眠る子供の絵画13点。天使やクピド、イエス、死などの象徴として眠る無垢な子供達 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

眠る子供の絵画13点。天使やクピド、イエス、死などの象徴として眠る無垢な子供達

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 すやすやと気持ちよさそうに眠る幼い子供。多くの人はその子を愛らしく感じ、世間の垢にまみれていないピュアな存在であるように思うのではないでしょうか。幼い子供は現代でも純粋無垢の象徴とされていますね。
 それは過去の西洋でも同様で、子供は純粋の象徴として、神の使いである天使や、愛を司るギリシャ神話の神クピド、人類の罪をあがなったイエス・キリストの化身として描かれることがあります。そして、無防備な「眠り」も無垢に結び付けられ、眠る子供というテーマが何名の画家によって描かれました。

 また、子供は誕生したばかりの存在として「生」の象徴とされる反面、出生して直ぐに命を落としてしまう可能性がある、もしくは生の表裏によって「死」のテーマにも登場します。眠る子供は死と結びつけられ、頭蓋骨や砂時計、花などと共に描かれました。
 では、様々な象徴となって眠る子供の絵画13点をご覧ください。

 

「アントニオ・ズッキ作  1726–96年」
こちらは象徴性がない純粋なる子供さんの絵。
お仕事に疲れて眠ってしまった子に対し、お鼻をこちょこちょして
イタズラをしようとしているようです。可愛いですね^^

「ローマの工房作   18世紀」
背中には翼が生えているクピドか天使の子供が、手に蟹を持って
私達に「しーっ」としています。その蟹はすやすやと眠る同年の子に
向けられており・・・。過激なイタズラですね^^;

「カラヴァッジョ作  1608年」
この眠りはまるで息を引き取ったかのように見えますね・・・。
背には翼が生え、手には矢を持っているのでクピドでしょうか。
弦は緩み、愛を与えるのに絶望してしまったかのようです。

「フランチェスコ・アルバーニの工房作   1578-1660年」
三人のクピドが団子になって眠っています。遊び疲れたのかな?
クピドの遊びは矢を乱射することだったら、周囲は喜劇や悲劇の
恋愛のオンパレードと化したのかしら・・・。

「フランチェスコ・アルバーニ作  1578-1660年」
すやすやと穏やかに眠る子供の下には分厚い十字架が。
キリストの純粋性、子供のように清らかな魂の存在が磔刑に処されて
しまうという悲劇性が表されています。

「バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作  1617-82年」
こちらも眠る幼子キリスト。
寝ている子供であっても威厳を感じさせられますね。

「フィレンツェの工房作   17世紀」
他の作品よりもちょっと育ってしまいました。すやすやと眠る、
美少年の天使。子供や天使の純粋性、神秘性よりもセクシー路線に
走ってしまったかのようですね・・・。

「イギリスの工房作  19世紀」
気持ちよさそうに眠る女の子の様子を見に来た二人の天使。
守護天使さんかな?もしくは夢の中で一緒に遊ぶのかな?

「レオン=バジール・ペロー作  1832-1908年」
可愛らしい天使さんですね。画家の「天使として子供を描く」のでは
なく、「子供を天使として描く」という意思が感じられます。
ふわふわの雲の上で気持ちよさそうです・・・。

「レオン=バジール・ペロー作  1832-1908年」
レオンさん二枚目。純白の翼に輝く後光。愛らしい寝顔。
この絵画からマイナスイオンが出ているような気がしてきました・・・。

「ボローニャの工房作  17世紀」
 一転変わって暗い作品。眠る絵画は愛らしいだけではありません・・・。
子供は生の象徴ですが、そんな存在でも死は免れないといった風に、
メメント・モリやヴァニタス(空虚)のテーマともなりえるのです。

「フランスの工房作  17世紀」
頭蓋骨の上にじっとうつぶせになっている赤子。
当時だと乳児死亡率が高く、出産してすぐに亡くなる子供も多くいた
ことでしょう。希望に満ちた存在である子供に潜む死の恐怖。
無常にも時を刻む砂時計。ぐっと胸に来る作品です。

「Luigi Miradori 作  1605-56年」
口を大きく開けた頭蓋骨を抱き、すやすやと眠る美しい子供。
レオンさんの天使のような愛らしい子供も素敵ですが、この作品も
魅力的です・・・。

 この記事を書いて、西洋の平均寿命や乳児死亡率について気になったので少し調べてみました。参考させていただいたのは「近世ヨーロッパの人口動態」という論説です。
 「17世紀頃の平均寿命はフランスでは25歳以下、イギリスでは32歳、ドイツのブレスラウでは27.5歳ほどであった。60歳を超えている者はまれであった」
 想像より低いと思いましたね。私は当時の時代の画家の年齢の方を知っており、50~60歳の画家が多くいたので、個人的には寿命が40~50歳の間だと思っていました。身分や立場の違いもあると思いますが、30歳前後までとは驚きました。

 「世界の美術館」様の「美術の皮膚」というコラムでは、画家の平均寿命を計算してくださっており、15~17世紀の寿命が59~64歳となっていました。私の想像より斜め上をいっていました。画家ってかなり長命なんですね・・・。ミケランジェロ(89歳)、ティツィアーノ(88歳)、ルーカス・クラナッハ(81歳)なんて、周囲の人々から見たらバケモノレベルに思われていたのでしょう。

 乳児死亡率は、「17世紀のジュネーブでは、1000人の乳児のうち、満1歳の誕生日を迎えることができた者は、上層では792人、中層では697人、下層では642人だった。さらに10歳になる前に100~200人ほどが命を落とした」そうです。実に20~35%くらいの乳児が1歳未満に亡くなってしまったのですね。更に10歳を超える頃には50%近くの子が亡くなってしまっているなんて・・・。多すぎる。
 それを知りつつ眠る子供の作品を鑑賞すると、当時の人々の祈りや願い、虚無が伝わってくるようですね・・・。

→ 「近世ヨーロッパの人口動態」はこちら<PDF>
→ 世界の美術館様の「美術の皮膚」のコラムはこちら

→ ヴァニタスについての絵画を見たい方はこちら

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    なるほど。約30歳が平均だから全体的に生存年齢が低いというより、子供の死亡率が多いから平均を下げているという可能性もあるのですね。
    現代だと高齢化が進み、老人の比率が多いですが、当時では子供の比率の方が遥かに高かったというのも関係がありそうです。
    医療が発達していない時代では、些細な感染症や怪我なども命取りの場合があったのでしょうね…。
    当時の西洋ではミニ氷河期が到来して、かなり寒い気候だったのも免疫を下げる一因だったのかもしれません。
    インフルとかかなり流行りそう…。
    調べてみたら葛飾北斎は88歳でした。
    ティツィアーノと並ぶご長寿ですね!
    画家は免疫力が強い人が多いのかも^^

  2. 美術を愛する人 より:

    大変興味深い内容で勉強になりました。平均年齢が低いというよりは、当時は子供をたくさん産んで、みな大人になる前に亡くなっていく…大人になれば5.60歳までは生きられるけど、平均で見ると低くなっているのかもしれませんね。現代では当たり前になってる、感染症に対する予防接種がなかったのも1つの原因かなと思います🤔
    それでもティツィアーノやミケランジェロはすごく長寿ですね(笑)日本だと葛飾北斎が長生きしてたような。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    中世ルネサンス時代の農民はそのような思想であったようですね。
    子供という概念がなく、未熟な大人という扱いだったと私も書籍で読んだ覚えがあります。
    農民の方が薄情というわけではないですが、生活が苦しく死が身近にあったからこそ、富裕層よりも子供に厳しくしなければならなかった部分があるのでしょう。
    ソロモンの審判のように、自らの命を投げ捨ててまで子供を守ろうとする母親はどこの時代にもいたと感じます。
    「睡眠」と「死」の区別って難しいですね^^;
    私はコメントを書いているうちに、段々と判断ができなくなってきましたw
    影や肌の質感以外にも、背景の明暗や象徴、ポーズも関係ありそうです。
    カラヴァッジョの子供は背景が黒く血色が悪く、全身が弛緩していてあからさまに「死」を連想します。
    子供が数名いたり、微笑んでいたりする絵画だと「眠っている」ように感じられます。
    十字架のイエスだったり、ヴァニタスの子供だったりは、血色があって完全に弛緩したようなポーズではないので、眠っているようにも見えますが、象徴が「死」なので死んでいるように見える。
    何を言いたいか自分でもよく分かりませんが、個人的には背景の描写と肌の色味、ポーズで判断されるのかなぁ…と感じます。
    あと、下記の方が仰られたように、「孤独」も関係がありそうです。
    親の保護が必要な年齢の子供が一人ぼっちで裸で眠っている。
    このシチュエーションも判断材料の一つかもしれません。

  4. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    眠りと死の繋がりは深いですよね。
    子供がいかに可愛くとも、背景の黒や十字架はそれだけで「死」を連想させます…。
    私はレオンさんの愛らしい天使は健やかに眠っているように見えましたが、鑑賞によっては安らかに天上に召され、子供が天使となったと解釈する方もみえそうです。
    そう考えると、眠りと死の垣根が分からなくなってきました…。
    確かに聖母子像に死は感じられません。
    幼い子供が服を着ずに一人ぼっちで眠っていると、それだけで不安を覚え、死を感じさせる部分があるものなのですね。

  5. 美術を愛する人 より:

    昔は子供はすぐ死んでしまうし、社会的にも子供を子供として「守ってあげなきゃ!」と慈しむ習慣は今より薄かったとききます。
    王族などは別として、子供は「小さくて道徳を知らない働けない大人」みたいな扱いで子供服みたいなのもなかったとか。
    でもやっぱり子供の死は多かれ少なかれ悲しかっただろうし、絵画を見る限り子供の存在に何かしらの意味は見出していたと思います🤔
    さて絵画ですが、作品によって可愛らしい寝顔にしか見えないものと、「し、死んでる…!?」と疑えるものが割と分かれているように感じます。
    影とか血色、肌の質感でしょうか??
    素人ながら、どういう視覚効果で「生きてる」「死んでそう」が判断されるのか知りたいです!
    あとみんな寒そう!😣

  6. 美術を愛する人 より:

    クピドでも幼子イエスでも子供だけ単独で寝ている絵にはそれだけで死の不穏さを感じてしまいます。
    聖母子像のような、親や大人の保護下にある子供が眠る絵画は微笑ましいのですが……
    せめて毛布やおくるみでしっかり守られている描写があれば違うのかも(ラトゥールの聖母子像のような)。

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