リチャード三世の絵画13点。シェイクスピアの戯曲にもなった、狡知のイングランド王 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

リチャード三世の絵画13点。シェイクスピアの戯曲にもなった、狡知のイングランド王

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 リチャード三世(1452-85)は、イングランド王国であるヨーク朝の最後の王です。
 いとこのウォリック伯リチャード・ネヴィルに育てられた彼は、兄のエドワード四世が王位に就くと、9歳の時にグロスター公爵の位を得ました。その9年後にウォリック伯はランカスター派に寝返り、エドワード四世は追放されてしまいますが、リチャードは兄を援助し、翌年に王位を復活させています。20歳の時にウォリック伯の娘アン・ネヴィルと結婚し、その領地を我が物にしてリチャードの地位は飛躍的に向上しました。

 1483年にエドワード四世が病死すると、息子のエドワード五世が王位に就いてリチャードが摂政となりましたが、王とその弟はロンドン塔に幽閉されてしまいます。その間にエドワード五世の血筋は不当と決定を下し、リチャード三世として王に即位してしまうのでした。エドワード五世と弟はその後、殺されたと思われます。晴れて王となった彼でしたが、状勢は不安定となって反乱が相次ぎます。一人息子と王妃が続けて病死し、1485年の8月にランカスター派のヘンリー・テューダーが武器を携えて到来。ボズワースの戦いが始まります。リチャード三世は自ら武器を持って獅子奮迅するものの、味方の裏切りにあって戦死してしまうのでした。
 シェイクスピアの戯曲「リチャード三世」において、彼は背骨が曲がった冷酷で欲深き王として書かれています。それにより極悪人としてのイメージがついてしまいましたが、現在ではそこまでではなかった事が証明されております。史実と物語の様子を踏まえながら、リチャード三世の絵画13点をご覧ください。

 

「作者不詳  16世紀」
リチャード三世の肖像画。手は王位を象徴する指輪を持っており、
目は前を見据え、口を引き締めて神経質そうに見えます。
エドワード五世らを陥れて王位に付いたことを誇張され、極悪人
というレッテルを貼られてしまいました。

「ジョン・オーピエ作  1761-1807年」
リチャード三世は王位に就く為に、12歳のエドワード5世を弟と共に
ロンドン塔に幽閉し、彼等は庶子であると醜聞を広めます。
絵画はもっと幼く見えますが、彼はどう思ったのでしょうか・・・。

「作者不詳  16世紀頃」
上記の肖像画とよく似た構成ですね。こちらは目に強い光が宿り、
計算高い者のように見えます。史実としてのリチャード三世は
権威欲はあったものの、善政を強いた真面目な君主でありました。

「サミュエル・ドラモンド作  1814年」
残された絵画のほとんどは、シェイクスピアの戯曲に基づいた作品です。
きらびやかな衣服に身を包んだリチャード三世は、権謀術策を用いて
対抗勢力を潰し、王冠を手に入れるのです。

「トマス・サリー作  1811-12年」
悪役であっても、リチャード三世の役は俳優にとって憧れであった
ようで、俳優プロマイド的な絵画が多く残されています。
こちらはジョージ・フレデリック・クックという俳優としてのリチャード三世。
垂れ目と鷲鼻、ちょび髭がダンディですね。

「ウィリアム・ハミルトン作  1788年」
これはジョン・フィリップ・ケンブルという俳優としてのリチャード三世。
まだ若手な感じですね。ボズワースの戦いの前夜、殺めた者の
幽霊の夢をテントの中で見て跳び起きるシーンを描いています。

「ウィリアム・ブレイク作  1806年」
エドワード五世とその弟、妻のアンを殺したリチャード三世は、
彼等の幽霊にさいなまれます。懸命に剣を振るも虚しく、彼は
狂気に陥っていきます。ブレイクの絵は怖いですね・・・。

「Nicolai Abildgaard 作 1743-1809年」
フュースリの作風に似たこの作品も、テントから飛び起き、
槍を握って霊と対抗しようとするリチャード三世が描かれています。
王冠は足元に転げ落ち、その後の展開を物語っていますね。

「ウィリアム・ホガース作   1745年」
デイビット・ギャーリックという俳優としてのリチャード三世。
はっと見つめる彼の表情や姿勢、散らばったアイテムなど、演劇を
意識して描いたことが伺えます。

「フランシス・ヘイマン作  1760年」
デイビット・ギャーリックさん二枚目。15年経って、ダンディなお顔に
なっています。 ボズワースの戦いに参戦したリチャード三世は
仲間の裏切りに合い、戦死してしまいます。

「ナサニエル・ダンス・ホーランド作 1735-1811年」
俳優はどなたかは分かりませんが、かなり恰幅の良いリチャード三
ですね。設定では背の曲がったせむしで、ヒキガエルのように醜い男
とされていますが、俳優は男前を選んでいたことを考えると、
リチャード三世は人気があったのだなぁと思います。

「フィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ作   1857年」
劇の中で、リチャード三世は落馬した際に「馬を寄こせ!代わりに
王国をくれてやる!」と叫んだそうです。これはやる気がなくなった
訳ではなく、「戦いが続けられるなら国もいらんわ!」という意気込み
だったようです。

「 Thomas Pennant 作 18世紀」
覇気も虚しく戦死してしまったリチャード三世は、裸で晒し者にされ、
勝利側の者の手によって葬られたそうです。32歳の若さでした。
ヨーク朝は終わり、ヘンリー7世が統治するテューダー朝の時代へと
なっていくのです。

 ご存知の方が多いかもしれませんが、2012年にイングランドのレスターでリチャード三世の遺骨が発掘されました。
 リチャード三世の姉の子孫を見つけてDNA鑑定を行ったところ、その遺骨と一致する部分があったのです。頭部を中心に幾つもの損傷があり、脊柱に湾曲が見られたそうです。戦争によって多くの傷を負って戦死したことと、リチャード三世がせむしであったことがこれにより裏付けられる事となったのです。頭蓋骨から顔面複製も行われ、リチャード三世の本当の顔も知る事ができるようになりました。


(画像提供元)

 おかっぱヘアー&なかなか企んでいそうな顔ですね(失礼w) 最初に紹介した肖像画に似ているのが分かります。二年半の調査の後、遺体は多くの人々に見送られながら豪華な棺に入れられ、レスター大聖堂に永眠しております。現在、発掘跡地の付近に「King Richard III Visitor Centre」という施設も建てられており、リチャード三世について深く学ぶことができます。イギリスへ長期旅行することがあれば、レスターへ行ってみるのも面白いですね^^

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    これらの絵画を見てみると、「箔がついてきた渋い俳優の花形」といった感じですよね。
    ちょい悪オヤジ(?)のリチャード三世にはファンがいっぱいいそうです。
    エドワード五世とその弟の消息は迷宮入りになってしまいましたね。
    真相が判明する日は来るのでしょうか…。
    wikiの抜粋を以下に掲載します。
    「ロンドン塔に幽閉された後のエドワード5世と弟リチャードの消息は、現在に至るまで判明していない。
    1483年の夏ごろまではロンドン塔の庭で遊ぶ兄弟の姿が見られたが、次第にその姿を見ることは少なくなり、1484年の春には兄弟は既に殺されたという噂が市内に広く囁かれるようになったと、「ロンドン年代記」にある。
    当時は2人がリチャード3世によって暗殺されたと考えられていた。
    1513年にトマス・モアが「リチャード3世伝」において、リチャードが腹心ジェイムズ・ティレルに指示し、その配下の2名の男によって窒息死させられたという見解を示した。
    モアによれば、1502年にティレルが反逆罪で処刑される前に、事件における役割を自白したという。
    1768年にホレス・ウォルポールが「リチャード3世の生涯と治世への歴史上の懐疑」を出版し、リチャード3世主犯説は濡れ衣であるとして彼の潔白を主張した。
    現在の研究ではヘンリー7世が2人の運命に深く関わったとする説も有力である。
    リチャード3世、そしてヘンリー7世、いずれの王位簒奪者にとってもエドワード5世と弟リチャードの存在は障害でしかなかったのは確かである。」

  2. 季節風 より:

    俳優がリチャード三世を演じたがるなら納得します。どの年代の役者が演じても合いそうです。リチャード三世には奥深い魅力があります。復元した御顔はハンサムですね。彼に殺された?幼い王と王の弟のことも気になります(-_-;)

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 現代の技術はすごいですね。様へ
    こんばんは^^
    戦国武将でも色々判明しているんですね!
    武将の血液型は今まで考えたことがありませんでした。
    伊達政宗はB型なんですね。真田幸村はA型…。なんかそれっぽいイメージがあります。
    骨格だけ声も再現できるんですね!流石現代って感じです。
    私なんかだとゲームでの伊達政宗の声が再生されてしまいますがw
    私は四大悲劇やロミオとジュリエットくらいしか知らなくて、シェイクスピアって色々戯曲を作っているんだなぁ…と学びましたw
    ヘンリー四世も面白そうですね。また調べてみます^^

  4. 管理人:扉園 より:

     >> 白薔薇様へ
    こんばんは^^
    人間はやはり矛盾や闇を抱えてこそ、深くなって魅力的に感じますよね。
    かくいう私もダークヒーロー派ですw
    懸命にリチャード三世の絵画を探したのですが、想像以上に作品がプロマイド化していました…(>_<)

  5. 現代の技術はすごいですね。 より:

    日本でもたしか、
    復元をもとに石田三成の肖像画描かれたり、
    伊達政宗の血液型が判明したりと、
    現代の技術によって明らかになったことが多いようですね。
    松島へ行ったときなんか、骨格から再現された伊達政宗の声なんてのが聴けて驚きました。
    ところで私、シェイクスピアの歴史劇といわれるものはまだあまり読んでいなくて……
    「四大悲劇」に分類される『リア王』などは読んでいるのですが、「歴史劇」といわれているものは……
    『ヘンリー四世』くらいかなあ……^^;

  6. 白薔薇 より:

    爽やかで真面目な好青年よりも闇を抱えたダークヒーローのほうが人気なのは今も昔も同じですね😁
    残っているのがほとんどシェイクスピアのイメージの絵ばかりなのは、リカーディアンとしては少し残念ですが…

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