静止した自然物や人工物を自由に配置し、画面を構成する西洋画のジャンルの一つである静物画。
静物画といえども対象物、込められた意味などでカテゴリーは細かく分けることができ、コレクションやヴァニタス(虚しさの寓意)、果物や花束、台所や晩餐の品物などがあります。 一枚の絵画に複数のカテゴリーが含まれている場合もあり、中には静物画という名称から外れ、品物と共に昆虫や爬虫類などの生物を描き込んでいる作品もあったり、背景の描写がある作品もあります。
今回はこのブログの雰囲気に合わせ、ちょっと不気味でおどろおどろしく思えるような物を描いた台所画を集めてみました。では、個性的な静物画13点をご覧ください。一部グロテスクな絵画があるのでご了承ください。
「ピーテル・アールツェン作 1551年」
「施しをする聖家族と肉屋」。動物たちが肉として店頭に並んでいる
背景で、イエスを抱いた聖母マリアが貧者にパンを与えています。
命を食べるという有難さ、尊さが表されているのでしょうか。
「ヤコポ・ダ・エンポリ作 1625年」
机と壁に所せましと並べられた食糧。バリエーション豊富な台所画
ですが、基本形と言った感じですね。長い野菜はキュウリか
ズッキーニ・・・かな。
「アドリアーン・ファン・ユトレヒト作 1648年」
猟で仕留めたウサギや鳥を並べた台所画。現代の私達から見たら
「可哀想!」と思ってしまうのですが、当時の人は猟から加工、
料理までしていたので当たり前の光景だったのでしょうかね。
「ジュゼッペ・レッコの追随者作 1634-95年」
キノコとかたつむり、小鳥と花を描いた静物画。真っ赤で毒っぽい
キノコが混じっていますね^^;鳥が横たわっているのは
「キノコを食べたら危険」という警句なのでしょうか・・・。
「オットー・マルセウス・ファン・スリーク作 1662年」
薄暗い木々の中、花とキノコが置かれ、カエルや蛇、蛾などの
生物がうようよいます。画家はこういった奇妙な草花や生物に
興味を持っていたようで、山へ行っては探し回っていたとか。
「オットー・マルセウス・ファン・スリーク作 1613-78年」
彼はこういった作品を多く残しています。トカゲとカエルが蛾を
はむはむしていますね。爬虫類が苦手な人から見たら「ぎゃー」と
思える絵画ですが、私は「可愛い・・・」と思っちゃいます^^
不気味かわいいという素敵な雰囲気ですね。←ぇ
「オットー・マルセウス・ファン・スリーク作 1619-78年」
さらにオットーさん。怪しげで神秘的な雰囲気を持った様々な
キノコを描いています。秋の山中は彼にとって天国だったのかな。
「シモーネ・デル・ティントーレ作? 1708年」
キノコがたっぷりと配置された静物画。山で観察したオットーさん
とは違い、集めてきた描いたという風情ですね。
こちらの作品にも真っ赤で怪しいキノコがいますね。
とはいっても、地味な姿の毒キノコもいますし分かりませんね・・・。
「ジュゼッペ・レッコ作 1634-95年」
海の岩礁に集められた大量の魚介類。漁で打ち上げられた生物を
観察して描いたという感じでしょうか。上げたてでつやつやしています。
「ジュゼッペ・レッコ作 1634-95年」
レッコさん二枚目。イタリアのナポリで生まれた彼は魚介だけではなく、
様々な静物画を手掛けています。ですが、魚の光沢感やエビの
質感が見事なのはナポリの恵まれた海の幸があるから・・・なのかしら。
「Giacomo Francesco Cipper 作 1664–1736年」
またもや魚介系。中央の魚はヨーロッパコイなのかな?
現代でも中欧や東欧で主に食べられているようです。
それにしても手前のびろーんとしているのは何だろう。
イカ、タコ、それか深海生物なのか・・・?
「ジャン・シメオン・シャルダン作 1725-26年」
キッチンに吊らされているアカエイの静物画。「やられたー」と
言った感じのエイのお顔(?)と、威嚇しまくりの猫がなんとも言えない
雰囲気を出しています。「これは俺の魚にゃー!」って画家に
怒っているのかも!?←ぇ
「作者不詳 19世紀」
虚空からにゅっと現れる男と山羊。彼はテーブルで食事をしています。
題名は「黒ミサ」。どうやら悪魔崇拝者を描いたようです。
人もいるし動きあるし静物画といえるのかと悩んだのですが、
こんな構成もありなのか?と思って掲載しちゃいました。
この記事を描くにあたり静物画について調べていたら、面白い記事を見つけました。
それは「静物画とインスタグラムは似ている」という記事。なんでも1600年頃に流行した静物画と、現代のインスタと共通点があるというのです。静物画は画家の好みが反映される場合もありますが、権力者の集めた「コレクション」や豪華な「食事」「花束や果物」などを自慢するものとしても用いられました。
なので、米国のコーネル大学によると、他国から輸入された「高級食材」が静物画に使われる場合が多いというのです。対して、インスタも「こんないい物を食べた!」「こんな素敵な物を買ったよ!」と手に入りにくい品物の写真を撮り、アップする傾向にあるのだとか。共通する心理は「自慢」。静物画もインスタも見た相手に「凄い」と言ってもらいたいという狙いの場合が多いというのです。
もちろんそれは「傾向」というだけで、すべての静物画がそうではありません。私の紹介した作品のほとんどが自慢というよりも、画家が描きたかったという意思が感じられますね。オットーさんの作品は特に我が道を進んでいます。「この静物画はどんな気持ちで描いたのかな」と思いながら鑑賞すると、作品にまた違った印象を抱くかもしれませんね^^
→ ヴァニタスについての絵画を見たい方はこちら
→ 「静物画とインスタは似ている」という記事はこちら<外部リンク ARTOGUE様>
コメント
>> 美術を愛する人様へ
そうなんですか!?
普通に使っていました…。もう古い表現なんですかね^^;
←ぇ
ってのを久しぶりに見た
>> キノコを愛する人こと、オバタケイコ様へ
こんばんは^^
その世代だったら凄くハマっていると思います。
古本屋で探したらあるのかしら…?
今度見てみます!^^
あっ!扉園さんはエコエコアザラク世代ではないんですね。私は結構歳いってるので、その当時人気の漫画だったのです。
>> キノコを愛する人こと、オバタケイコ様へ
こんばんは^^
キノコ神秘的で魅力的ですよね。
グッズを見かけると買いたくてうずうずしてしまいます(笑)
キノコシリーズで絵を描くのいいですね。
画面いっぱいにみっちりキノコがいるとか楽しそう♪
エコエコアザラク面白そうです!
映画やドラマにもなっているんですね。
おどろおどろしいタッチに惹かれますw
魔女や黒ミサ、黒魔術。恐ろしいけれど気になっちゃいます…w(/ω\)
🍄いいですね。植物の中でも菌類でじめじめした日陰に生息し、光合成をする事もなく他から栄養を貰って育つ🍄。グロテスクで愛らしく、食べても美味しくて(時には死ぬけど)とても興味深い存在です。静物画の話から逸れてすみません💦いつか🍄シリーズで描いてみたら面白いだろうな~と思っています。
虚空からにゅっと現れる男と山羊の絵、怖いですね。黒ミサ。。。黒井ミサのエコエコアザラクを思い出しました。あの漫画、面白かったなー。
>> 静物を愛する人様へ
こんばんは^^
静物画はバロックの印象が強いですが、印象派の方もたくさん手掛けていましたね。
暗い輝くような画面ではなく、柔らかく日が当たる素朴で温かい画面。
確かにこじんまりという言葉が似合います^^
ハントさんの作品可愛いですね!
初見で一気に好きになりました。
野外で自然のものを描くという点では、生物&キノコ好きのオットーさんと似ていますが、象徴派の柔らかな色彩が心落ち着きます^^
スーティンさんのようなお肉おっぴろげを掲載しようかな…とも思ったのですが、流石に止めましたw
この記事を書いていて、段々と静物画の定義が分からなくなってしまいました^^;
本当に色々な種類がありますよね。
メデューサの首はカラヴァッジョのは肖像画で、ルーベンスのは静物画なのかな?
頭の蛇がうねうねとしていても、オットーさんの作品や、花瓶に蝶々が飛ぶ作品が静物画となるなら、メデューサもいける…はずw
静物ってなんとなく静謐またはコジンマリっていうイメージがありました。印象派の静物はコジンマリあったかくて好きです。モリゾの『器の中の白い花』とか、ルノワールの『静物 ー コーヒーカップとミカン』とか。
ボデゴン(厨房画)ってのもありますが、あれは静謐かな。
ウィリアム・ハントの『ヨーロッパカヤクグリの巣』っていうのも好きです。
ダークなものといえば、スーティンのグラジオラスとかお肉とか、ユーモラスなものなら、ゴーギャンのハムとかセザンヌの果物とかでしょうかね。静物と一口に言ってもたくさんありますね。
切り落とされたメドゥーサの首とかは、静物に当たるのだろうか……(ぇ
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
キノコ絵かわいい&美しいですよね!
分かります。画面がきらきらと輝いて宝石のようですよね。
特にブドウやマスカットの透明感はうっとりとしてしまいます。
そして変な生物は大好きです(笑)
うーん、考えさせられる疑問ですね。
個人的には「当時になくて日本にあるもの」は生活感に引きずられてしまいそうな気がします。
キノコや爬虫類、深海魚、果物など、当時と姿形が変わっていない物は現代日本のものでも魔力が働きそうですが、ミカンやカボチャ、スイカやメロン、ブロッコリーやマグロの刺身など、現代で身近な食材を描くと、また違う感じになってしまうような。
でも、野菜でも二股大根とか天狗ナスとか、ちょっと歪な形のもの描くと、いい雰囲気が出せそうな気がしますね^^
こんばんは。
トップのきのこ絵いいですね。
この手の静物画には昔から妙に惹かれます。
暗い地のせいか、宝石を眺めるような気分になりますし、馴染みのない変な魚や野菜を見つけるのも楽しい。
なお、この時代の画家の作風で日本の身近な食材を描いても同じ魔力が働くのか、絵のほうが生活感に引きずられるのか、少し気になります。