聖コスマスと聖ダミアンの絵画12点。亡きエチオピア人の脚を移植した双子の聖人 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

聖コスマスと聖ダミアンの絵画12点。亡きエチオピア人の脚を移植した双子の聖人

スポンサーリンク
聖コスマスと聖ダミアン(ダミアヌス)は、医学や薬剤を司る双子の聖人です。彼等は3世紀頃に生きたアラブ人で、キリスト教に改宗し、無償で医療や手術を行っていました。
 黄金伝説には、このような話があります。ローマの教会に仕える男性は、片脚を癌に侵されていました。ある日、男性の夢の中に聖コスマスと聖ダミアンが現れます。その両手には塗り薬と手術道具が。 彼等は「聖ピエトロの墓地に、今日エチオピア人が葬られた。まだ新しいからあれを使おう。腐った肉は取り除こう」と言い、墓地から切断されたエチオピア人の脚を持ってきました。病気の男性の太腿を切り取って、遺体の脚を移植し、傷口に油薬を塗りました。癌に蝕まれた脚はエチオピア人の遺体につけられました。男性が目覚めると、黒くなった片脚は自由に動くようになったのです。エチオピア人の墓を確認しにいくと、病める脚が移植されており、夢に見た通りになっていたそうな。
 双子の彼等はローマ帝国のディオクレティアヌス帝の迫害にあい逮捕。伝説によれば、三人の弟たちと共に、十字架にかけられて石で打たれ、矢で撃たれるという拷問をされたものの無傷。最終的に斬首されて殉教したとされています。
 では、聖コスマスと聖ダミアンにまつわる絵画12点をご覧ください。





「黄金伝説の彩飾写本の挿絵より」
片脚を病に侵された男性。腐敗し、動かせません。
このままでは命に関わります。彼はある日、夢を見ました。
双子の輝かしい聖人の姿。聖コスマスと聖ダミアンです。
illuminacion del libro legenda aurea

「フラ・アンジェリコ作 1395-1455年」
医術に心得のある彼等は、患者の脚を移植することにしました。
「今日、教会の墓地にエチオピア人が葬られたから、その脚を
使おう」二人はまだ新しい遺体の脚を切断し、持ってきました。
Fra Angelico's The Miracle of the Black Leg

「Isidro de Villoldo 作 1539年」
黒き脚を移植したことで、患者の脚は無事に治ったのでした。
癌の脚は遺体につけられ、葬られました。
この逸話の作品は割と描かれているのです。
この作品、遺体まで持ってきちゃっておりますね…。
Isidro de Villoldo, c.1539, The Miracle of the Black Leg

「Jaime Huguet 作 1448-92年」
赤い斑点で病を表した脚を切って、黒い脚に差し替えています。
天使さん二名が助手としてお手伝いしていますね。
中世ルネサンス時代は医者の身分はあまり高くありませんでした
が、医術に関わる教会の場に飾られたのかしら…?
Jaime Huguet (1448-92)

「Fernando del Rincón 作 1510年頃」
聖コスマスと聖ダミアンは医師、外科医、薬剤師、双子の守護
聖人とされています。どれも納得の守護ですね。
この画家さんも、脚を交換された遺体を描き加えています。
右側の人、口からなんか出てるんだけど…?うなぎ!?
Fernando del Rincón de Figueroa 1510頃

「スペインのロス・バルバセスの工房のマスターの追随者作 1495年」
縫合して移植するのではなく、塗り薬一発でくっつけちゃうの
だから、聖人のパワーって凄いですね^^;
天使さん達が真顔でお手伝い中。真ん中の方が気になる…。
attributed to the Master of Los Balbases, ca. 1495

「ドイツの工房の画家作 16世紀前半」
時代が経るにつれて、立体的な表現になっているのが
分かりますね。この作品は真横ではなく、正面からの図に
チャレンジしています。
Ditzingen, 16th

「ペドロ・ベルゲーテ作 1450-1504年」
患者の顔を枠に入れず、脚のみの描写。ご婦人たちが見守る中、
真剣に手術をしている二人の聖人は、奇跡を起こしている
というより、実際に施術しているようですね。
Miracle of the Black Leg Pedro Berruguete

「Juan Correa de Vivar 作  1540-60年」
表情がなかなかシュールな聖コスマスと聖ダミアン。
天を見上げて、何かの印を結んでらっしゃる。奇跡を起こそう
と神へ祈っているのでしょうか?画家によって、現実的に
したり幻想的にしたりと描写が分かれますね。
Milagro de Cosme y Damián de Juan Correa de Vivar 1540-60

「アンブロシウス・フランケン一世作 1544-1618年」
切り口が痛そう!出血しないように脚が縛られ、
のこぎりのような刃物もあります。
当時の医療現場が描かれているように見えますね。
ていうか、患者さん意識があるのでは…!?
Ambrosius Francken (I) The Charity of St Cosmas and Damian

「北フランス出身の画家作 1400-99年」
聖コスマスと聖ダミアンは、キリスト教を迫害した
ディオクレティアヌス帝により捕らえられ、彼等の三名の弟と
共に斬首されて殉教したとされています。
Martyrdom St Cosmas Damian their Three Brothers 1400-99

 アラブ人の双子の聖人が、ローマ教会に仕えるローマ人の患者に、亡くなったエチオピア人の脚を移植する。地域も人種もバラバラですね。人種を超えた移植をするのだから、なかなか差別撤廃を叫ぶ現代であっても、受け入れるのは難しいかもしれません。
 やはり、共通する部分は「キリスト教徒」であるということ。
 教会の墓地に葬られていたのだから、エチオピア人は敬虔なキリスト教徒だったのでしょう。私の想像になりますが、同じ宗教のもとに人種や地域は関係ない。というメッセージなのではないでしょうか。
 人間を国に見立ててみると、悪い部分(他宗教)を切除して、良い部分(自宗教)を接合させることで、人種は違えども完璧な存在となる。となるかも…!?さすがにこれは深読みしすぎな気もしますね^^;

 流石に現代の医療をもってしても、切断された他人の脚をくっつけて、塗り薬で完治させてしまうことはできないですし、キリスト教徒以外を受け入れないという姿勢もそこはどうかと思います。ただ、人種や地域は関係ないというメッセージは、今でも声高に叫ぶべき言葉なのでしょう。差別のない平等な医療が受けられるような世の中になっていけたら嬉しいですね。
 聖コスマスと聖ダミアンが「白い巨塔」を見たら、一体全体どう思うのでしょうか…^^;


【 コメント 】

  1. オバタケイコ より:

    死体の足をくっつけて歩けるようになったんか~い!と、ツッコミどころ満載のエピソードですね。
    Fernando del Rincón 作の口からウナギには笑っちゃいました。
    新しいブログの様式、随分と変わりましたね。
    以前のブログの方が背景とか雰囲気はあったけど、諸事情があっての事なんでしょう。テーマが私の足の手術を思い起こさせて、不思議な気持ちになりました。

    •  >> オバタケイコ様へ

      こんばんは。
      うわあああ~!コメントに気付かず、返信が遅れてしまい申し訳なかったです!(> <) 現代のお医者様もびっくり仰天の施術ですよね^^; オバタさん、本当に手術お疲れ様です。この奇跡のようにぴかーん!と足が完治してお元気になるよう応援しています。 何度も同じことを言ってしまいくどいかと思いますが、どうかご無理はせず、ごゆるりとお過ごしくださいね^^ 新ブログの方はまだまだ改造中です。(遅くてすみません~!) 背景の格子模様を変更したいのですが、なかなか上手くいかなくて…。 もっと雰囲気のある背景に変えたいのです…。 改造が完了するまでもうしばらくかかりそうです。 更新も滞ってしまい本当に恐縮ですが、頑張ってもっと良いブログに進化させますね!

      • オバタケイコ より:

        いえいえ、扉園さんもお忙しいでしょうから気になさらずに(^^)
        なんと!このサイトは手作りなのですね。てっきり、既存のサイトかと思ってました。扉園さんて何でも出来ちゃうんですね。
        私から見たらスーパーウーマンです!

        •  >> オバタケイコ様へ

          雛型があって自分好みにレイアウトしていく感じです。
          設定やデザインが上手くできずにわちゃわちゃしてます^^;
          私はへろへろウーマンですよ~!(汗)

  2. アルチンボルドが好きな人 より:

    このテーマは初めて知りました。
    皮膚の色が違う他人の身体の一部を移植するという場面を見て、ブラックジャックを思い出しました。

    • >> アルチンボルドが好きな人様へ

      3世紀に死者の足を移植する技術も奇跡の技ですが、ブラックジャックを助けた医師とピノコを助けたブラックジャックの技術の方が、聖人もびっくりの技術力ですよね。

タイトルとURLをコピーしました