フランス皇帝ナポレオンの絵画12選。イケメン長身と小太りおチビ、理想と現実の差 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

フランス皇帝ナポレオンの絵画12選。イケメン長身と小太りおチビ、理想と現実の差

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 ナポレオン・ボナパルト(1769-1821)はフランス革命期の軍人、政治家であり、ナポレオン一世として皇帝にも即位しました。
 コルシカ島に生まれたナポレオンはフランスへ行き、陸軍士官学校を卒業します。砲兵士官へ入ると、まもなくフランス革命が勃発します。王党派を支持するイギリスやスペインの艦隊を砲撃で追い払い、この功績によって一気に昇進することになります。一度は逮捕されるものの、反乱を鎮圧する為にナポレオンは呼びだされ、戦う度に彼の功績は増してゆきました。1798年にはエジプトを支配し、国民の英雄となっていました。その時には、総裁政府は弱体化しており、ナポレオンはクーデターを決行して政府を倒し、フランス革命に終止符を打ちました。
 フランスの全権力を握ったナポレオンは征服戦争を展開し、1804年にナポレオン一世としてフランス皇帝となります。しかし、ロシア遠征が失敗したことによって事態は急転し、彼は退位させられます。一度は復権しましたが、1815年のワーテルローの戦いに敗れてセントヘレナ島に流され、そのまま人生の幕を閉じました。

 ナポレオンの肖像画を多くの画家が描きました。ただ、その絵画が両極端で、彼を美化してイケメンに描く画家と、彼をありのままか、それより酷く描く画家の二者が存在しました。
 小男で小太りと噂される、ナポレオンの理想と現実の絵画12選を、両者を比較しながらご覧ください。

皇帝ナポレオンの理想

「ジャック・ルイ・ダヴィッド作  1802年」
お抱えの専業画家だったダヴィッドの作品。おそらくナポレオンの絵画
で一番有名な作品でしょう。白馬に軽やかに乗る長身でイケメンの
姿。指導者として、誰もが理想とする姿です。

「アンドレア・アッピアーニ作  1754-1817年」
軍人だけどムキムキすぎず、しなやかで強い色男を表している絵画。
ナポレオンは婚約者を捨てて愛人ジョゼフィーヌと結婚しましたが、
彼女が不妊だった為、彼女を捨ててオーストリア皇女と結婚しました。

「アンドレア・アッピアーニ作  1754-1817年」
きらびやかな衣装をまとい、王冠を手にする威厳ある姿のナポレオン。
筋骨たくましく、皇帝にふさわしい姿で描かれています。

 

皇帝ナポレオンの現実

「ドミニク・アングル作  1806年」
こちらは現実の姿を豪華絢爛に表した、アングルの代表作品。
皇帝の衣服に身を包み、権威の強さが表に出ていますが、ナポレオンの
容姿は理想のものではなく、現実に近いものとなっています。

「ジャック・ルイ・ダヴィッド作  1812年」
ナポレオンの代表作から10年後。ダヴィッドは彼を等身大の人物として
描いています。身体は小太りで、小柄、頭は少し薄くなってきています。
身長は167、8 センチと推定されています。
ナポレオンの素顔で一番近いのは、この絵画なのではないでしょうか。

「ポール・ドラローシュ作   1848年」
ロバ(ラバ?)に乗るナポレオン。彼は乗馬が得意ではなかったようで、
ロバに乗ることが多かったそう。
(一説にはアルプスを越えるのにはロバが好都合だったとされる為)

 

理想

「19世紀のロマン派の画家作」
イタリアの都市パヴィアはかつてオーストリアの支配下にありましたが、
1796年にナポレオンが占領しました。この絵画のナポレオンはまるで
貴族のモデルのようで、画家の理想が入り混じってしまっています。

「ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエ作  1815-1891年」
おそらくロシア遠征を行っている絵画。灰色の衣服を着るナポレオンは
強面の軍人に描かれ、絵画に映えるよう白馬に乗っています。

 

現実

「ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエ作  1815-1891年」
どでーん、という効果音が似合いそうな作品。上記と同画家で、馬は
白馬なのですが、何を思ってこう描いたのでしょう。
不機嫌そうな顔で、こちらを睨んでいます。

「ポール・ドラローシュ作  1840年」
ひとかけらの理想もなく、ただ現実を見つめてしまいました。
晩年ナポレオンは小太り、小柄、薄毛の三拍子だったと言われています。
ただ、目だけは非常に鋭く、「背は小さくとも私の精神は大きい」と周囲に
言っていたそう。

 

輝くような理想と・・・

「アントワーヌ・ジャン・グロ作  1801年」
もはや真実のナポレオンは微塵
もなく、こてこての理想の姿が描かれています。
彼のフランスに変化をもたらそう、という精神には猛々しく崇高な部分が
あると思いますが、それにしてもイケメンに描きすぎです。

 

悲しい現実・・・・・・

「オラース・ヴェルネ作  1826年」
ナポレオンの死から5年後に描かれた作品。額には勝利の証、胸には
十字架が置かれています。ヴェルネはナポレオン三世のパトロンであった為、
ナポレオンに会った事がありそうです。「絵を描く軍人」と評された彼だから描ける、
極めて現実に近いナポレオンの死の姿だと思います。

 ナポレオンの絵画を調べてみて気付いた事は、同画家がナポレオンの作品を何枚も描いている事です。
 ジャン・ルイ・エルネスト・メッソニエの作品は格好良く描かれたものと、悲惨に描かれたものの差がかなり激しいです。彼は1815年の生まれなので、物心ついた時にはナポレオンの治世は終わっていたはず。音楽家のベートーヴェンみたいに「皇帝になってこんちくしょー!」とはならないでしょう。ナポレオンの理想と現実の両方の姿を描きたかったのでしょうか。
 ポール・ドラローシュの描くナポレオンはロバに乗っているものと、ずでんと座ったものなので、ナポレオンに対する嫌悪感がひしひしと感じられますね・・・。ドラローシュはナポレオンの治世よりかなり後の生まれですが、強く反感を持っていたのでしょうかね。

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    ですね。支配権力から自由になる為に蜂起したはずの者が支配しているのですから、結局人物が変わっただけで体制は何も変化がないという…。
    期待の分だけ失望の色も大きかったことに感じます。
    どの世界でも、権力を手中にした者はそれを行使したくなってしまうのですかね。

  2. 季節風 より:

    扉園様。
    軍人として格好良く描かれた作品が好きです。ですが
    皇帝になったり皇后が世継ぎが産めないからと追い出し外国の皇女を娶ったり、
    どこか日本の平清盛に似てるかなと思います。清盛は武士なのに帝の外祖父として
    権勢をふるいましたがそれは古い権力の貴族のやり方。ナポレオンが皇帝になった事に
    失望した人がいたのも理解できます。

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