光と闇の幻想画家サシャ・シュナイダーの絵画13点。世に逆らい描く肉体美の追究 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

光と闇の幻想画家サシャ・シュナイダーの絵画13点。世に逆らい描く肉体美の追究

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 サシャ・シュナイダー(1870-1927)は、ドイツ出身の画家&彫刻家です。本名ラドルフ・カール・アレクサンダー・シュナイダー。
 サンクトペテルブルクで生まれた彼は、父親の死によりドレスデンに移り、19歳の時にドレスデン美術大学の学生になります。1904年にベストセラーの作家であったカール・マイと出会い、彼の作品の挿絵を手掛けるようになりました。その翌年にはWeimar Grand-Ducal Saxon 美術学校の教授に任命されました。

 しかし、シュナイダーは秘密を抱えていました。彼は同性愛者であり、画家のヘルムース・ヤーンと同居していたのです。二人の関係は悪化し、ヤーンが「同性愛者である事をばらす」と脅した為、シュナイダーは当時同性愛が犯罪とされていなかったイタリアへと逃亡しました。その地で画家のロバート・スパイと出会い、共に様々な場所を旅しました。その後、ドイツへと帰国し、第一次世界大戦がはじまる時にはドレスデンの近くのヘレラウに住みました。1918年になると、「Kraft-Kunst」と呼ばれるボディービルダーの育成所を立ち上げました。ここの訓練生の何名かは彼の作品のモデルとなっています。
 糖尿病を患ったシュナイダーは、船旅中に発作を起こして倒れ、命を落としてしまいました。彼はドレスデンのロシュヴィッツの墓地に埋葬され、永遠に眠っています。
 では、聖と悪、罪と許し、肉体美に彩られたサシャ・シュナイダーの作品13点をご覧ください。

 

「Patriarch 1895年」
古代ユダヤにおける「家長、族長」、またはキリスト教における
「総主教」を描いた作品。個人的には前者のように思います。
厳しい顔で髭がもっさりしており、何事かを深く考えておられる様子。

「ゼウスとガニュメデス  1870 – 1927年」
こちらはゼウスとその従者を描いた作品。ガニュメデスは
鷲に変身したゼウスによって攫われて来た美少年で、同性愛に
悩んでいたシュナイダーにとって、他人事として思えない物語
だったのかもしれません。

「ジークフリートとハーゲン   1891年」
ドイツの英雄ジークフリートと、彼を殺す元凶になった王の重鎮
ハーゲンを描いた作品。16-17世紀頃を思わせる古典的な
作風ですね。左下のマークはデューラーを意識したのかしら?

「シャーマン  1901年」
インドやチベットなどのオリエンタルな雰囲気を感じさせる、
不気味なシャーマンを描いた作品。作家カール・マイと出会う前の
作品であり、画家としての様式を確立している最中に感じます。
左手に持っている山羊さんらしきものが可愛い・・・。

「カインとアベル  1904年」
彼は有名作家の作品「カール・マイ冒険物語」のカバーイラストを
手掛けました。この物語は様々な土地へ主人公が冒険した壮大な
お話であるそう。人類最初の殺人アベルとカイン兄弟の挿絵が
描かれています。物語と一体どんな繋がりが・・・。

「カール・マイの冒険物語より  1905年」
人々が無意味に争い死体が転がる中、純白の翼を持った青年が
羽を手に持ち、うつむいています。「戦争は愚か。平和が悲しんで
いる」というメッセージなのでしょうか。

「カール・マイの冒険物語より  1905年」
角を生やし、鞭を持った女性が奥を指さし、足元にはにょろっと
したものが横たわっています。圧倒的に男性を描いた作品が
多い中、女性もちゃんといました。

「カール・マイの冒険物語より  1904年」
嘆く男性二人の頭上に飛来してくる、髑髏の顔をした恐ろし気な鳥。
この生物は死の使いなのでしょうか?

「Triumph of the Woman, 1920年」
古代ギリシャの彫刻を思わせる、セクシーな女性。しかし、
その足元にはのたうつミミズ状の化物と、それに襲われる男性達。
悪女をイメージした作品なのかな?
それにしても女性の肉体がムキムキしている・・・。

「地獄でのキリスト  1900年」
新約聖書より。辺獄(地獄とも)に降り立ったキリストは人々を
救済し、天国へと引き上げたという物語。左側は救世主に助けを
求める人々、右側はやられる怪物達が描かれています。
さり気に蛇さんをふみふみしています。


「A Reunion, 1900年」
「再会」という題ですが、死後の世界を描いていますね。命を落とし、
キリストの元へ来た男性。彼は金貨を差し出すものの、拒否られて
地獄へと落とされようとしています。女性の衣服の目はエジプトを
想起させ、構成的にもオリエンタルな雰囲気があります。

「War Cry 1915年」
「戦争の嘆き」という題名。彼の吹くホルンは戦争の始まりを告げる
のか、はたまた戦争の激しさそのものを表しているのか。
北欧神話では最終戦争ラグナロクの際、ヘイムダル神が
ギャラルホルンという角笛を吹くとされ、それを想起させる作品です。
War Cry 1915

「Mammon and His Slave  1896年」
「悪魔マモンと奴隷」という作品。マモンは富や不正な財を司る悪魔
であり、カラスのような顔をした者は金貨を垂らし、奴隷を操って
いるようです。「再会」の作品にも金を悪とする描写があったので、
彼は財産に苦しんでいたり、憎んだりしていたのかしら・・・。

 最初サシャ・シュナイダーさんの作品を観た時、「やたら男性の肉体美が多いような。ボディービルダーのようなムッキムキの筋肉を描いた作品もあるし、女性がほとんどいないなぁ」と思っていました。この記事を書くに当たり、彼の生い立ちを調べてみると、何故なのか納得しました。シュナイダーさんは挿絵などのお仕事以外にも、様々な悩みや葛藤を作品として残していますが、芸術の一番の原動力は男性の筋肉を「美しい」と思い、それに魅せられて「最高の肉体を追究する!」という意気込みだったのかな、なんて思ってしまいました。ボディービルダーの育成所まで作ってしまうのだから、本格的すぎます。
 ちょっと掲載するには前側がフリーダムすぎるものがあり、ご紹介できない作品もありました。他の作品をもっと見たいという方は以下のリンクからどうぞ^^

→ サシャ・シュナイダーの他の作品を見たい方はこちら<英語wiki>

→ ガニュメデスについての絵画を見たい方はこちら
→ 英雄ジークフリートについての絵画を見たい方はこちら
→ 辺獄へと降りるキリストについての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    サシャって女性っぽい名前ですよね。
    私も進撃を知っているし、オリキャラに「サーシャ」という女性がいるので、男性の名前だとどうも違和感を覚えてしまいます^^;
    サシャ(サーシャ)はロシアやドイツだと一般的な名前で、男性名アレクサンドル、女性名アレクサンドラの愛称に使われるようです。
    早くも悪魔パペット芸人の魔力にやられてしまいましたね!(笑)

  2. 美術を愛する人 より:

    >>9
    ご返信ありがとうございます!!
    自分のコメントを見返して、何でハンドルネームを「進撃の巨人をそこそこ愛する人」にしたんだっけー?
    と考えていたら思い出しました。
    進撃の巨人のサシャと同じサシャだから、最初、サシャ・シュナイダーは女流画家なのかと思っていたのでした(笑)
    それも書こうと思っていたのに、悪魔パペット芸人の名前を考えててすっかり忘れていたのでした(°∀°)

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    時代や職務の偏見に板挟みにされて生きるのは辛い事ですよね…。
    シメオン・ソロモンも同性愛の方だったのですか!
    (今調べてみたら、その罪で逮捕されて没落の道を歩んでしまったのですね。サッフォーの作品を手掛けていたのに納得です)
    「芸術品は美術館や博物館のもの」というイメージが昔の私にはありましたが、オークションに有名画家の作品が出回ることもままあるのですよね。
    オークション界は疎いので、世界でどんな作品が出回っているのか調べてみたいなぁと思います^^

  4. 管理人:扉園 より:

    >> 進撃の巨人をそこそこ愛する人様へ
    こんばんは^^
    進撃はアニメの方を見ています♪原作の方はそろそろラストかな?
    いえいえ、どういたしましてです^^
    リクエストコメントをいただけた、ユダの記事の作品ですね!
    ユダを完璧に悪者としている作品が多いのに対し、シュナイダーさんはユダを悪としながらも、罪の意識に苦しみ、懺悔している存在として昇華しているような気がします。
    茨と断罪の道を歩むユダに共感する部分があったのかもしれませんね。
    日本人なら誰でも思っちゃいますね(笑)
    バフォメットマンマセットのコンビ!
    あのシャーマンの扮装で悪魔パペット劇をやってくださったら、間違いなく見に行きたいですw

  5. 美術を愛する人 より:

    この時代のセクシャルマイノリティーは特に生きづらかったんじゃないでしょうか?
    そういえば、ほぼ同時代にシメオン ソロモンというやはり同性愛者の画家がいるようですね。昨年オークションでいくつか出品されてからイギリスを中心に人気が出てるらしく、最近注目してます!

  6. 進撃の巨人をそこそこ愛する人 より:

    わーい!!
    またしても、こんなに早くリクエストにお応え頂き、ありがとうございます(*^^*)
    過去の記事で、地獄に堕ちたユダを描いたサシャ・シュナイダーの作品を見て、
    「うーわ!!ばりカッコいい!!」と思ったのでした。
    「シャーマン」の絵が、パペットマペットみたいだなぁ(°∀°)と思ったら、やはり皆さんも同じように思っていたのですね!!
    なんとなく、両方とも悪魔っぽいので、
    パペットマペットならぬバフォメットマンマセット(マスティマ)というコンビ(?)名だと思います(笑)

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    安定感!そう言われるまで気付きませんでしたが、人物を見るとポーズや姿勢が「カチッ」としていますね。
    マモン凄く背筋が良いし、土下座する人もビシッと不動している感じ。
    緊張感の中に安定が潜んでいるように思います。
    私もボディービルダー育成所を知った時「そこまでやるか!」と執念を感じましたw
    ギリシャ時代風のムキムキ師匠に弟子が筋肉について(?)教えている作品もあり、シュナイダーさんは強さを教えるという事にも興味を持っていたのかなと思いました。

  8. 管理人:扉園 より:

     >> フリーダムの脅威はキュベレーあわわに勝るっ?!様へ
    こんばんは^^
    女性崇拝キュベレーVS男性崇拝シュナイダー!
    彼の肉体美への熱意は、女神様のあわわパワーをも上回るかもしれません…!←ぇ
    偏見かもしれませんが、厳格で秩序立った近代ドイツで培った雰囲気を持っているような気がします。
    シュトゥックもドイツ出身でしたね。
    禁じられていた事をしたからこそ有名になった部分もあるかもしれませんが、禁じられているのに愛は止められないという、強い葛藤や鬱屈、矛盾を抱えていたからこそ、奥深い芸術が生み出せたように思います。
    画家だけではなく、詩人や小説家、音楽家や政治家など沢山みえますよね。
    当時に比べれば現代は生きやすくなってきたように思いますが、現代日本において婚姻は認められていないようなので、これからもっとフリーダムになっていって欲しいですね^^

  9. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    近代ドイツに漂う厳格さや重厚が感じられる絵ですよね。
    確かにゴヤと通ずるものがあるような気がします。
    その事件は「我が子を喰らうサトゥルヌス」でしたっけ…。
    フリーダムといえば、ミケランジェロも相当ですよね。
    システィーナ礼拝堂の「最後の審判」を見た教皇が「フリーダムすぎるわ!」と怒り、ミケランジェロの死後にヴォルテッラという画家がひたすら服を加筆する作業をやり、「ズボン作り」というあだ名を付けられたとか…。
    (さり気なくヴォルテッラさんが可哀想ですw)
    色彩的にも鮮やかでシャーマンだけ異彩を放っていますよね。
    「本当にシュナイダーさんの絵?」って何回も確認しました。
    あのパペットセットが売っていたらちょっと欲しいかも…(笑)

  10. 美術を愛する人 より:

    美しいですね!だんだん絵画の中の人の立っている姿に安定感を感じていきます…
    ボディービルダー育成所を作ったってなって「ちょw…///」と思ったんですけどこの安定感はそこまでの執念によるものだったりして

  11. フリーダムの脅威はキュベレーあわわに勝るっ?! より:

    ドイツ語圏の画家の絵もおもしろいですね。
    シュトゥックとかが描きそうな画風だなとも思いました。
    同性愛で有名なかたって結構いらっしゃいますよね。禁じられていたから嫌でも有名になっちゃうのでしょうか……
    ワイルドとか、ランボーとか……
    で、結局決裂しちゃうっていう……
    生きづらい時代だったのでしょう。

  12. 美術を愛する人 より:

    初めて聞く画家ですが、かなり重い感じの絵ですね。
    全体になんとなくゴヤ晩年の閉塞感と陰鬱さを思い出しました(そういえばゴヤにも前がフリーダムなのを塗りつぶしたような作品があった覚えが…)。
    その中でシャーマンの絵だけ、パペットマペットみたいでちょっと可愛く見えてしまいました。

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