ベアトリーチェ・チェンチの絵画11点。父の乱暴ゆえに殺害し、処刑された悲劇の少女 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ベアトリーチェ・チェンチの絵画11点。父の乱暴ゆえに殺害し、処刑された悲劇の少女

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 ベアトリーチェ・チェンチ(1577-99年)はローマの貴族で、父親を殺害したとして処刑されてしまった悲劇の女性です。
 父親はフランチェスコで後妻はルクレツィア・ペトローニ、兄はジャコモ、末弟はベルナルド。一家はイタリアのローマにあるチェンチ宮に住んでいました。フランチェスコは周囲から暴力的で不道徳とみなされていましたが、貴族という階級により罪を免れていました。父は息子と妻を虐待し、ベアトリーチェに乱暴を働きました。彼等は被害を訴えましたが、裁判局は何も動いてはくれなかったのです。思い詰めた結果、彼等は父親を殺害する事を決意します。

 1598年、フランチェスコに麻薬を盛って殺そうとするものの失敗。やむなく家族は金槌を使って父を殴り殺してから、遺体をバルコニーから落としました。彼等は事件を隠匿しようとしましたが、殺人がばれてしまい、有罪で死刑を宣告されてしまいます。恩赦を主張したローマの人々の努力も虚しく、サンタンジェロ城の橋で兄ジャコモは四つ裂きの刑に会い、ルクレツィアとベアトリーチェは斬首の刑に処されてしまいます。末弟のベルナルドだけが罪を免れたものの、家族の処刑を見せられたとされています。

 そんな悲劇の家族の話は周囲に広まり、グイド・レーニ(または Elisabetta Sirani)派の人はこちらを振り返る薄幸そうなベアトリーチェ・チェンチの肖像を描きました。すると、何名かの画家がこちらを見つめる眼差しや儚い雰囲気に魅了され、類似作が生まれるようになりました。この作品により、彼女の名が後世に伝わったと言っても過言ではありません。
 では、ベアトリーチェ・チェンチに関わる絵画11点をご覧ください。1点だけ閲覧注意がございます。

 

「グイド・レーニかElisabetta Sirani の追随者作  1662年頃」
口元に微笑みを浮かべながら、こちらを見つめる少女。この可憐な姿
からは父の殺害者だとは想像付きませんね。白頭巾と衣服は
死刑の際の装束であり、死が間近に迫っている事を告げています。

「グイド・レーニの工房作  18世紀」
この少女の反響は大きかったようで、工房の中で同様の作品が
描かれています。しかし、表情や質感、雰囲気などは全く異なり、
やはり元のベアトリーチェの方が魅力的に感じてしまいますね。

「グイド・レーニの追随者作  19世紀」
こちらは装飾品に描かれたと思わしき、チェンチの肖像。
影を背負った薄幸そうな少女といった雰囲気はなく、少女漫画の
ような感じになっておりますね。

「Achille Leonardi 作  1800-70年」
ベアトリーチェの肖像から200年近く経って描かれた作品。
殺人容疑で捕まった彼女の他に、牧師や画家、役人がいるようですね。
容姿や向きは紛れもなくあの絵画を踏襲しております。

「Giovanni Agostino Ratti 作(?)  18世紀」
こちらも上の作品と似た構図をしております。18世紀頃は死刑判決を
受けた者が肖像画を所望する事はあったようですが、16世紀にも
あったのでしょうかね・・・?こちらのベアトリーチェさんもあのお姿です。

「 チャールズ・ロバート・レスリー作  1853年」
この画家は伝統的な少女の姿ではなく、暴力的な父親に怯える家族
を劇的に描いています。ベアトリーチェを支えるのが妻ルクレツィアで、
奥にいるのが兄ジャコモ、幼い少年がベルナルドです。

「作者不詳  1884年頃」
正当防衛とも言える殺人で、ローマ市民は恩赦を望みましたが、
ローマ教皇クレメンス8世は非情にも死刑を選びました。定かでは
ないものの、チェンチ家の財産を手に入れる為に死刑判決をしたとも
されています。それが本当なら鬼畜すぎる教皇。

「作者不詳  1884年頃」
1599年、サンタンジェロ城の橋の上で処刑が行われました。
兄、継母、ベアトリーチェは殺され、末弟は命は助かったものの、
眼前で刑が行われたのです。彼女の年齢はまだ22歳でした。

「作者不詳  1884年頃」
ベアトリーチェの生首を持つ処刑執行人。彼等の処刑はローマの
人々にかなりの抗議を受けました。力で服従を迫る父を殺した彼女は、
ローマの人々にとって貴族階級への反乱者の象徴となったそうです。

「ロレンゾ・バレス作 1831–1910年」
画面右中央辺りにベアトリーチェが横たわっています。人々の噂に
よると、毎年 処刑前夜の日に、ベアトリーチェの幽霊が自分の生首を
持って橋に現れるそうです。成仏できたのかな・・・。
彼女はサン・ピエトロ・イン・モントリオ教会に埋葬されたとされています。

「Hal Mansfield Murray 作 1887年」
ベアトリーチェ・チェンチの事件は絵画だけではなく、文学や音楽、
映画の世界でも扱われています。この絵画はパーシー・ビッシュ・シェリー
による戯曲「チェンチ」より。女優アルマ・マレーが扮しているそうです。

 グイド・レーニ(またはElisabetta Sirani)の追随者作のベアトリーチェ・チェンチの肖像は、あのヨハネス・フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」の元となったともされています。容姿こそ違うものの、こちらを振り向く仕草、目線、少しほころんだ口など、どことなく構図や雰囲気が似ていますよね。耳飾りの少女は実在の人物ではなく、フェルメールの想像の中の理想の少女と考えられています。暗闇の中に今にも消えそうな、可憐でいたいけな姿が人々の心を打つのかもしれませんね。

 また、2018年10月にはかつてない最大規模のフェルメール展が開催されます。なんと作品8点が来日するそうですよ。今年はフェルメールの年になりそうですね!

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    ベアトリーチェさんと比べると、真珠の耳飾りの少女は余裕があるというか、裏があるような瞳にも感じてしまいますよね。
    権力を笠に着て、後妻とベアトリーチェさん、息子に暴力を働く父親は本当に卑劣漢としか言いようがないです。
    彼女が殺人という手段に出たのも納得できることと感じます。
    どこか温かい家庭の中で生まれ変わって、平和な人生を歩んでいて欲しいですね…。

  2. 季節風 より:

    フェルメールの真珠の首飾りの少女があざとい表情で好きでないです。
    いたいけなベアトリーチェさん肖像画のパクリだったかと知り溜飲が下がる←なんでなん。
    当時は父親に逆らうとか貴族の令嬢が家出とか出来ないし。
    正当防衛だと民衆が味方したのは救いです。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    「私は悪くないのに!」と訴えても良さそうなのに、決して悲しそうな表情はしておらず、運命を全てを受け入れるかのような穏やかな表情に余計に胸を打たれますよね。
    家族に暴力を振るい、娘に手を出すなんて本当に非道な父親ですが、虐待に耐えかねて殺人を犯すのは現代でもあり得る事件ですよね…。
    ベアトリーチェさんが現代に生まれ変わっているのだとしたら、幸せになっていて欲しいです。

  4. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    「私は悪くないのに!」と訴えても良さそうなのに、決して悲しそうな表情はしておらず、運命を全てを受け入れるかのような穏やかな表情に余計に胸を打たれますよね。
    家族に暴力を振るい、娘に手を出すなんて本当に非道な父親ですが、虐待に耐えかねて殺人を犯すのは現代でもあり得る事件ですよね…。
    ベアトリーチェさんが現代に生まれ変わっているのだとしたら、幸せになっていて欲しいです。

  5. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    「私は悪くないのに!」と訴えても良さそうなのに、決して悲しそうな表情はしておらず、運命を全てを受け入れるかのような穏やかな表情に余計に胸を打たれますよね。
    家族に暴力を振るい、娘に手を出すなんて本当に非道な父親ですが、虐待に耐えかねて殺人を犯すのは現代でもあり得る事件ですよね…。
    ベアトリーチェさんが現代に生まれ変わっているのだとしたら、幸せになっていて欲しいです。

  6. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    「私は悪くないのに!」と訴えても良さそうなのに、決して悲しそうな表情はしておらず、運命を全てを受け入れるかのような穏やかな表情に余計に胸を打たれますよね。
    家族に暴力を振るい、娘に手を出すなんて本当に非道な父親ですが、虐待に耐えかねて殺人を犯すのは現代でもあり得る事件ですよね…。
    ベアトリーチェさんが現代に生まれ変わっているのだとしたら、幸せになっていて欲しいです。

  7. オバタケイコ より:

    悲惨な運命ですね。。。
    元の絵の彼女、自分の運命を呪うでもなく、諦観と寂ししさが漂っていますね。今も昔も非道な人間は大勢いたのですね。
    とても美しい人だけに余計憐れみを誘いますね。

  8. 管理人:扉園 より:

    >> フェルメールのパロディを描いてしまった人様へ
    このようなサイトがあるとは知りませんでした!
    リュウグウノツカイ×フェルメールは斬新ですね。
    深海生物好きの私としては嬉しい、素敵な作品です^^
    たくさん絵を描いてみえたのですね。
    アラクネ&モロー&ルドンの作品も良いし、ヘルメスも可愛いです…w
    これからもこっそり見させていただきます(ノωノ)

  9. フェルメールのパロディを描いてしまった人 より:

    フェルメールのパロディ、一応公開してまして……
    こっそり、URL 置いていきますね。
    https://22105.mitemin.net/i292676/

  10. 管理人:扉園 より:

    >> フェルメールのパロディを描いてしまった人様へ
    こんばんは^^
    フェルメール来日しますよ~♪
    数少ない作品の中から8作品来るなんて、物凄いと思います。
    今年も豪華な展覧会が多いですよね。ムンク展もあるそうですよ。
    あわわ、本当だ!Σ(゚Д゚;)
    かなり恥ずかしい…。直ぐになおしておきます!
    …ところで、パロディってどのような感じでしょうか?(ボソリ)笑

  11. フェルメールのパロディを描いてしまった人 より:

    ふぇ、フェルメール来るんですか、
    今、ここで知りましたっ。
    8作品ということは、フェルメール作品の何割がくることになるのだろう……
    ベラスケスにターナーに、観に行きたいものがたくさんありすぎます^^;
    来年の世紀末の展覧会も、今から楽しみにしていて……
    ところで、「耳飾り」が「首飾り」になってますよ(ボソリ)

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