レンブラント・ファン・レインの絵画13点。光と影を追究し、栄誉と転落を味わった画家 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

レンブラント・ファン・レインの絵画13点。光と影を追究し、栄誉と転落を味わった画家

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 レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン(1606-69)は、バロック期のネーデルラント(現オランダ)出身の画家です。「光と影の魔術師」という異名を持ち、明暗を強調した画風で知られています。
 8番目の子として生まれたレンブラントは1613年にラテン語学校に入学し、7年後には飛び級でライデン大学へ進学。翌年に画家を志して大学を退学し、歴史画家ヤーコプ・ファン・スヴァーネンブルフに弟子入りして三年間絵画について学びます。更に18歳の時にピーテル・ラストマンに弟子入りし様々な技法を学びました。

 レンブラントは自宅にアトリエを構え、製作にかかりました。同様にラストマンに師事していたヤン・リーフェンスとも知り合い、切磋琢磨しながら技術を向上させ、1628年には弟子を指導するまでになりました。技法研究に熱心であった彼は版画も手掛けるようになり、名声が世に広まってきました。1630年にレンブラントは故郷からアムステルダムへ移り、画商&画家のヘンドリック・ファン・アイレンブルフの工房を借りて制作を続けます。その後、彼のいとこであるサスキアと結婚し、邸宅を購入して大規模な工房を作ります。

 富と名声を得たレンブラント。しかし不幸も舞い込んできました。生まれた三名の子供は立て続けに死去。末っ子のティトゥスを産んだ翌年には、妻が病気になり亡くなってしまいます。「夜警」を手掛けていた頃でした。妻の看病や息子のお守りの為に雇われた未亡人とレンブラントは愛人関係となり、かねてから行っていた様々な骨董品を買い漁る浪費癖、彼の美術表現と依頼者の希望の乖離により、段々と仕事がなくなり資金が底をついて来ました。

 更に家政婦ヘンドリッキエとも愛人関係となったレンブラントは、未亡人と法廷で争って泥沼状態になります。金が底をついた彼は借金を背負って邸宅を手離し、貧民街に移りました。ヘンドリッキエと成人になった息子ティトゥスがレンブラントを支え、画家として細々と暮らしました。浪費癖の治らないレンブラントは借金と返済を繰り返して生活していましたが、ヘンドリッキエが病死。更にティトゥスも急死。最晩年のレンブラントは彼女との子供コルネリアと質素な暮らしをしながら、ひっそりと息を引き取りました。享年63歳でした。

 なかなか波乱万丈な人生を送ったレンブラントですが、彼の名声は400年後の日本においても褪せることなく輝いています。では、ブログでまだご紹介しておらず、更に独断と偏見で決めたレンブラントの絵画13点をご覧ください。

 

「眼鏡の行商人(視力)   1624年」
レンブラントが18歳の時の作品。まだラストマンに師事していた頃
ですね。彼特有の明暗はありませんが、バロックの表現は充分に
発揮されています。あと、眼鏡はこんな風に売られていたのですね。
服がめちゃくちゃ胡散臭く見えます・・・。詐欺もあったのかしら?

「エマオの晩餐  1629年」
キリストの弟子達はエマオで旅人に出会い、食事を共にします。
その旅人は磔刑されたはずのキリストであったという、救世主の
復活を示した場面。キリストが逆光になっていて実体感が希薄に
見え、現実の存在ではない事を伝えていますね。

「サウルに音楽を奏でるダヴィデ  1629-31年」
旧約聖書より。名声を得ていたダヴィデにサウル王は嫉妬し、
音楽を聴いている最中にキレて、槍を投げてしまうシーン。
槍が投擲される数秒前と言った感じでしょうか。

「サムソンとデリラ  1629-30年」
旧約聖書より。英雄サムソンは髪から怪力を得ている特殊な性質
を持っていました。美女デリラはサムソンの謎を聞き出し、敵に
教えたので、彼は髪を切られて敵に捕らえられてしまうのでした。
デリラがうつ伏せでぐっすりと眠るサムソンの髪を指さしていますね。

「ラザロの復活  1630-2年」
キリストはラザロの訃報を聞きます。駆けつけた時は既に埋葬後。
しかし、キリストが「出てきなさい」と言うと、何事もなかったように
ラザロが出て来たのです!主役ではなく、あえて左側の人々の
背後から光を当てていますね。レンブラントの創意が感じられます。

「エウロパの略奪  1632年」
ギリシャ神話より。ゼウスは人間の美女エウロパを攫う為に、
白い牡牛に変身し、彼女が背中に乗った途端に海を渡って行って
しまったとか。牧歌的な風景の中、海を渡っておりますね。

「シャボン玉を吹くキューピッド  1634年」
楽しそうに遊んでいるキューピッドですが、シャボン玉は「儚い」、
キューピッドは「愛」という象徴がある為、「愛は儚い」という意味が
あります。レンブラントが描くと重みがありますね・・・。
16世紀には既にシャボン玉遊びが西洋にあったそうです。

「トビトの家族の元を去る天使ラファエル  1637年」
旧約聖書より。トビトの息子トビアと天使ラファエルは旅をし、
悪魔が憑いていた娘サラを助け出します。盲目のトビトを治し、
ラファエルが「さらばだ!」と去っていく場面。ドラマだとエンドロールが
流れるシーンですが、なかなか絵画では珍しい場面です。

「二匹の孔雀と少女の静物画  1639年」
勿論のことですが、レンブラントは聖書や神話画のみならず、
肖像画や静物画、民衆画など様々なジャンルを手掛けています。
絞められてしまった孔雀と少女のツーショット。それにしても
孔雀って食べられちゃうんですね・・・。

「ルクレチアの死  1640年頃」
ローマの王子に乱暴されてしまったルクレチアは、夫や友人らに
事情を話し、自死します。怒った彼等は王政ローマを滅ぼし、
共和政ローマを築き上げたのでした。夫と思われる男性は異国情緒
ある衣服を着ていますね。コレクションにあったのかしら・・・。

「アハシュエロスとハマンとエステル   1660年」
旧約聖書より、王はユダヤ人のエステルを王妃としますが、
部下ハマンはユダヤ人を抹殺しようとします。それを知った
エステルは一計を案じ、ハマンを滅ぼす事に成功したのでした。
王、エステル、ハマンの酒席が静かな感じに描かれていますね。

「手首に鷹を乗せた男性 (聖バフォ)   1661年」
鷹を従え、ニヒルな笑みを浮かべるダンディな男性。
ゲントの聖バフォ(聖バーフ)は鷹をアトリビュートとしている為、
聖人画ではないかともされています。

「クラウディウス・キウィリスの陰謀  1662年」
1世紀頃、ガリアやゲルマンの者達がローマ帝国へもとで反乱を
企てたとされており、レンブラントの作品は首謀者キウィリスさんを
筆頭に「勝利を!」と剣を合わせて誓いを立てております。
テーブルから光が発せられているかのような構成ですね。

 レンブラントの作品は新約聖書や旧約聖書、神話や歴史の物語が忠実に描かれており、かなり造詣が深かった事が分かります。ラテン語学校で学んでいたこともあり、語学が堪能で、様々な蔵書を読み、デューラーの「人体均衡論」も読んでいたとか。弱冠14歳で大学に入学し、18歳で弟子の期間を終え、22歳で弟子を持つようになった。この事からもレンブラントが並々ならぬ頭脳と技能を持っていた事が分かりますね。

 独立してからも絵画の研究に余念がなく、技術向上の為ならばどんなコレクションを買う事もいとわない。私のかつての美術の教授が「自分のスキルの為なら多額のお金を払っても安いと思う」と言いました。私もそう思います。人生は一度だから、スキル向上の為に資金を使うのは良い事だと思います。

 現代ではネット社会で、必要な情報や鮮明な写真がすぐに出てきます。ですが、レンブラントの時代は写真すらなく、珍しいものを必要な時に見るには、スケッチをするか現物を手に入れるしかありませんでした。スケッチは物の子細を描き込む事は難しいので、現物を「欲しい!」と思う気持ちも分からなくはないです。ですが、それにも限度があります。スキルの為に多額のお金を投じて借金をしてしまっては、人生に支障をきたしてしまいます。その芸術に対する熱意こそが、レンブラントの人生を狂わせてしまったのかもしれませんね。
 彼の人生は、光と闇の強いコントラストを放つ彼自身の絵画に集約されるような気がしてなりません。

→ サウルに音楽を奏でるダヴィデについての絵画を見たい方はこちら
→ サムソンとデリラについての絵画を見たい方はこちら
→ トビトとトビア、天使についての絵画を見たい方はこちら
→ ルクレチアの死についての絵画を見たい方はこちら
→ エステルについての絵画を見たい方はこちら

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    絵画が高額で売れたとしても裕福になるとは限りませんね…。
    むしろレンブラントが有名画家でお金を有していると理解している骨董屋から、高値で吹っ掛けられていた可能性もあるわけで。
    彼の絵画に対する熱意は尊敬しますが、生活する必要最低限のお金は確保しておいた方がよかったように思えます。
    お子さんを立て続けに亡くしたのは不幸としか言いようがないですよね…。

  2. 季節風 より:

    レンブラントと貧困は対極に有りそうなので驚きました。
    レンブラント作の絵画は高額な代名詞みたいに思い込んでいました。
    子供さんを次々亡くしたのも悲しいですね。しゃぼん玉に儚い命への思いを込めたのかな。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    ハート型の可愛いイラストですね♪
    シンプルだとしても、ハートの細かさは手間がかかって大変であったように思います。
    お花も鮮やかで綺麗ですね。個人的にはエデンの園がオシャレで可愛いかったです!
    ご両親やお身体の事など心配が沢山あるかと思いますが、体調に気を付けて、これからも創作を続けて行って欲しいと思います^^

  4. オバタケイコ より:

    ありがとうございます!
    扉園さんのテーマの絞り方が面白くて感心しちゃいます。私のは絵画というより、イラストなので、手間がかかってる割にライトな感じなので値段付けが難しいです。ブログで個展のメインの絵をアップしたのでお暇があればご覧くださいね(^-^)
    https://oakpinkfloyd.eshizuoka.jp/

  5. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^お久しぶりです。
    そうだったのですか。
    最近は気温や気圧の変化も顕著なので、ご無理なさらずお過ごしくださいね。
    展覧会お疲れ様です!
    思い通りの結果になるのは難しいですよね…。
    絵画は特に売るのが大変であるように感じます。でも、強気でいいと私は思います。
    弱気の値段だと今後値を上げづらくなるし、おのずといい値段設定になると思いますよ!
    ここで日常を忘れ、非日常の世界に浸っていただけたら嬉しいです。
    またのんびりとお越しください^^

  6. オバタケイコ より:

    こんばんは!ご無沙汰です。
    家族の度重なる入退院や、自分の不調、展覧会の準備などバタバタで、余裕がなく随分ご無沙汰してました。やっと拝読できる余裕が出来たのでまた少しづつ美味しいお菓子をいただくような気持ちで読ませて頂きます。6年ぶりの展覧会は強気で高めに値段を付けたら、2枚しか売れず(しかも仲のいい子が欲しがっていたので破格で譲ってしまい儲けなし。。。)大赤字となりました。でも大勢の方が来てくださりやって良かったです(^-^)
    自分の話が長くなりすみません💦

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 美術に食される人様へ
    こんばんは^^
    美術に食べられ栄養とされるなら本望です←ぇ
    昔、図書館のリサイクルバザーで「ルノワールから学ぶ絵画テクニック」という本を購入して読んだのですが、「従来の色使いとこんなに違うなんて!」と困惑した記憶があります。
    色の明暗ではなくて、光や影に異なる色彩を置くのですね。
    木だとしても光に黄、影に紫とか…。
    ネットの画像は色あせて暗いものが多いですよね。
    実物は淡かったり輝いたりして見えます。
    なので画像によってはブログに載せる時に、勝手に色彩補正で明るく鮮やかにしちゃってます(笑)
    私が言うのもなんですが、やはり画像より実物をじっくり眺めた方がいいですね^^

  8. 美術に食される人 より:

    陰もそうですが、影のほうもなかなか……
    ルノワールのような大胆な色彩も、思い切りが必要ですね……
    というか、印象派にかぎらず、美術館で見るとけっこう原色を、赤とかをバーと塗ってたりするのを見ますね。本やネット画像だと茶色とかに見えるけれど、近くで見るともっと鮮やかな強い色使っていたり……、全体を見るとそれで自然に見えるんですよね……

  9. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    同様の美術の教授が生徒達の作品を見ていて「みんな画面が明るい。影をもっと暗くしてコントラストを強くした方がいい」とアドバイスしていたのを思い出しました。
    影を効果的に入れるのって思ったより難しいんですよね。
    どうしても勢いよく影を入れるのに抵抗を覚えてしまいます。
    表現の為に影を大胆に操るレンブラントはやはり巨匠なのだと思います。

  10. 美術を愛する人 より:

    スポットライトみたいな光の具合って、目立たせたいもの以外全部陰だ!って思い切って陰を描いているような気がして、
    それって陰(影?)の描写とかイメージへのかなりの自信だったり、勇気がないとなかなかできないし、そもそもやり始めた人なら尚更だから
    素人ながら改めてすごいと思って…!

  11. 管理人:扉園 より:

    >> びるね様へ
    こんばんは^^
    中世の作品のラザロはぐるぐる巻きになったものが多いですが、ライヒェナウの壁画のラザロは中途半端に巻かれた感じなのですね。
    直立不動の姿は、キリストよりも静かな威圧感があるように思えます…。

  12. びるね より:

    ライヒェナウの壁画に描かれたラザロは、立ち上がったミイラのようなラザロが「何で生き返らせたんだよ」と恨みがましく見ているようにみえました。

  13. 管理人:扉園 より:

    >>びるね様へ
    こんばんは^^
    エルサレムの気候的にも腐敗しやすそうですよね…。
    「出てきなさい」と言われた途端に、臓器機能が動き出すだけではなく傷んだ組織も全て再生したのだと考えると、物凄い奇跡パワーですよね。
    時間が経っている分、キリストの復活より難易度が高いかもしれません。
    匂いはきっと、お風呂に入ればすっきり爽やかだと思います!笑

  14. びるね より:

    ラザロは死後かなり経っていたらしく「匂ってますよ」と言われる始末。復活した後は匂いも消えたのでしょうか。
    暗がりのなかに鼻を押さえているらしき人がいます。

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