステリアス風の老婆。
「わしが占ってあげるよ。ウェルトゥムヌスという若者と
あんたは結婚する運命だね。ふふふ」と言っていたりしてw
Vertumnus and Pomona is a painting by Cesar van Everdingen

「アールト・デ・ヘルデル作 1645-1727作」
レンブラントを彷彿とさせると思ったら、お弟子さんでした。
これはオランダの当時の衣装なのでしょうか。
おしゃまな服を来たポモナと賢者風の老婆。
Aert de Gelder (1645-1727). Vertumnus and Pomona

「ジャン・ランク作 1674-1735年」
ロココの柔らかな色彩、王宮の優雅さが感じられる作品ですね。
ポモナと老婆はローマ時代ではなく、もはや18世紀のお嬢様と
お仕え人と言った風情。
Vertumnus and Pomona by Jean Ranc

「ウィリアム・ハミルトン作  1789年」
なんだか既に二人が良いムードになっているような。
しかも老婆の骨格がたくましい感じがします。
もしや、変身が解けかかっている?
William Hamilton RA 1789

「フランス・ファン・ミーリス(子)作 1689-1763年」
おばあちゃんじゃない!!
ポモナ、おばあちゃんじゃないよーー!!
Vertumnus and Pomona  Frans van Mieris the Younger

「リチャード・ウェストール作 19世紀初期」
「実は僕、老婆じゃないんだ。ウェルトゥムヌスだよ。
よろしくね」と彼は本当の姿をポモナに現します。
その美麗な姿や立ち振る舞い、吹き込まれた情報によって
ポモナは彼に恋をしてしまいます。
The myth of Vertumnus and Pomona by Richard Westall, early 19th

「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1617年」
こうして二人はめでたく結ばれました。
これは愛に盲目になって暴走せず、冷静に愛を勝ち取ろうとした
ウェルトゥムヌスの頭脳勝ちですねw
Peter Paul Rubens - Vertumnus and Pomona 1617

 たとえ話や逸話まで持ち出して、自己の愛を伝えまくったウェルトゥムヌス。前半にちらりと紹介した、イピスとアナクサレテの物語をご紹介します。

 キュプロス島に住むイピスという若者は、アナクサレテという美しい娘に恋をしました。しかし、二人の身分は大きく違いました。長い間イピスは恋に悩み、遂に彼女の屋敷へと訪れました。イピスは知り合いの娘の乳母に必死に訴え、乳母は娘から見事な花輪を受け取りました。しかし、恋は実りませんでした。それどころかアナクサレテは冷えた心で貧民のイピスを軽蔑したのです。

 絶望したイピスは「私は死ぬが、愛の心は死なない。私の死にざまをみて楽しめばいい」と遺言を残し、彼女の屋敷の門に縄をくくり付けました。すぐそばには思い出の花輪が。「これなら君も喜んでくれるだろう!」とイピスは首に縄を差しいれ、自ら命を絶ってしまったのでした。
 屋敷の使用人がそれを発見し、哀れんで遺体を彼の母の元へと届けました。イピスの葬式は町を通り抜け、アナクサレテの屋敷の前へと差し掛かりました。彼女は窓辺でイピスの葬式を見るうち、徐々に身体が石にかわってゆき、冷たく固い心のように石になってしまったのでしたー・・・。

 ウェルトゥムヌスは自分を愛して欲しいあまり、こんな恐ろしい悲劇の話をしちゃったんですねw これでは「僕の恋をはねつけたら、死んじゃうよ。君も石になっちゃうよ」と暗に脅しています。ポモナもここまで自己PRをされて脅されては、首を縦に振らざるを得なかったのでしょう。ウェルトゥムヌス、策士ですねぇ・・・。



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