フュースリの暗黒に塗り潰された絵画10選。夢魔が悪夢に引きずり込んでくる | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

フュースリの暗黒に塗り潰された絵画10選。夢魔が悪夢に引きずり込んでくる

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 ヨハン・ハインリヒ・フュースリ (ヘンリー・フュースリ) はスイス出身の、18世紀後半から19世紀前半に活躍したロマン派の画家です。
 彼はミケランジェロの作品に強く影響を受けており、ダンテの神曲、神話、シェイクスピアからテーマを得て描いていました。絵画は200点以上、スケッチは約800点が残っています。強い明暗を用い、不気味な怪物や悪魔が現れる幻想画を描いております。フュースリが絵を描き始めたのは20代半ば頃。それから頭角を現したのだから、相当の努力か才能があったと思います。フュースリは劇的なポーズ、シーンを好み、オーバーじゃないか?と感じられるポーズも描いていました。
 暗闇の中からふいに現われる悪夢のような作品、10点をご覧ください。

 

「ナイトメア(夢魔)  1781年」
一番有名な作品。眠っている女性を夜な夜な襲う不埒な悪魔と、
好色のシンボルである馬。この絵画は大人気となり、複製が作られ
貴族の館に飾られたそう。本当に悪夢を見そうですけど・・・。

「ナイトメア(夢魔)  1790-1年」
約10年後にフュースリは同じ主題を描いています。女性が半端なく反り、
悪魔がいやらしい表情になっています。馬の白目が不気味すぎます。

「武装頭のビジョンを受けるマクベス  1793年」
シェイクスピアの戯曲「マクベス」のシーンを描いた作品。
三人の魔女、その先の鎧頭が夢に出てきそうです。

「夜の老女―ラップランドの魔女  1796年」
おそらく幼児を生贄に捧げて、夜の老女という悪魔を呼び出そうと
している場面。子供に向けられる白い短剣が恐ろしい。

「ティターニアとボトム   1790年」
シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」に登場する妖精の女王ティターニア
とボトムを描いた作品。妖精パックがかけた魔法により、ティターニアが
下級労働者のボトムに恋をしてしまうという場面。

「目覚めると妖精に囲まれていたティターニア   1794年」
こちらも「夏の夜の夢」より、ティターニアとボトム。
女王にべたべたされて、恥ずかしそうなロバ頭のボトム氏がなんだか
可愛く見えます。

下部の怪物がなんとなく気になります(笑)
もしかして妖精パック?
Titania Awakes Surrounded by Attendant Faries

「槍でサタンを刺そうとするIthuriel  1779年」
ミルトン「失楽園」より。
天使ガブリエルとIthurielがサタンを追跡しているシーンと思われます。

「ベルゼブブを召喚するサタン  1802年」
サタンを敵としての悪魔ではなく、崇高な人格を備えた存在として描いた
のはフュースリが始めてだそうです。のびのびとしたポーズ!

「ヨルムンガンドを釣り上げるトール  1790年」
北欧神話より。ヒュミルと共に釣りに出かけた雷神トールは、世界蛇
ヨルムンガンドを釣ってバトルを繰り広げます。

「沈黙  1800年」
夜中に見たらぎょっとしてしまうほど、不気味に感じる絵画。
恐怖、不信、無力感を表した作品。本当に沈黙してしまいそう・・・。

 絵画だけを見ていくと「病んでるのかな?」と心配になるような暗黒さですが、実際はユーモアを持ち合わせた聡明で社交的な人だったそうです。新古典主義が歴史のありのままの姿で描こうとしているのに対し、ロマン派であるフュースリは目に見えない、無意識の恐怖を描こうとしました。無意識からポツンと現れ出て来た何か。それが夢魔や悪魔、魔女であったり、不気味な怪物であったりするのではないでしょうか。

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> ちょっと気になったので様へ
    またのコメントありがとうございます!
    確かに…。ロマン主義と新古典主義は対極にある存在で、ロマン=理想、情熱、新古典=現実、理性のように考えていましたが、新古典主義も人間の理想や誇張が入り込んでいるんですね。
    マラーの死も実際はあんな劇的というか、上手に死んでいないわけで、わざと英雄風に描かれているところは誇張と考えられますね。なるほど。
    私は中世ルネサンス、バロック時代の方ばかりで、近代になると疎いんです…。もっと勉強しなくては。
    ダーク系の美術についての情報が余りなかったので「自分で作ってしまおう!」と始めたブログですが、そう言った造詣の深いコメントを下さると、勉強になりますし、本当に嬉しいです!^^

  2. ちょっと気になったので より:

    こんばんは。またまたコメント失礼します。
    ここにもシェイクスピアがありましたか。
    ロマン主義の絵とシェイクスピア、なんかお似合いの組み合わせのような気がします。ランス美術館展の二作もそうでしたし。
    最後のまとめの段落について、
    新古典主義は、確かにロマン主義のような劇的な誇張はないかもしれませんが、また別の種類の誇張がありますね。アングルの描く女性のラインとか、ダヴィドの描くイケメン・ボナパルト&マラーとか。
    (なんてことを私が考えられるのも、そもそもはこのようなウェブページで絵画を閲覧できるおかげなのですが。普段は割と印象派ばかり観に行っているので、こういうところで他の知識を増やしたりしてます(笑))

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