「オセロー」はシェイクスピア作の四大悲劇の一つであり、部下の奸計によって妻を殺めた指揮官の物語です。
オセローはムーア人のヴェニス指揮官です。尊敬されていた彼はデスデモーナと愛し合い、結婚します。幸せな日々が続くと思いきや、部下イアーゴーは昇進させなかったオセローを憎んでおり、陥れようと企んでいたのです。
イアーゴーは副官であるキャシオーを煽り、地位を解任させてしまいます。イアーゴーはキャシオーに「デスデモーナに復権を頼みな」とアドバイスし、その通りにします。そして、彼はオセローに「キャシオーとデスデモーナは密通しているぞ」と嘘をついたのです。始めは信じなかったオセローも「あいつは彼女のハンカチを持っていた」と聞くと、段々と妻が疑わしく感じてきます。そして、キャシオーの情婦ビアンカがハンカチのことを話題に出し、オセローはその嘘を信じ込んでしまうのです。イアーゴーはロダリーゴにキャシオーを暗殺させようとしますが、彼は一命を取り留めます。
怒るオセローは白状しろと暴言を言うものの、濡れ衣のデスデモーナは無実を訴えます。聞く耳を持たないオセローは、寝室で彼女の首を締めてしまうのでした。その後、イアーゴの妻エミリアはハンカチを拾って夫に渡したのは自分であり、不貞の噂を流したのは夫であると告白します。イアーゴーは身の危険を感じ、妻を刺して逃走してしまいます。全ては策略であったことを知ったオセローは、深い後悔と絶望に襲われ、デスデモーナを殺めてしまったことを嘆きました。彼はヴェニスの使者たちに事件をありのままに話すよう告げ、短剣で自らの胸を刺し、愛しい妻の隣で息を引き取るのでした。
愛と懐疑と裏切。愛憎に満ちたオセローの絵画16点をご覧ください。
「テオドール・シャセリオー作 1849年」
ムーア人で、ヴェニスの指揮官であるオセローと、元老院議員の娘
であるデスデモーナは人種や宗教を越えて、深く愛し合っていました。
「ウィリアム・パウエル・フリス作 1819-1909年」
ムーア人は北西アフリカに住む、イスラム教徒である人々です。
彫刻のような浅黒いオセローが、美しい妻をガン見しておりますね。
この作品ですと、結構な年の差婚なのかしら?
「ウィリアム・マルレディー作 1786-1863年」
ムーア人は本来ならベルベル人の事を指しますが、15世紀以降に
なるとイスラム教徒全般を指すようになったそうです。
上記の作品とは違い、この絵画はアフリカ系の容姿になっていますね。
ムーア人といっても、画家の想像する人種はまちまちのようです。
「トーマス・ストーサード作 1755-1834年」
幸せ絶頂のオセローに、不満を抱きまくる部下がいました。
旗手イアーゴーです。副官にしてもらえずに恨みを抱いており、
陥れてやろうと虎視眈々と狙っておりました。右端におりますね・・・。
「ウジェーヌ・ドラクロワ作 1850-54年」
オセローはデスデモーナの父の了承を得ずに、黙って結婚をしました。
イアーゴーはまず手始めに、その事を父親ブラバンショーにチクります。
彼は怒り狂い、オセローとデスデモーナを罵倒します。ドラクロワの
作品では、追いすがる娘にキレまくっていますね。
「チャールズ・ウェスト・コープ作 1868年」
怒り心頭の父に、オセローはデスデモーナへの愛を語り、やっとの事で
認めてもらうことができました。こちらは双方とも冷静な表情を。
「カール・ベッカー作 1820-1900年」
頭の固い議員である父に認めてもらい、オセローとデスデモーナは
公認の夫婦となりました。この絵画では、デスデモーナも疑いの
目を向けているように感じられるのですが・・・。気のせいですよね?
「ソロモン・ハート作 1855年」
オセローを破滅させようと、イアーゴーは副官キャシオーと
デスデモーナは通じていると嘘をつきます。イアーゴーは善人を
取り繕っており、信頼も得ていたので、オセローは段々と妻を疑う
ようになりました。
「ダニエル・マクリース作 1806-70年」
悩みのせいで頭痛が酷いオセローに、デスデモーナはハンカチを
頭に巻いてあげようとしますが、それを拒否します。そのせいで
ハンカチは落ち、イアーゴーの妻エミリアが拾ってしまうのです。背後に・・・。
「テオドール・シャセリオー作 1849年」
オセローの冷たい態度に「一体どうしちゃったのかしら?」と考え込む
デスデモーナ。エミリアは「男の正体なんて、一年や二年で分かる
もんですか」と言います。
「Hans Zatzka 作 1859-1945年」
ハンカチ事件により妻の不義を信じ込んでしまったオセローは
殺害を決意してしまいます。彼は寝室へやって来て、デスデモーナの
寝顔を見ながら葛藤に満ちた長い独白するのでした。
「Antonio Muñoz Degrain 作 1880年」
こちらの作品は色味や向きこそ異なりますが、上記の作品と非情に
よく似ていますね。異国情緒あふれた幾何学模様の壁や床が美しいです。
「ウジェーヌ・ドラクロワ作 1847-49年」
目覚めたデスデモーナに彼は「今のうちに罪を神へ懺悔しておけ」と
非情にも告げます。死が迫っている事を感じた彼女は必死に無実を
訴えますが、取りつく島もありません。
「アレクサンドル・マリエ・コリン作 1829年」
オセローは激情に任せ、妻の首を締めて殺してしまうのでした。
デスデモーナは夫に恨み言を言わず、身の潔白を訴えて息を
引き取りました。
「ウィリアム・ソルター作 1857年」
エミリアが現れて事情を説明するうち、イアーゴーがでっち上げた嘘
だと判明します。妻は本当に無実だったのです。オセローは
主犯格に飛び掛かりますが、彼はエミリアを刺して逃走します。
その後、悪人イアーゴーは捕まったのでした。
「クリスチャン・コーラー作 1859年」
己の過ちを深く後悔し、オセローは短剣を取り出します。
デスデモーナに優しく口づけをし、彼は自らの命を絶ったのでした。
ご存知かもしれませんが、オセローの名前はボードゲームのオセロの由来になっています。
黒人の将軍・オセロと白人の妻・デスデモーナを中心に敵味方がめまぐるしく寝返るというストーリーに、黒白の石がひっくり返りながら形勢が次々変わっていくゲーム性をなぞらえた。緑の盤面は、戯曲オセロの戦いの舞台、イギリスの緑の平原をイメージして作った。
――日本オセロ連盟のサイトより
という理由からなるようで、1945年に日本で考え出されて以来、オセロは世界中でプレイされています。しかし、個人的に引っかかるのが「敵味方がめまぐるしく寝返るというストーリー」という部分。イアーゴーやロダリーゴは最初から腹黒であり、エミリアやキャシオーは騙された被害者ですし、立場が白黒入れ替わるというのは何となく違うような気がします。
私が思うに、白と黒がめまぐるしく入れ替わっていたのは、オセローの心理だったのではないでしょうか。デスデモーナは潔白か、不貞か。信じるのか信じないのか。白か黒か。部下の進言と妻の愛に板挟みになり、苦しみ抜いたオセロー。最終的には盤面は全て黒に変えられ、オセローはデスデモーナを殺してしまいます。その後、妻は真っ白だったと悟るオセローは、絶望の内に自害してしまうのです・・・。
そう考えると、もう平常心でオセロをプレイできないような気がします^^;
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
ですね…。結婚に渋々了承したというのに、無実の罪で娘を殺められてしまう。
両親としては「なんであんな奴に娘を委ねたんだ…!」とやり切れませんよね。
オセローがオセロをやっているのはなんだかシュールですが、強そうではなさそうですね^^;
愛する妻の不貞を疑いだしたら精神が不安定になり、冷静になれなかった部分もあるでしょうが…。
彼は周囲の状況に流されず、自ら情報収集をするべきだったのかもしれません。
こんばんわ。
あれほど熱心に頼んで妻にしたのにたいした証拠もなく殺してしまうなんて。可哀想なのは妻のデズデモーナと彼女の親だと思います。
オセロがもしーオセロゲームをしたら弱いでしょう。せっかちに黒を増やそうとしたら負けますね。冷静になってたらデズデモーナが貞淑だと分かったはずです。
>> 待ってました^^様へ
こんばんは。
そういえば、シャセリオーもマクベスの絵を描いていましたね!
なかなか行きたい展覧会があっても、行きそびれてしまうんですよね…(> <) 東京が遠いです…。 昔に図書館でオセローのビデオを借りて観ました。 当時は内容を知らなかったので「なんという暗い話だ」と思った記憶があります。 柳、柳、柳…とリフレインするところが、デスデモーナの悲劇と寂しさを助長していますよね。
シャセリオーの絵、いいですね。
去年マクベスの絵を観ましたが、シャセリオー展も行けばよかったなあ……
『オセロー』は、人物のキャラクターがはっきりとしていて、ストーリーもおもしろいのでとっつきやすいですね。
柳の歌が印象に残っています。