現代の私達にとって、蚤(ノミ)は生活している中で頻繁に出くわすものではありません。ペットや外部から拾って増えてしまったとしても、駆除できる範囲内だと思います。
中世、近世のヨーロッパにおける蚤は、民衆の生活の一部であったと言っても過言ではなく、外や家中に飛び回っていました。薬草などの虫よけはあったものの、殺虫剤があるはずもなく、蚤やダニに血が吸われ放題。頭や身体についた蚤を捕まえて潰すという行為が、常習化していたのです。当時、恐ろしい病気ペスト(黒死病)が猛威を振るった原因は、ネズミに寄生したケオプスネズミノミとされています。ペスト菌を持つ蚤をネズミが運び、蚤が人間に噛みついて感染させたのです。
「身体についた蚤をとる」という行為は農民画のモチーフとして描かれ、民衆がどのように蚤と付き合い、冷静に対処しているかが分かります。
では、蚤をとる人の絵画12点をご覧ください。
「ニコラ・ランクレ作 1690-1743年」
台所にて、身体についた蚤をとる女性。
現代だと食卓に蚤が現れるなんて恐ろしい限りですが、
女性は優雅な仕草で蚤をとっていますね。
「アンドリーズ・ボウス作 1612-42年」
男性(息子さん?)の全身に蚤がついてしまったようで、
三人がかりで頑張ってとっています。
お尻まで蚤がついちゃったの…!?ひいぃ!
「ウィルヘルム・アーンスト・ヴンダー作 1713-87年」
貧しいと思われる方々が、男性の蚤を協力してとっています。
髪の毛は自分で見えないから、誰かに頼まないといけない
ですよね。代わりばんこでやったのかしら。
「Pehr Hilleström 作 1732-1816年」
綺麗な調度品に囲まれた裕福そうなご婦人も、蚤をとっています。
当時の衛生状態はよいとは言えず、どんな家庭でも蚤と
闘わざるを得ません。外出したら最後、いっぱいついてきて
しまうのでしょう。
「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作 1638年」
ほのかな蝋燭の明かりの中、夜な夜な女性が蚤をとっています。
西洋人はお風呂に入る習慣があまりないので、そのまま
着替えたら蚤が気になって潰している…という感じでしょうか。
「ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ作 1715年」
肩についた蚤を捕まえている女性。蚤に咬まれると赤く腫れ、
凄い痒みが起こるのですが、絵画では発疹などは描かれて
いませんね。現代の私達より免疫があるのかしら・・・。
「ジュゼッペ・マリア・クレスピ作 1710年」
朝起きて「なんだか痒いわ。いるわね」という感じに、
蚤をとる女性。お布団の中にも蚤がいるんだろうなぁ・・・と
想像すると、こちらの身体までむず痒くなってきそうです。
「ジュゼッペ・マリア・クレスピ作 1665-1747年」
こちらもお布団の上で蚤をとる女性。私だったら嫌で物凄い
形相で蚤とバトルすると思うのですが、慣れているからなのか
誰もが涼し気な表情ですね。手で潰せるというのもたくましい。
「ニコラ・ランクレ作 1690-1743年」
優雅なドレスを着たご婦人も蚤が気になっちゃっています。
お隣で沢山水浴をして欲しいです。
「ヘラルト・テル・ボルフ作 1665年」
わんちゃんの蚤を丁寧にとる、優しい少年。猫や犬などの
動物の方が、蚤の量は多かったことでしょう。
「バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作 1645-50年」
農民画の傑作とされる、蚤をとる人テーマの代表作。
服がぼろぼろの貧しい少年が、一人静かに蚤をとっています。
「ウィリアム・ブレイク作 1819-20年」
ブレイクは幽霊が見える幻視者だったそう。
このマッチョな怪物は「蚤の幽霊」。なんでも自宅で
幽霊に遭遇し、この姿を後に表現したそう。彼曰く
「蚤には血に飢えた人の魂が宿るものだ」・・・なるほど!?
もう20年近く前の話になりますが、我が家でネズミが屋根裏に入り込んで、蚤ではなくダニが発生した事件がありました。気付いたら身体の柔らかい部分に咬み痕ができて、めちゃくちゃ痒い。跳ねているところを目視できて、セロテープで捕まえました。居間にも寝床にもいて、もうホラーでした^^;殺虫剤やら業者やら対処し、事なきを得たのですがもう二度とあんな体験は御免です。
あと、1年ほど前にツバキの葉っぱに卵を産む、チャドクガの毛虫の毛にやられて、腕に発疹&痒みが出てしまいました。当初は理由が分からず「蚤かダニか毛虫か!?いやー!」と騒いでいましたw蚊でも嫌なのに、本当に虫刺されは嫌です…。
「いつの間にか赤い発疹ができて痒い」「見るからに家に蚤が跳んでいる」という中で生活の営みをしていた中世、近世の西洋人の方々はたくましいですね。そんな精神力の強さを、見習いたいような見習いたくないような・・・^^;
【 コメント 】