キリスト教における地獄は、生前罪を犯した者へ罰を与える場所です。
英語の「ヘル」は北欧神話の冥界を総べる女神ヘルから由来していますが、地獄は神話における冥界とは異なり、悪魔が罪人を酷く拷問し、責め苦を与えています。地獄へ落ちた者は天界へは決して行けず、最後の審判の後も永遠に苦しみ続けることになります。地獄の拷問は犯した罪によって様々ありますが、炎と関連付けられたものが多いように感じます。
地獄の描写を表した有名な文学作品に、14世紀のダンテ・アリギエーリの「神曲」があります。ざっくり言えば作者自身がギリシャの詩人ヴェルギリウスと共に地獄へ降り、恐ろしい内情を見ながらも、天界まで登るといった内容です。物語には作者の色眼鏡が含まれていますが、後の芸術作品に大きく影響を与え、地獄の情景を決定するものとなりました。恐ろしい地獄を描いた絵画、12点をご覧ください。
「写本「Hortus Deliciarum」より 12世紀」
地獄の内部を表現した挿絵。釜茹でや宙づり、蛇責めなど、
様々な拷問を受けています。一番下にいる悪魔は首領であるサタン
でしょうか。連れられてきた赤い服の男を歓待しているように見えます。
「時の本 16世紀」
地獄に落とされた罪人は、悪魔によって永遠の責め苦を負わされます。
鎖で繋がれ、炎の中に置かれた罪人は「助けて欲しい」と自らを
指さしていますが、神に抱かれたキリストは困り顔をしています。
「ジョット・ディ・ボンドーネ作 最後の審判部分 1305年」
人間を食べている悪魔ルチーフェロ(サタン)を筆頭に、悪魔達が
罪人を様々な方法で苦しめています。地獄は七つの大罪「肉欲」「暴食」
「貪欲」「怠惰」「憤怒」「嫉妬」「傲慢」によって、与えられる罰が異なります。
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「ランブール兄弟 15世紀」
悪魔達は人間を煮えたぎる網の上に置き、もっと火力が強くなるよう
ふいごで風を送っています。中央のサタンは人間を吹き上げています。
手前には、聖職者と思われる者が引っ立てられています。
「アウグストゥス作「神の国」より挿絵 15世紀」
煉瓦造りの釜や巨大な鍋で、ぐつぐつと煮られている犠牲者。
神に反抗している悪魔達も、地獄では率先して罪人たちを苦しめています。
「ポルトガルの不明画家 16世紀」
上記の刑罰をリアルに表したような作品。人々は吊るされて炙られ、
茹でられ、口に煮え湯を流し込まれています。地獄の刑罰も恐ろしい
ですが、中世の拷問方法も同様に恐ろしいです。
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「Jean Colombe作 部分 1480-85年」
どうやって罪人たちを苦しめようか作戦会議中でしょうか。
悪魔の顔がゆるい笑顔で、きもかわいいです・・・。
「ヤン・ファン・エイク(追随者?)作 最後の審判部分 1430‐40年」
背景がなく、画面びっしりに描かれた阿鼻叫喚。
悪魔というより異形の怪物たちが人間を苦しめています。
現代のゲームや漫画で登場するモンスターでも通じそうなデザインですね。
「Herri met de Bles作 1510‐50年」
怪物を所狭しと描いた、ヒエロニムス・ボスに影響を受けた作品。
ボスの登場によって、フランドル(オランダ、ベルギー辺り)では地獄の
情景が「異形の怪物達にさいなまれる罪人」と言った感じになりました。
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「ヤーコプ・ファン・スヴァーネンブルフ作 1571‐1638年」
燃えさかる廃墟に、悪魔に引っ立てられる人々。右下の大口を開けた
怪物は「ヘルマウス」と呼ばれ、地獄の入り口を表しているとされます。
なので、この作品は地獄でもまだ入り口付近を描いたのでしょうか。
「ヤーコプ・ファン・スヴァーネンブルフ作 1600年」
同じ作者が描いた作品で、より細やかく、ダイナミックになりました。
黒い船で運ばれて来た亡者は引き下ろされ、罪の重さ、内容によって
ヘルマウスを通って地獄の深層へと運ばれていきます。
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「ヨハネの黙示録」によると、神の怒りによって世界の終末が訪れてほとんどの人々は死に絶え、最後の審判が始まります。天使ミカエルが人間の魂の重さを図り、神の書によって天国か地獄行きかを決める。その割合は説によって様々ですが、天国行きなのは三万人に二人という説があります。二人は天国、残りの29998名は地獄で悪魔の手に委ねられる。中世ルネサンス時代は人口もそれほど多くなかったので、町人のほぼ全てが地獄行きになってしまいそうです。
私の住んでいる市は七万人くらいなので、救われるのは五人ほどでしょうか。キリスト教以外の異教は全て地獄行なので、もうちょっと少ないかもしれません。地獄というよりも、人間の観念は恐ろしい限りですね…。
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